17 《ミーバ・ナゴス》奪還
《ミーバ=ナゴス》奪還作戦は、スムーズに進んだ。
フラジが使った《ミーバ=ナゴス》のセキュリティ・バックドアを利用することで、ドナリエルはまたたくまにシステムを取り戻した。タケルとエルナは、船内に侵入すると二手に分かれた。タケルは
重力がない環境での行動に慣れていないタケルだったが、デボルからもらった強化スーツの助けもあって、スムーズにブリッジへとたどり着いた。キーバッドにドナリエルから聞いた番号を入力すると、ロックが外れてドアが開いた。ブリッジでは、6人の傭兵が倒れていた。ドナリエルがセキュリティのコントロールを正常化したことで、ブリッジにいた傭兵たちを敵と判断、即座に無力化したのだ。
「うわ……ボクいらなかったんじゃない?」
『さっさと武装解除せんか!いつ回復するとも限らんから注意するんだぞ』
ドナリエルの怒鳴り声が頭の中で響く。鼓膜を揺すぶられるよりも気持ち悪さは減ったが、その分、脳髄に直接電流が流されているような軽い痺れを感じる。
(がまん、がまん。エルナが帝国に戻るまでの我慢だ)
帝国に戻れば、そこで治療が受けられることになっている。タケルはあきらめとも取れる大きなため息をつくと、武装解除の作業に取りかかった。
一方、エルナも抵抗に遭うことなく船倉まで辿り着いた。物資の搬入を行うため、船倉のドアは大きい上、開けるには大きなレバーを横に倒す必要がある。エアロックにもなっているため、万が一の事故を防ぐためだ。
「よい――しょっと!」
ドアがゆっくりと左右に開いていく。船倉の中には、十数人の男女がいた。その目には、恐れと絶望の色が浮かんでいた――エルナがヘルメットを外すまでは。
「「姫様ッ!」」
数名の侍女が、エルナの顔を確認して飛んできた。
「よくぞ、ご無事で!」
「姫様が我々を救ってくださったのですか!すばらしいっ!」
思い思いに喜びと感謝の言葉を口にする。
その様子を横目で見ながら、数名の乗員が通路に飛び出していった。
「あっ!あなたたち、お待ちなさい!」
エルナの声は、彼らに届かなかった。
◇
ブリッジでは、タケルが武装解除に手こずっていた。無重量環境とはいえ、質量はそのままだ。しかもフラジの強化スーツは、力加減が難しい。うっかりして傭兵の身体を天井近くまで持ち上げてしまうこともあった。
「作用・反作用。高校の授業で習ったよなぁ」
『無重量環境下での行動など、帝国民なら子供でも完璧にこなすぞ?まったく、なっとらん!』
そんなことを言われても、地球で無重量を体験した人間は、ほんの一握りだと思う。そんな愚痴を呟いていると、ブリッジのドアが突然開いた。エルナか?と思ってドアの方向を振り返ったタケルの目に、手に手に武器を持った男たちの姿が映った。
セキュリティ・システムで無力化出来なかった傭兵か?ドナリエルには、それが乗員であることはすぐに分かった。
『タケル、乗員たちだ。殺すな』
強化スーツの自動回避機能で、乗員の攻撃をなんなく躱す。話しても通じなさそうな襲撃者たちに向かって、タケルは
◇
「すいませんでした」
機関部の主任という男が、代表してタケルに謝罪した。彼らは船倉の中に閉じ込められていた間も、船を取り戻す方法がないかと動いていたらしい。船倉から解放されてブリッジに急行してみれば、船を襲った“黒ずくめの男”がいたため、確かめもせず無我夢中で襲いかかってしまった、ということらしい。
「まぁ、この格好ならそう思いますよね。気にしないでください」
タケルの言葉に、深くお辞儀をする機関部主任。お辞儀の文化は共通なんだな。
すでに傭兵は、ブリッジ以外にいた者も含めて武装解除の上拘束し、船倉に閉じ込めてある。余計なことをされるのも嫌なので、ガスで眠らせたままだ。
「軍属の者は、みな殺されてしまったようですわ」
安置所代わりに使われていた食堂の冷凍庫で、死体を確認したエルナが沈んだ表情で呟く。殺されてしまった者の中には、《ミーバ=ナゴス》艦長を初めとするブリッジ要員が多く含まれていた。傭兵の中にもパイロットはいなかったらしい。これも暗殺を依頼した奴の布石なのだろうか。タケルにしてみれば、考えすぎのような気がする。
いずれにせよ、今いる乗員で《ミーバ=ナゴス》を動かさなければならない。エルナの随行員にも数名、小型の航宙艇ライセンスを持っている者がいたので協力してもらうことになった。機関部主任に後は任せて、タケルとエルナは
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