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「僕が火津木さんにつきまとう男と直接話をします。僕が同種の人間であることがわかれば、もしかしたら火津木さんを狙う理由を話してくれるかもしれません」

「で、でもそれじゃ笹岩さんが……それに男と直接話をするって言ったって」

「僕は人間です。攻撃される理由はありません。そして男は火津木さんの行く先に必ず現れるのだから、僕が火津木さんと一緒に行動していればいいわけです。現れたら火津木さんにどの人物か教えてもらって、後は僕が接触をすればいい」

 流谷さんは何か言いたそうな顔をしていたが、その口から言葉が出てくることはなかった。彼から言葉を引き継いだように、火津木さんが口を開く。

「あの……笹岩さんは、どうしてそんなによくしてくださるんでしょうか?」

「……え?」

「私達のせいで、その、お友達も泣いてしまって、それなのに、私につきまとってる男と直接話してもいいだなんて……」

(――あぁ、考えてみればもっともだな)

 けれど僕は知っているんだ。僕のそれとは比べようもないほどに巨大な、ある善意を。

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