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「ですが、僕はあなたを攻撃しようとは思いません。僕はあなたのような存在に何度もひどい目に遭わされました。知人にもずっと苦しめられてきた人がいます。でも――命を救ってもらったことも、あるんです。だからあなたが人を傷つけずに生きるのなら、僕もあなたを傷つけない」

 火津木さんは険しい表情のままうつむいていたが、やがて顔を上げると、口を開いた。

「わかりました……笹岩さん、私につきまとってくる男の人から逃げるには、どうすればいいでしょうか?」

(……火津木さんの行く場所に、必ずその男は現れる。そういえば、佐治さんも僕の居場所を正確に把握しているようなところがあった。特定の人物、またはトカゲの居場所を知ることができるような、特殊な方法があるのか……? いや、それとも)

「火津木さん、あなたがその男の人から監視されている、ということはありませんか?」

「……監視、ですか? それは、どういう」

「例えば盗聴器とか。もっと直接的な方法であれば、自宅を直接見張られているとか」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

 唐突に流谷さんの大声が響いた。

「盗聴とか見張るとか! 確かに志保は、普通の人とは違う……けど、悪いことなんて何もしてない! それなのにどうして見ず知らずの他人から狙われなくちゃならないんだ!」

「敦史! 落ち着いて……ごめんなさい、笹岩さん」

 流谷さんが取り乱すのも仕方のないことだろう。彼にとって火津木さんはトカゲではなく、非常に変わった体質なだけの人間であり、掛け替えのない恋人なのだ。その恋人が明確な理由もなく監視され、攻撃されているというのであれば冷静でいられるはずもない。

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