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「ところで、相談に乗ってあげたんだから今度は私のお願いを聞く番よね? パン子」
唐突に思考を断ち切ってくる。というか、
「気になってたんですけど、そのパン子ってなんですか」
音からどうしてもパン粉を連想してしまってあまりいい気持ちではない。
「え、アンタの名字って笹岩でしょ? 笹に岩なんてもろパンダのイメージじゃない。で、最初はパンダ子にしようかと思ったんだけど言い辛いから略してパン子。わかった?」
経緯はわかった。だが、何一つ納得はできない。
「パン子はやめてください。なんだか馬鹿にされてるような気分になります」
「それはアンタがパンダにマイナスイメージ持ってるからでしょ。可愛いじゃない、パンダ。何が不満なの」
「――パンダは可愛くても、僕は」
僕は、可愛くない。そのことを認めようとすると、かすかだが正体のわからない負の感情が心の中に生まれた。これは、一体なんなんだろう。
「……なんかだいぶ重症みたいねぇ、アンタ。まぁいいわ。妥協してなるべくパン子って呼ばないようにしてあげる。それと、そろそろ本題に入るわよ」
なるべく、というところが全く信用できないが、それでも開き直られるよりはマシだ、と自分を励ます。
「なんですか、本題って、僕への頼みに関係することですか」
「当然よ。こっからちょっと歩いたところに花屋があるから、まずはそこに向かうわ」
花屋。そんなところに一体なんの用事があるというのだろう。ただ花を買うだけではないことはわかっているが、実際何をするのかはまるで想像できなかった。
佐治さんと二人で店を出る、二人で街を歩いていると、佐治さんは非常に目立つ容姿をしていることを改めて実感する。縦に長く細い体に鋭い顔つき。きっと惹かれてしまう女性も多いだろう。それを佐治さんは全く喜ばないだろうけど。
五分も歩かないうちに、僕と佐治さんは目的地である花屋に辿り着いた。だが、佐治さんは店の中に入ろうとしない。
「なんで入らないんですか?」
「……別にアタシは入る必要ないからね。よし、じゃあパン子、アンタあそこの花屋でなんでもいいから花を買ってきなさい。ただし! 店の中にいる超イケメンな店員とはなるべく仲良くしないこと! いいわね!?」
意味がわからなかった。これが佐治さんの頼みだというのだろうか。だがそれは、あまりにも簡単すぎる。
「いや、普通に佐治さんが買えばいいんじゃないですか? それに花を買ったって僕の家には花瓶が――」
「つべこべ言わない! アンタはただあの店で花を買ってくればいいの! それと今後知り合いに片っ端からあの花屋はいい花屋だって宣伝すんのよ! ただし若い女には宣伝するな。ほら、早く行った行った!」
「――佐治さん、ありえないとは思うんですが、もしかして本当にその超イケメンな店員さんとやらに会うのが恥ずかしいだけなんですか?」
「ぶっ飛ばすわよアンタ! もう、いいから早く行ってきなさい!」
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