全力×全開

Act.29 開演とダンボール

「はい! それではまずは、鎌野夏海さんの一問一答からスタートです!」

 羽織の声に続いて、拍手と歓声が体育館に響いた。


「嗚呼! 私、フィオレンティーナに答えられることなら、どうぞ何でも聞いてちょうだい!」

「フィオ、答えてる間だけ、ちょっと衣装脱ごうか!」

「ああ、やめてちょうだい! 何をするの!」



 じたばたする夏海を抑えながら、羽織がマイクを片手にカツラとコットを取ろうとする。

 2人の必死な様子に、笑いがおきる。



「恭平、どうだ?」

「スゴいです! ホントにスゴい!」



 体育館の2階、体育館放送室。音響と照明を操作するこの部屋で、後半のBGMをチェックしつつ、恭平は横の窓からステージと観客を見ている。

 実優さんはステージの下で、司会の羽織に向けてカンペを出している。



 パンフレットが出来てからまだ2時間半。

 バタバタしっぱなしの戦争状態がいつの間にか終わった。ところどころ記憶も曖昧なまま、気がついたら「四季祭~MIJIKAYO~」が始まって、ミスコン本番が始まっていた。



「では刃香冶ばっこうやさん、ズバリ好きな異性のタイプは?」

「一緒に炭酸飲み比べしてくれる人かなー」



 鎌野、伊純さん、ばかのんにも、一通り企画を説明した。

 今は3人ともピンマイクをつけて、リラックスしてステージに立ってくれている。



「お客さんも大入りですね!」

「だな。実優さんも喜んでた」




 満員御礼。正確な数は分からないけど、4桁を超える観客が、ぎゅうぎゅうになって床に座っていた。


 オープニングで出場者が急に変わった旨を説明したけど、昨日の放送を聞いてる人も多かったからか特に騒ぎもなく、めいっぱい会場を盛り上げてもらっている。




「これだけいっぱい入ると嬉しいですね、的野先輩」

「だな」

「ああ、女の子のお客さんだけ浅漬けにしてコリコリ食べたいですねえ」

「そこは同意求めるなよ」

 本番中も妄想全開だなお前は。



「ちょっと待ってください。じゃあ的野先輩は何漬けならいいんですか?」

「ちょっと待ってください。何かに漬けなきゃダメなんですか?」

「そうですね。『女』を『漬』けると書いて『女子』ですからね」

「メチャクチャな漢字変換が行われている!」

 いいから舞台をよく見てくれよ!



「よし、じゃあ俺ちょっと下りるわ。写真撮ったりしなきゃいけないし」

「何かあったら連絡下さいね」

「ああ、しばらくはBGM流しっぱなしだから、適当なタイミングでサイコロとか用意しといてくれ」

「分かりました!」


 手を振る恭平に振り返しつつ、1階に下りた。



 順調に進行していく企画を、目で見て、デジカメで捕まえて、しっかり感じ取る。

 責任者の実優さんが進行をカンペでコントロールして、羽織が司会をして、恭平が裏方をやって。

 そして俺は、実優さんの計らいで、みんなの補佐をすることになった。



 空いている時間に企画をしっかり見て、冬のKAZAHANAのミスコンに活かせる反省点を見つける。それが、実優さんから出された指示。

 とはいえ、急ごしらえのミスコン、いつ何が起きるか分からない。緊張は緩めずに、役割を果たさなきゃ。



「ふふん、良い感じだねえ」


 思わず独り言。ニヤついているのが自分でも分かって、なんだか気恥ずかしい。



 体育館をゆっくり回りながら、羽織の声を聞きながら、観客の反応を伺う。

 ステージには、4人の制服の女の子がいるだけ。ただトークしているだけ。



 その企画に、鎌野を、伊純さんを、ばかのんの呼ぶ声が舞う。

 3人が何か話すたびに「かわいいぞ!」「カワイイ!」と合いの手が入って、いつの間にはその対象は羽織にも広がっていた。



「良い感じだねえ」


 さっきと同じ独り言。ステージを見ていると、つい口をついてしまう。




 文化祭の、このテンションが好き。


 ほんの少しの火種が、びっくりするほどの起爆剤になって大歓声を生む、このマジックが好き。


 企画してる側も、参加している側も、見ている側も、みんなが精一杯楽しんでるこの空間が大好き。



 早く終わってゆっくりしたいような、やっぱりまだ終わってほしくないような。

 相反する感覚を飲み込みながら、それでも信じられないような速さで一問一答が終わり、サイコロトークも終わろうとしていた。





「実優さん」


 観客のジャマにならないように、低く屈みながら実優さんのところに来た。

 ステージから見て前方、左下。羽織が見やすい位置に陣取っている。


「順調……ですよね?」

「はい、そうですね。今のところ時間通りに進行してます」

 ニコニコしながらマジックを床に置く。


「もう少ししたらドレスですよね」

「そうですね。私が、出場者が着るのを手伝うので、その間はステージにハオちゃん1人です」


 着替えてる間はステージに出場者不在。

 投票の説明をしたり、お客さんにコメントを聞いたりして間を繋ぐ予定だ。



「その間、カンペお願いしますね」

「任せて下さい!」

 心理テストを聞きながら、これからの流れを確認していく。



「園田先輩! 的野先輩!」

 確認の途中、恭平が屈みながら足早に近づいてきた。



「大変です!」

 小声で叫ぶ。

「恭クン、どうしました?」



「ドレスのダンボール箱がないんです!」




 少しの間、沈黙した。

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