Act.11 みなアス OA!
「さて、お送りしております『みなアス』。今日は急遽、ミスコン同好会、略してミスドの風見さん・的野さんをゲストにお迎えしております。早速ですが、いよいよ明日に迫ったミスコン、準備はいかがですか?」
会話の合間を見て、菜緒さんが進行してくれる。
「いやあ、大変ですね。俺達もヒーヒー言ってますよ」
「そうなんですよ、まとすけはヒーヒー言いながら仕事してて、ふぅふぅ言いながら日々過ごしてます」
「ま、まあそんな感じですね」
「なので、まとすけは『歩くラマーズ法』って呼ばれてます」
「そんな最低のあだ名は絶対イヤだ!」
来週クラスでラマーズ的野とか呼ばれたらどうしてくれる。
「ふふ、2人とも仲良いんですね。さて、今日はミスドからリスナーの皆さんにお知らせがあるってことですけど……」
「そうなんです! 実は今、ミスコンが大変なんです!」
羽織がチラッとこっちを見る。よし、話しやすくしてやるか。
「おお、そうなんですか、羽織さん!」
「まとすけは知ってるでしょ!」
「相槌だ相槌! 知っててもこうやって話進めてくもんだろ!」
「そなの? で、なんとですね、出場予定だった子が全員急病で出場キャンセルとなってしまったんです!」
「な、何だってーっ!」
「あれ、まとすけ聞こえなかった? えっとね、出場者が――」
「だから相槌だって!」
日本語って難しい。
「それは大変ですね。ラジオ部もミスコンには注目していたんですけど……そうすると的野さん、ひょっとしてミスコンは中止なんですか?」
菜緒さんが軌道修正。助かるなあ。
「はい。正直、一度は中止も考えました。前日に出場者がいなくなる。こんなの、普通なら取り止めにするしかないですよね。でも俺達は――」
サッと手で続きの制する羽織。手に合わせて揺れた髪が、俺の手首をくすぐった。
「そうなんです。このままでは中止になってしまうんです……しかしっ!」
椅子をガタッと鳴らして立ち上がる羽織。
……ん、あれ?
「我々は決意したのです! もう一度、出場者を集めてミスコンをやることを! そこで今夜は、出場者を募集するためにこの『みなアス』に参加したのです!」
選挙カーに立つ政治家のように、大声を張り上げる同僚。
「私達は、この絶望的な状況でも決して諦めません! 今日、これから丑三つの頃まで、私達は出場者を待ち続けます! こちらから皆さんの部室に打診しに行くかもしれませんよ!」
「おお、風見さん、大分アツくなっていますね!」
いや待ってくれ菜緒さん。これは感心するだけじゃ済まないかもしれない。
なんというか、弾丸系女子というか、もうエネルギーの向くままに突っ走る気満々な気がする。
「このラジオを聴いているそこのアナタ! 実は美人ですよね? 実はミスコンに出てみたいですよね? アタシ達はみんながミスドのドアを叩くのをじっと待ちます! 暗い海の底、出場者という光を待ち続けます! あとはアナタのような美人が一歩踏み出すだけです!」
「で、では参加希望の方へ連絡方法を――」
「皆さんに必要なのは勇気! このミスコンに参加する、ほんのわずかな勇気! ただそれだけです!」
俺の必死のフォローなんて、弾丸になった彼女のマシンガントークに対しては蟻のように無力。
「さあ立ち上がれ! ミス水代になって名声に舞い上がれ! 有名税に震え上がれ! ミスコンは大学生だけのものか? いや違う、高校生の夢でもあるのだ」
「あの、羽織さ――」
「我々は待つ! 来る者拒まず、去る者逃がさず! 絶対逃がしてやらないんだ!」
「怖いよバカ!」
立ち上がって、丸めたノートで羽織の頭をバシンッと叩いた。
手で頭を押さえて、分かりやすく痛がる羽織。
「アテテ……どしたのまとすけ?」
「何の演説なんだ一体! アツくなりすぎだ!」
大体よくあんなスラスラ出てきたな。
「むむ、たしかに。ごめんよ」
「な、なるほど。では的野さん、今から頑張って候補者を募集するということですね。もし集まったら予定通りミスコンを行う、と」
「そうなんです! 羽織の言いたかったことも大体そういうことです!」
菜緒さん再び軌道修正。
管制塔ポジション、大変お手数おかけします。
「えっと、改めてお願いになりますが、ミスコンに参加してくれる方を急遽募集します。中止にしてもいいのですが、せっかく半年間準備してきた企画なので、諦めきれず臨時募集に踏み切ることにしました! ぜひ私達と一緒にミスコンを作りあげましょう!」
「おお、まとすけカッコいい!」
「明日が本番なので、今日中に写真を撮ったりインタビューする必要があります。参加して頂ける方はなるべく早めに連絡頂けるとありがたいです。今日は準備でバタバタしていて、ずっと部室にはいないかもしれないので、部室のドアに連絡先を貼っておきます。興味がある、くらいの方でもいいので皆さんのご応募お待ちしてます!」
「よっ! まとすけ! ミス水代!」
それは俺に対する褒め言葉として適切なのか。
「なるほど。ちなみに風見さん、出場するとこんな良いことがある、みたいなのって何かありますか?」
「はい! 出場者全員にネックレス、優勝者には5万円分の旅行券を差し上げる予定です! それに、アピールタイムのときに部活の話をしてもいいので、自分の部や同好会の宣伝をしたい人にもオススメです!」
「なるほど、特典盛りだくさんですね!」
「そうなんです! なので、アタシ達のミスコンにぜひ参加して下さい。全然来客のないそこのアナタ、『今年、女子が1人でも入れば企画の呼び込みに苦労しなかったのに』とお嘆きのそこのアナタ、『幽霊部員が多いけど部費だけはもらい続けたい』というアナタ、ぜひ自分の部や同好会をアピールしましょう!」
すごい、聞いてる人にアピールできてる気がカケラもしない。
「俺達ミスドは本当に出場者をお待ちしてます。前日いきなりのお願いとなってしまいますが、ステキなミスコンを作れるよう俺達も徹夜覚悟で頑張ります! 水代の皆さん、ぜひ出場を検討してみて下さい! 羽織、最後に何かある?」
「明日のヒーローはアナタかもしれないぞ!」
「違う違う。ヒロイン、ヒロイン」
「あ、明日のヒーローはヒロインかもしれないぞ!」
「意味通じないだろ!」
曖昧な染色体だなおい。
「は、はい、ミスコン企画同好会、ミスドのお二人でした、ありがとうございました。それでは、明日のオススメ企画紹介の前に1曲お聞き頂きましょう!」
曲が流れて、マイクのボリュームが下げられた。
***
「すみません、時間も長くなってしまって……ほら、羽織も謝れ」
「うう、ごめんなんさい」
2人して平謝り。
「いや、普通に告知するよりインパクトあったから、聞いてもらえたと思うよ」
台本をトントンと揃えつつ、雄二君が笑う。
「ホントですか? アタシ失敗ばっかりだったから……」
俯く羽織の頭を、菜緒さんがペンで軽く叩く。
「ううん、なんていうか、トークに華もあったし、的野君のツッコミも面白かったから笑ってもらえたと思うわ」
「ホントですか! まとすけ、鼻で笑われたって!」
「変なまとめ方するなよ」
漢字も変わってるし。
「菜緒さん、雄二君、ありがとうございました。俺達も頑張りますね!」
「ちなみに菜緒さん、ミスコンに参加してみる気は……」
羽織がキラキラした目で菜緒さんの方を見る。
「明日は『みなしろフェスティバル』の放送があるから、ちょっと無理かな。ごめんね。ミスコンやるなら、放送の中でアピールしておくよ!」
「ありがとうございます! 明日の『みなフェス』、頑張って下さいね! アタシ達も絶対ミスコンやりますから!」
「うん、雄二君と一緒に応援してるわ!」
「お互い、いい祭にしましょう! よし、羽織、行くぞ」
挨拶しながら放送室を後にした。
「さて、恭平も帰ってくるし、ホントの部室戻るか」
「そだね」
少し伸びをしながら、羽織が窓の外を見る。
「……これで集まるかなあ?」
「…………どうかな」
放送を聞いて、「よし、ちょっとミスコン出てみよっかな」なんてすぐに決意する人は少ないはず。
それは、羽織もよく分かっているに違いない。
「まあどのみち、部室は周ることになると思っておこうぜ」
「だね。さ、部室戻ろ! ご飯が帰ってきてるかも!」
「あさみんって呼んでやれよお前。意地汚い」
帰りがけに見る中庭は、さっきより少し生徒がまばらになっていた。
少しずつみんなが帰り始めて、出場者の候補が減っているのを目の当たりにする。
目に入る景色の移り変わりが、さっきより速い。誰かと競争をしているわけでもないのに、自然と早足になっているんだろう。
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