Was that a lie?

「それでその患者様、そのエイプリルフールっていう日に『庭に降りてきた典型的な形のUFOから、イカみたいな奴が降りてきた』っておっしゃったんです」


「あははは! そんな偶然あんのか!」

 頭部をすっぽり覆う大きな帽子を被った人物は、目井めいさんの話に笑い転げた。


「本当愉快な方でして。いつも笑わせて頂いてるんですよ」


「いいよなあそういう人… さて、それじゃあそろそろ帰らせてもらおうかな」


 目井さんは診察室を埋め尽くす大量の木箱の山を見上げた。寸分のズレもなく整然と、天井に届くほど積み上げられている。

「毎年こんなにたくさん薬草やら木の実やら金属やらくださって、本当に申し訳ありません。ありがとうございます」


「いいんだよ。この辺には絶対ないようなもんなんだろうけど、我々の住んでるところでは有り余ってるんだし。薬とか治療の道具作るのに使えるんでしょ? 活用してよ。

 そもそも、こっちはこの程度のお礼じゃ足りないと思ってるくらいだよ。本当にいいの?」


「お礼目当てでやっているわけではないので…」


「こういう時くらいもうちょっと強欲になろうよ。

 …でも、あの時は本当にあんたのおかげで助かった」

 大きな目玉をぐるりと回転させ、懐かしむように呟いた。


「あんな変な病気が蔓延して、みんな苦しんでて…

 どんな手を使ってでも治療法を見つけなきゃって、手当たり次第に医者探したり古今東西の効きそうな治療法試してみたり」


「本当に必死でいらっしゃいましたよね…」


「そりゃあね。我、一応あそこで一番偉い人だからね。やっぱりあそこの人達には誰も苦しんでほしくないからね。

 でもさっぱりうまくいかなくていよいよ死にそうな人も出てきて、焦りがピークに達してた時にあんたの噂を聞いたんだ。

 それでもう、距離なんて気にせず、着の身着のまま藁にもすがる思いでたどり着いたはいいものの…」


「あの時は本当に失礼いたしました」


「お互い何言ってるか全く理解できず大困惑したよね…

 でもしょうがなかったじゃん。分かるわけないもんね。むしろよく我のあのジェスチャーと病気の人達の写真だけで分かってくれたもんだよあんた」


「あなたの腕、いや、脚ですかね… 動きが豊かで分かりやすいんですよ」


「あんたらよりは遙かに柔軟だもんな。そっちこそほんの数年で我々の言葉をここまでマスターしてしまうとは… もはやネイティブレベルだよ」


「できるだけ患者様のご主張を正確に理解させていただくためにはできるだけ色々な言葉を知っておいた方がいいかと思っているのでね。頑張って勉強しましたよ」


「それにしたって覚えるの早すぎだが…

 ともあれ、あんたの作ってくれた薬のおかげでみんな助かったんだよ。作り方や予防方法まで教えてくれたから、あれからはちゃんと対処できるようになった。

 かさねがさね、我の大切なみんなの命を救ってくれて、本当にありがとう」


「毎年毎年そんなに何度もお礼を言っていただかなくても… 当たり前のことをしただけですから」


「だからあ、謙遜しないでよ。我がの救世主さん」



 

 病院入口の自動ドアが開く。

 その人物は、9本の触手で地面をぬるぬると進みながら、残る1本の触手でそっと帽子を脱ぐ。

 下から現れ出た皮膚は一見白色に見えたが、太陽の光を反射してキラキラと虹色に輝いてもいた。


 地球のイカを人間サイズにしたような容姿のその人物は、 病院の庭に止められた楕円形の円盤へと乗り込んだ。

 まもなく、円盤はゆっくりと浮上し、銀色の光を放ちながら空に吸い込まれるように消えていった。


 この様子が数人に目撃され、しばらく町中その噂で持ちきりとなるのだが、それはまた別の話。

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