spinning fan

「先日の田んぼ事件は大変失礼致しました」


「本当ですよ! 怒り心頭に発したせいでかえって暑くなっちゃったんですよ!?」


「今回は大丈夫です」

 そう言って患者様の前に差し出された目井めいさんの手のひらには、携帯扇風機の羽根部分のような小さな物体が乗っていた。


「何ですかこれ?」


「こちらはですね、まず持ち主を設定するんです。そうすると、持ち主が『暑い』と感じた時に自動的に出てきて、顔の前で回転して風を起こしてくれるんです」


「なるほど! ピンポイントで涼しくなれるんですね!」


「実演してみますよ。一旦外に出て、暑さを感じてみますので見ててくださいね」




 数分後。


「はあ、はあ…… いやー、だいぶ涼しくなれましたよ、はあ、はあ……」

 荒い息遣いの目井さん。


「こ、こっちも今ものすごく涼しいです…… 見てただけなのに」


「はあ、はあ、本当ですか。それは、はあ、はあ、良かったです。はあ、はあ……」


「いやー、だってその、凄絶な光景だなと思って……」


「そんなに凄絶でしたか? はあ、はあ……」


「ええ、だってそうでしょう。故障してたのか何なのか知りませんが、ポケットから飛び出した羽根が顔の前で回転するどころか、目井さんの全身を深々と切り刻んでいくなんて……」


「はあ、はあ…… おかげさまで血塗れです。はあ……」


「おかげさまで肝から全身が冷えました。はは……」


「そういえば私、涼しい…… を通り越して寒くなってきたんですよね、はあ。どうしてでしょう? はあ、はあ……」


「……大量出血して体温が下がってるからでしょうが! もー!」

 叫ぶ患者様だった。

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