38 後始末と出発準備

 遺跡の現場で指揮を執っていたバーナー卿は、ほどなくしてタケルたちの元へと駆けつけた。そこにはタケルたち三人と、気絶した男(のちにギナックの侍従と判明)、それにギナックと妻の死体があった。


「詳しくは調べてからとなりますが、ギナック卿とその奥方は高出力レーザーで撃たれたものと思われます」

 バーナー卿が真っ青になってエルナに許しを請うた後、状況報告を始めた。

「ギナックとその妻、そして帝国の財産たるFVを攻撃した何者かは、何らかの方法で帝都に侵入、攻撃を仕掛けた後またいずこかへ消えました」

「帝都に侵入を許すなど由々しき事態、軍としても全力を挙げて捜査しています」

バーナー卿と同じく、遺跡の包囲指揮を執っていたミノー伯爵ヴァルト統合幕僚長補佐が補足した。

「ここ百年ほどは大きな戦争もなく、平和に慣れすぎているのかも知れません。これを機に綱紀粛正を計って行きたいと考えております」

「警察機構も同様です。このような結果になってしまいましたが、タケル殿の行動がなければギナックたちをそのまま逃していたかも知れません」

「いや、ボクは勝手にやったことですし、却って迷惑をお掛けすることになって申し訳なく思っています」


 駆けつけた騎士団らによって鎮火したFVは、昇り始めた朝日の中に無残な残骸を晒していた。

「なんでこいつまで撃ったんだろう?」

『いや、私たちも攻撃されたぞ?気が付かなかったのか?』

 未知の敵はタケルたちも攻撃していたが、タケルの強化服に新たに組み込まれた多層力場防壁をドナリエルが起動したことで、折り重なって倒れた三人には傷一つ付かなかったのだ。タケルは万が一を考え、強化服の操作権限をドナリエルにも与えていた。それが功を奏した形だ。


『FVの爆発は、レーザーが偶々バッテリーを直撃したためだろう。私はレーザーの出力そのものはそれほど大きくないと考えている。敵は、せいぜい連絡艇シャトル程度の大きさしかなかったのではないかな?その程度なら、部品をばらして地表に運び、見つからずに組み立てることも可能だろう』

「でも、強化服の探知装置には引っかからなかったぞ」

『小型の遮蔽装置クローキング・デバイスを使ったのかも知れん』

「そのこと、バーナー卿には?」

『姫様を通じて、すでに伝達済みだ』

 警察機構には、がんばって犯人を捕まえて欲しい。おそらくはその連中もすべてを知っているわけではないのだろうが、黒幕に近づくヒントくらいは得られるかも知れない。エルナの安全のためにも、すべてを明らかにしたいとタケルは思う。しかし、エルナ皇女暗殺未遂事件は、もっと大きな陰謀の始まりに過ぎなかった。彼らがそれを知ることになるのは、ずっと後のことだ。


                ◇


 ギナック事件が起きたため、学術星系オーウェルト=ドーンへの出発は大幅にずれることになった。

「折角だから、オーウェルト=ドーンだけでなく、他の星系も見てくると良いだろう」

 皇帝のその一言で、タケルとエルナは帝国内の星系をいくつか、約半年を掛けて巡ることとなった。タケルをさまざまな銀河文明に触れさせるという配慮も、皇帝は持っているのだろう。タケルにしても望むところであるし、なによりエルナと一緒にいられるのだから文句は言えない。

 旅行には完全修復、かつ安全対策を向上させた《ミーバ・ナゴス》が使われる。乗務員の欠員に関しては、軍と騎士団から補充があった。他にも、ミルヴァール皇女とエイダ皇女も助っ人を送ってきてくれた。

第一皇女専用艦ミーバ・ダントから参りました、カトルナです」

第二皇女専用艦ミーバ・エト3」より参上つかまつりました、ノーエンです」

 数名の部下と共に上船してきた彼らは、元々それぞれの皇女専用艦で常務に当たっていたプロフェッショナルだ。《ミーバ・ナゴス》の正式な乗員が見つかるまで、助けてくれることになっている。カトルナは航法管制担当、ノーエンが通信担当を担うことになった。ドルーク君もお役御免で胸をなで下ろしていることだろう。

 乗員以外で旅行に同行するのは、賢人ドーアとテオール・ベルトラング伯爵ヴァルト豊満スイカップ女医だ。二人とも学術星系まで同乗する予定だ。

「久々に、師匠たちにも会いたいのですぅ。経費、節約ですぅ」

 王家を担当する医師の一人であり、貴族でもある彼女の要望を無碍に断ることはできなかった。そして、同乗を願い出た貴族がもう一人。


『皇后陛下からお話は聞いたよ!星系を巡るならガルダント星系うちにも寄ってくれ。家族にも紹介したいしね!かならずだよ!ボクも旅の準備をして待っているからね!』

 ナルクリスからのメッセージであった。ガルダント星系はトワ星系に近いので、頻繁にメッセージのやりとりがある。やりとりされる膨大な情報の中から、タケルたちが旅に出ることを知ったらしい。旅に出るなら、なぜ自分のところに寄らないのか、そうナルクリスは言っているのだ。しかも、最後のメッセージによれば、どうやら彼も旅行に参加する気でいるらしい。仕方ない。いずれ一度はタケルもナルクリスの故郷へ行くつもりだったのだし、旅の連れが増えるのは悪い事じゃないとタケルは思ったが、エルナはお邪魔虫が増えることに、少々おかんむりだった。


 エルナたちが乗員や同乗者を決めていく中、軍や騎士団も、太陽系ソルでのような失態を繰り返すわけにはいかないと、万全の体制で臨むことを決めて手配を行っていた。《ミーバ・ナゴス》に先行打撃艦、《トーミバナベラ》と多目的艦、《ミーバナベラ》を随行させることになった。立ち寄る星系で、人員の交代も行う。皇女暗殺未遂事件を気に、組織を流動的に運用する機運が高まってきたようだ。エルナたちとは別に、組織内でも体勢の見直しが行われているという。

諸々の計画率案などのため、出発は事件から1ヵ月後となった。もちろんガルタは、出発までの間も旅の間もエルナにぴったりと張り付くつもりだ。タケルは空いた時間にベルトラング卿の検診を受けたり、図書館で銀河文明に関する知識を集めたりした。もちろん、《始祖》についても――。

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