shaved ice syrup
「やっぱり微妙でしたか……」
「微妙といいますか、『僅かに所見を認めるけれど現在は特に心配ない』ということです」
診察室で健康診断の結果について話している
「確かに肉を食べ過ぎてる自覚はあったんですよね。焼肉屋さんとか通ってるし。でも好物だから…… やめられなくて……」
「お肉はタンパク質や亜鉛を摂取できる大切な食品です。なのでお肉を食べること自体は大切なことですよ。一方で、食べ過ぎると病気のリスクは高くなってしまいますね」
「控えめにした方がいいですよね。でも自分のことだから、我慢できる気がしなくて……」
「そんなこともあろうかと!」
目井さんが懐から取り出したのは、瓶に入ったかき氷用シロップ。スーパーなどに行けば容易に入手できるものだ。
奇妙なのは、ラベルによくある果実の名前ではなく「やきにく」と記載されていたこと、中の液体が茶色に近い色だったことだ。
「何ですかそれ、腐ってませんか」
「腐ってませんよ。まあ、見ててください」
言うが早いが、目井さんはダッシュでキッチンから氷の塊とかき氷機、透明なガラスの器、それとスプーンを持って戻ってきた。
ごりごりごりごりと音をさせつつ氷を削って器いっぱいのかき氷を作り上げる。
「そして、仕上げ」
瓶の蓋を開け、シロップを垂らす。透明感のある白っぽい氷は、茶色へとその色を変化させていった。
「さ、召し上がってみてください」
本当に腐ってないのだろうか…… と恐る恐るスプーンで掬って口に運んでみて…… 患者様は驚いた。
「えっ、焼き肉の味だ! 食感と温度はアレだけど、そんなのが吹き飛ぶくらい本当に焼き肉食べてるみたい!」
「お肉を食べすぎてしまいそうになった時にこちらをかき氷にかけて食べれば、味や匂いだけでも感じられるでしょう?」
「ありがとうございます、早速今度から使ってみます! こんなシロップ作れるなんてすごいですね!」
患者様は喜んで帰っていった。
市販のかき氷のシロップは、本当はどれも同じ味である。だが人間の脳というのは変なところで単純なもので、シロップの色と匂いで錯覚を起こし、たとえば緑色でメロンの香りのするシロップは「メロン味」と錯覚してしまうものなのである。
目井さんが作った焼き肉味のシロップも仕組みは同じであった。わざわざネタバラシをしてしまうと患者様が意識してしまい、焼肉味だと思えなくなってしまいそうなため伝えはしなかったが。
それ以来、患者様は肉の量を食べ過ぎず食べなさ過ぎないように上手く調整するようになり、それでも食べたくなってしまった際には焼肉味のかき氷を食べるようにした。もちろんシロップにはカロリーはあるが、氷は0kcalなのでそれほど気にせずに食べられた。
もともと好きな物を我慢するのが苦手な性格なので、肉の味と匂いを我慢しなくていいのは本当に助かった。
いつしか、毎日のようにかき氷を何杯も食べていた。
そうして、かき氷の食べすぎによってお腹を壊したのは言うまでもない。
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