little toes
「いっ!」
とある朝。パジャマ(パステル調の紫色を背景に、天使の羽が生えた赤と白のカプセル剤が多数飛び交うゆめかわいいデザイン)から着替えようとクローゼット(長年使っているためだいぶガタが来ており、扉から血が吹き出すことがあるため、買い替えを検討している)に接近した起き抜けの
が、そこで突如激痛を覚えた。足元から全身へと瞬く間に伝達される、じくじくとした痛み。霞がかかったようになっていた意識があっという間に冴えた。
(これは…… またアレですね……)
疼痛の発生源である右足の小指、その包帯を解いてみる。超高密度の金属製の、銀色の義足の指。特に傷は付いてはいなかったが、その小さなパーツの全身で硬いものにぶつかったことを訴えていた。
(以前の生身の脚と同様に痛覚を付与してあるので、やはり痛いですね…… あの頃と同様に痛い。あー……
そもそも、どうして足の小指ってぶつけやすいんでしたっけ……
あ、ひらめきました! でもその前に、まずは白衣に着替えましょう)
痛みの波が収まってから、クローゼットを開く。ハンガーに吊るされずらーっと大量に並べられた白衣は、どれも同じようなボロボロ具合だった。
「それはねえな。半端なくねえな」
「おぬしが認めなくてもそれが真実なんじゃ…… 悲しいかもしれんが、諦めろ」
「そんなはずはない。半端なくないんだ。だって…… だって……
シロアリがアリの仲間じゃないなんてはず、半端なくねえんだー!」
往来のど真ん中、天を仰いで叫ぶ
「ちゃんと決まっとることなの! ここで叫んでたって覆らんの! 名前だけで判断するでない!」
絶望の表情を一瞬にして憤怒の表情へと塗り替え、同じくらいの声量でがなる
目井さんに用があり、隣町から出向いてきた1人…… に見える2人だが、その道中で何故かシロアリについての大喧嘩が勃発した。
「アリだから『アリ』って入ってんだろ!? アリじゃなかったら半端なくなんなんだよ!?」
「メロンパンだってメロン入っとらんのに『メロン』って言っとるじゃろ⁉︎ アレと同じじゃ!」
「えっ、入ってないのか⁉︎」
「おぬしなあああああ!!!」
そんな調子で、調べれば一発で分かることで長々と言い争いながらも、一応無事に目的地である目井クリニックに到着した。
「おーい目井ー! おるかー⁉︎」
「ココニイルヨー!」
「おやおや堂喪先生に甲藻先生。どうしたんですか?」
「……えーと、まずは借りっぱなしになってた本を半端なく返そうと思ってだな」
「ワスレナイデー!」
「……これ、ありがとうな。遅くなってすまんかったの」
「いえいえ、どういたしまして」
「コユビッテネ、ショウシトモイウンダヨ」
「……あとはその、先月我々の病院からこっちに転院した患者様がいたけど、あの人どんな容態かなと思ってさ」
「コウシテルト
ユックリデキル
ビックリスルクライ」
「順調ですよ。うまくいけば早ければ再来週あたりには退院できそうです」
「コ〜ユ〜ビ〜」
「……そうか、良かった……
で、話題は変わるんじゃが」
「はい?」
「Say KOYUBI! Yeah!」
「さっきからこの声、半端なく何なんだ?」
「ああ、これですか。お2人はどうして足の小指をタンスなどにぶつけやすいかご存知ですか?」
「脳が足の小指の位置を認識できていないからだと聞くが……」
「ええ、そうらしいですね。何を隠そう私もしょっちゅうぶつけておりましてね。そこで思いついたんです。脳が常に小指を意識できるよう、両方の義足の小指から自分達の存在をアピールする音声を流し続ければいいのではと」
「コーユビ、コーユビ、コーユビッビ」
「は、はあ…… 大音量なうえに半端なくすげえ声なんだが、合成音声か?」
「いえ、私の裏声を録音したやつです」
「アシノコユビデユビキリゲンマンハ…… ムズカシソウダネ」
「騒がしくないか?」
「正直今すぐぶっ壊したいぐらいなんですが、小指をぶつけないようにするためには仕方がないかと」
「アナタガ〜ブツケタ〜コユビガ〜イタイ〜」
「……つま先付きのサンダル履いたり、タンスの角なんかに緩衝材貼り付けたりっていう対策もあると思うんだが」
「アカチャンユビー」
「……その発想はなかったです」
「何じゃそのマジの驚き顔…… あと、脳に足の小指を認識させるために効果的なストレッチというのがあるんじゃが、教えようか?」
「そうなんですか! 是非お願いします!」
「The little toes~ The little toes~」
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