My favorite legs

「では、最後に何かご質問はありますか?」


 花粉症の薬をもらいに来たウチには全然関係ないけれど、訊きたくて訊きたくてウズウズしていたことを訊いた。


「それって…… 作ったんですか?」


「ああ、これですか」

 目井めいさんはデスクに置かれた物を手に取った。

「ええ、手作りの義足です。触ってみます?」


 頷いて、触らせてもらった。

 つやつやとした金属の肌触り。けれど不思議と人の体温ほどの温かさも持ち合わせているよう。


 何よりもビジュアルがかっこいい。白く輝く、ゴツくてメカメカしいデザイン。


「たまには違うものを装着して気分を変えようと作成したんですが、自分で作っておいてどうにもしっくりこなくてですね……

 機能は私が使ってるのと同じですし、サイズ調整などもできるんですよ。取っておくので、どなたか必要な方がいらっしゃったら教えていただけますか?」


 頷いて薬を受け取り、病院を後にした。




 帰宅したが、あの義足のことが頭から離れなかった。

 どうやら一目惚れしてしまったらしい。


 子どもの頃から乗り物とかロボットなんかが大好きで、特に夢中で見ていたロボットアニメがある。それの主人公が操作するロボットの脚に、あの義足はそっくりなんだと気が付いた。


 だから惹かれたのか。

 あのロボットは、今でも大好き。みんなのために戦う姿に、今でも憧れている。


 自分の脚を見る。平凡な脚。

 ウチはあのロボットには到底及ばない、かっこ良くもなんともない平凡な存在。

 でも、脚だけでもああなれたら……


 何日も何日も、あの義足はウチの頭を占領し続けていた。




 ある日、思い出した。

 そうだ、あれがあったはずだ。


 家の倉庫に走った。

 ガラクタをかき分けてかき分けて探し出したのは、一振りの鉈。


 庭に椅子を置き、腰掛けた。

 頭に猿ぐつわのようにタオルをきつく巻き、ぎゅっと噛みしめる。


 そうしてから、鉈を、両脚の付け根めがけて力の限り振り下ろした。




 そういうわけで、今ではあの義足はウチの脚として役割を果たしてくれてる。

 前と同じように歩けるし、走れる。まあ、猪突ちょとつモードやら何やらは怖くて使ってないけど……

 何よりも、とにかくかっこいいんだ。あのロボットに、自分の理想に、少しでも近付けたようで。


 まあ、切り落とした時の痛みは思い出したくもないけどね。痙攣が止まらなかったし目の前ほとんど真っ白になるしでね、ははっ。




 って話をすると色々と非難されることがあるんだよ。


 けどさ、たとえば「親からもらった身体からだを傷付けるなんて」って言うけど、たしかに親からもらったのは事実だし感謝もしてるけど、今はウチ個人のものなんだから「親のために」傷付けないようにするってのはなんか違くない?

 それに、その理論でいくとタトゥーやピアスや染髪もダメってことにならない? それだけじゃなく、美味しいけど身体に悪いものを食べたり、楽しいけど身体に悪い夜更かしもダメってことになっちゃわないかな? かすり傷一つ負わず、風邪一つ引かず一生を終えられる人なんてどれくらいいるんだろうね?


 あと「ありのままのあなたの方が素敵なのに」とも言われたけど、「ありのままのウチ」なんてどこにでもいそうな、つまんない奴だったんだよ。嫌いとまで行かずとも、そんな好きじゃなかった。

 でも、これを付けてもらってからは、脚だけだけどあのロボットと同じような存在になれたんだって、それだけで信じられないくらい自信が持てるようになった。

 自分を変えることで、強くなれた気になれるんだよ。そうしているうちに、その強い自分が「ありのままの自分」になっていくんじゃないかな。

 これって、おしゃれな服着たり、メイクしたりするのと似てると思うんだけどな。


 「今まで自分を支えてくれた脚を切り捨てたのか」って言うのもね。

 人間の細胞なんて毎日入れ替わってるんだよ? それ言ってたら人はみんな毎日自分を支えてくれた存在を裏切ってるわけだしさ。


 何より、ウチ死んだわけじゃないし。


 どのみち、ウチはこれで充分満足してるから、どうのこうの言わないでほしいんだけどな……

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