未確認

 おー、ひっさしぶりー!

 こうして直接顔合わせるのってもう2年ぶりくらいだよね? 元気してた?

 玄関で立ち話もなんだから、中入ってよ、どうぞー!




 ん、お兄さんはどうしたのって?

 もちろんいるよ、こっちこっち!




 ほらここ、キッチンにいるんだよ!

 いないじゃないかって? いやいや、いるんだよ、ほらここ、冷蔵庫の中!

 何笑ってんの? 冗談なんかじゃないよ。見て!


 兄貴ー! 幼馴染が遊びに来てくれたよー! 懐かしいでしょ!


 …あれ、何震えてんの? クーラー強すぎた?


 …ああ、確かに兄貴ちょっと腐敗しちゃってるもんね。わざわざ冷却力強い冷蔵庫買ったりクーラーガンガン入れたりしてるんだけど、どうしてもね…


 え? 嫌だなあ違う違う、兄貴は死んでなんかないって。ちゃんと生きてるよ。


 先月にね、私一人で1週間旅行に行ったの。楽しかった。

 旅行の最中に何度も兄貴にスマホでメッセージ送ったんだけどね、全く返信がこなかった。

 でもご存知の通りズボラなところがある人だから気にしてなかった。


 それで旅行から帰ってきてドアを開けて、真っ先に目にしたのが、床に倒れてる兄貴だった。

 あそこの階段の真下で、頭から血を流してた。廊下中がまっかっかだった。

 駆け寄って何度も「兄貴! 兄貴!」って呼んだよ。でも、返事もしてくれないし、身動き一つもしなかった。心臓と呼吸も、もう止まってた。


 きっと、私が旅行に行った初日に階段から落ちたんだろうね。ご存知の通りドジなところがある人だから。


 震える手でスマホをバッグから取り出して、目井めいさんに連絡しようとした。


 でも、ふと思い出したんだ。

 確か人の死亡確認ができるのって医師とか歯科医師とか看護師だけだったなって。

 その人達に死を宣告されない限りは、死んでることにならずに「心肺停止」とかって言われるんだったなって。


 思い出したから、目井さんに連絡するのをやめた。




 だからね、兄貴は死んでなんかないの。

 血がたくさん出て、話すことも動くこともしなくなって、心臓と呼吸が止まって、ちょっぴり腐ってるだけ。

 ちゃんと生きてるんだよ。目井さんに「この人は亡くなってます」なんて言われてないもん。


 私のたった一人の大切な家族が、私を一人ぼっちにするはずなんてないんだから。


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