「悪いけど、アタシは知らない。そもそもアタシは自然とトカゲを殺せるようになってたからこの仕事始めたわけだしね」

「そう、ですか」

 ならどうすればいいのだろう。佐治さんでもわからないとなれば、一体誰を頼れば――

「で、用事はそれだけ? ならアタシはもう行くけど」

 引き留めようとして、思い止まる。佐治さんが言っていることが正しいとすれば、これ以上何を話したところで駄々をこねているのと変わらない。

「……わかりました、相談に乗ってくれて、ありがとうございます」

 佐治さんは立ち上がると、少しの間その場で僕のことを見下ろしていた。

「どうか、したんですか?」

「え? あぁ、そうね、まぁこんなこと言うのもなんだけど、応援してるわ」

「……応援?」

「アンタがとりあえず自分の身を守れるだけの力を身につけてくれれば、こっちとしても一々呼び出されなくて助かるし、それに正直――アンタはいけると思うのよね」

 いける、というのはトカゲを殺す力を身につけられる、ということだろうか。

「何か、根拠があるんですか?」

 僕が質問すると佐治さんはブッフェンバウムの天井を見上げ、軽く息を吐いて、

「怯えてる――ような気がしたのよ。アタシの左目にいる居候が、アンタに対して、ね」

 そう言うと、佐治さんはスタスタと歩き、会計を済ませて出て行った。

(――怯えている? 僕に対して?)

 僕は注文を取りに来た店員さんにコーヒーを注文すると、そこから小一時間ほど佐治さんの言った言葉の意味について考え続けたが、結論が出ることはなかった。

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