面倒くさい
「とにかく面倒くさがりなんですよ。
働くのも面倒くさい、料理するのも面倒くさい、歯磨きも掃除も洗濯も着替えも面倒くさい、全てが面倒くさい。
そんなことしてる暇があるなら、何もせずに過ごしていたいんです。
食事や睡眠も面倒くさくなることもあります。
実際何日も断食したり、起きっぱなしだったりすることもあります。
この前なんて呼吸さえも面倒くさくなりました。
3日くらいずっと息せずに過ごしました。
あんな面倒くさいことをし続けなきゃいけないなんて、本当、生きるのって面倒くさい。
でも死んだら死んだであの世での諸々の手続きがありそうな気がして面倒くさそうだからしょうがなく生きてるんです。
あー、敬語使うの面倒くさくなって急にタメ口になるかもしれませんが許してくださいね。
で、人生で最も面倒くさいのが入浴なんです。
ボタン押してお湯出して、たまるまで待つだの、服を全部脱がなきゃいけないだの、スポンジに石鹸つけて身体洗うだの… やることが多すぎるじゃないですか。
こうして言葉にしてるだけで涙が出てきそうになるくらい面倒くさい。
だからといって入らないでいると、特にこの時期は身体かゆくなるわ匂うわでかえって面倒くさいことになる。
それで、面倒くさかったけど
『なんかお風呂に入らなくてすむ道具はないのか。「オフロハイラナクテスームー」みたいな』って。
そしたら『そんな安易な名前の道具はありませんが、お風呂に入らなくてすむ方法はあります』って言ってこうしてもらったんだよね。
そろそろ時期だし、できるかな…
見てて、この顔の中央…
ほら、おでこから顎にかけてペキペキとヒビが入っていって…
この裂け目に両手を差し込み、こうやって左右に引っ張ると…
ほら、脱皮するみたいに顔の皮が剥がれた! このまま胴体の方にまで裂け目を広げていけば全身脱皮できるんですが、面倒くさいんで今はこれで勘弁して。
全然痛くないんですよ、皮の下に新しい皮ができてますし。
日焼けすると皮が剥けるけど、剥がしても別に痛くないでしょ? あれを大規模にした感じです。
こうやって、一定期間たって汚くなった皮膚を脱いで、新しい皮膚で過ごせるようにしてもらったわけです。
脱ぐのも脱ぐので面倒くさいですが、お風呂入るよりはずっと面倒くさくないんで便利なんだよ。
脱皮の後はすごくさっぱりして気持ちいいしね。長期間貼り続けてた絆創膏をやっと剥がせた時みたいに。
ただ、別の問題が発生してね。
脱いだ皮処分するのが面倒くさいんだよ。
小さく丸めて生ゴミに捨てればいいのかもしれないけど面倒くさくて。しばらく部屋の隅っこにまとめて置いといたんだよ。
でもそれだと衛生的に余計面倒くさいことになりそうだから、昨日一念発起して全部捨てたんです。
ゴミ箱に捨てるの面倒くさかったから、窓から外に。こう、次々と放り投げて。
だから、持ってきてもらったそれ全部、以前の皮膚です。そっくりな人達が大量に殺されたとかいうわけじゃないんでご安心くださいね。
じゃ、そろそろいいですか? 頑張ってたけど、しゃべるの面倒くさくなってきたので」
「は、はあ… そうでしたか… 申し訳ありませんでした…」
僕は話を聞くために証拠としてリヤカーで運んできたもの ― 町中のいたるところで発見されて大騒ぎになった、同一人物のものと思われる人間の抜け殻のような全身の皮膚20枚ほど ― をそっとカバーで覆った。
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