(――ここ、か)

 雪子さんから持ちかけられた家庭教師の話はとんとん拍子どころではないスピードで進展した。まず雪子さんから話を聞いた当日に、僕の携帯に家庭教師を探しているという例のお客さんから電話が入り、いつ来られるかと聞かれたため思わずいつでも大丈夫ですが、と答えてしまったところ、それじゃあ明日でもいいか、と言われ、反射的にはい、と答えてしまった。

 そうして僕は今、家庭教師として問題の女の子がいるという家の前に立っている。

(表札の名前は――うん、串矢になってる。ここで間違いない)

 白にところどころ薄いピンクが入った外装の、比較的新しい見た目の家だった。玄関に取りつけられたチャイムを鳴らす。インターフォンから女性の声が聞こえてくる。

[どちら様でしょうか?]

「こんばんは。笹岩楓と申します。家庭教師の件でお伺いしたのですが」

 僕がそう言うと、インターフォンの向こうの女性は沈黙した。若干の間が空いて玄関の鍵が開く音が聞こえ、扉が開いた。

「……こんばんは。どうぞお上がりください」

 出迎えてくれた女性の声は、インターフォンから聞こえたものと同じだった。外見からすると四十歳ほどだろうか。どことなくやつれているように見えるし、顔色もよくない。やはり娘さんのことで悩んでいるのかもしれない。

「お邪魔します。あの、串矢美輪子さん、でよろしいでしょうか?」

「……はい、そうです。笹岩さん、でしたよね。こんな急に来ていただくことになって、本当にすみません」

 そう言うと串矢さんは僕に深々と頭を下げた。僕は慌てて、

「そんな、頭を上げてください。お世話になるのはむしろ僕の方です」

「……僕?」

 串矢さんが不思議そうな声で言った。

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