○●○第四章○●○①書き直す前

第七十話 ①アヒージョとガーリック! 第四エリアの怪!

「えっ? どういうことだ? なんで、アヒージョがここに居るんだ?」


 俺は、眉をひそめた。なんで、ここにアヒージョが居るのかが分からない。薬草を採って来いと言ったのは、アヒージョの方なのに。そのアヒージョがどうしてここに居るのかが――。

 そこまで考えて、ハッと理解した。


「ああそうか! 薬草がなくても体調が良くなったというわけか!」


 だから、もう必要なくなったと、俺に伝えに来た。恐らく、そういうことだろう。

 俺は勝手に自己完結させた。


「アヒージョ、色々あったみたいだけど、元気になれて良かったな!」


 機嫌よく笑っていたアヒージョはムッとしている。ぷんすかと両手を腰にやっている。


「ちーっとも良くありませんわ! せっかくアスタリスクを頂いて、そのお蔭で三ノ選を適格になれましたのに! まさか、アスタリスクが受け付けなくて倒れてしまうなんて!」

「えっ……? 何だって……?」


 アヒージョはぷんぷんと怒っている。けれども、俺はアヒージョの言葉に耳を疑った。


「私、ガーリック様とお話ししたくて、薬草を採ってきてほしいと言いましたの! いつも、パフェットさんと一緒だから、話せなくて」


 俺は目を瞬いた。


「話す口実を作った事は理解した! でも、アスタリスクがって何だ? アスタリスクのお陰で適格になれた?」

「……そうですわ。パフェットさんは努力家ですわよね?」


 いきなり、アヒージョの話が変わった。


「あ、ああ。そうだな」


 話に付いて行けないが、ひとまず相槌を打った。


「パフェットが努力家なのは、俺も良く知っている。パフェットは、俺をライバル視して、俺に勝てるまで頑張る奴だ。それを、努力家というのならそうなんだろ?」


 アヒージョは、両手をぎゅっと握っている。


「それは、アヒージョも良く知っていることじゃないのか?」


 その両手の拳が震えている。


「パフェットさんは、努力をしたら実りますわ! ガーリックさんなんてそれ以上じゃないですの!」


 俺は、アヒージョの震える手から視線を上げてギョッとした。


「……!?」


 アヒージョは、目に涙を一杯に溜めていた。

 アヒージョを、泣かせてしまいそうになっている。

 しかし、俺には慰めるスキルなんて持ち合わせてない。

 俺は、困惑して眉を寄せた。


「……でも、アヒージョだって頑張ったから暗号解読スキルを手に入れたんだろ?」


 アヒージョは、服の袖で涙をぬぐっている。そして、アヒージョは、力強くうなずいた。


「私も血のにじむ努力で頑張りましたわ! 元々才能がなかったから、勉強に勉強を重ねて、暗号解読スキルを手に入れようと必死でしたわ!」


「……だから、必死で努力して手に入れたんだろ?」


 アヒージョは笑ったが、声が泣いていた。


「無理でしたの! 何をやっても無理でしたの! そんな時、私はトリオン様に出会いましたわ?」

「えっ? トリオン様に?」


 俺はアヒージョの人生の中に、いきなり登場したトリオンという人物に驚いた。


「トリオンは、俺の知っているトリオン様か? まさか、アヒージョはトリオン様と知り合いだったのか?」

「ええ、そうですわ! トリオン様は、情け深い人ですわ。こんな私に交換条件を持ち掛けてきましたわ。一定の金額を貯めれば、それと引き換えに暗号解読スキルと、アスタリスクを私にくれると!」

「トリオン様が、アスタリスクをアヒージョにやる!? ちょっと待ってくれ!」


 俺は考えを整理して言う。


「アスタリスクは任命式の後で手に入れるものだろ。まさか、アスタリスクをその前に手に入れたのか? トリオン様が、そんな不正をしたのか?」


 アヒージョは、こくりと首肯した。


「でも、全て水の泡ですわ! アスタリスクは私の体に受け付けられなかったのですもの! だから、すべて終わりにするのですわ!」

「……一つ聞くが」


 俺は、ずり落ちた透明の壁から上半身を起こした。足に力が入らないが、何とか立ち上がることができた。暗号が俺を取り巻いているが、まだ何もしてこない。


「アスタリスクが体に受け付けられなかったら、それで終わりなのかよ?」

「えっ……?」

「それで、夢を諦めてしまうのかよ! 別の手段を考えろよ!」


 アヒージョは、俺の大声に少しひるんだようだが、目にいっぱいに溜まった涙をぬぐった。そして、元気を取り戻したように勝気にアハハと笑った。


「そうですわ……! ガーリック様、その通りですわ……!」


 俺は、元気を取り戻したアヒージョに心底ホッとした。アヒージョが、こんなに悩んでいるとは思わなかった。アヒージョが、孤軍奮闘しているとは思わなかった。


「ガーリック様、私にも特技がありますのよ?」

「へえ? どんな特技なんだ?」

「私は、暗号の森の第四エリアでは、暗号を操れるのですわ! これは、私が努力に努力を重ねて自力で手に入れたスキルですわ! それでも、ここだけでしか使えない中途半端なスキルなのですけれども……」

「へー、そりゃ凄いな!」


 それを聞いた後で、俺は、アレ? と思った。


「そういえば、クエッション様もそういうスキルを持っていなかったか? 俺はそのスキルのせいで、コテンパンにされそうになった。アレ? そういえば、あの時も、暗号の森の第四エリアだった。アレ? 今回も暗号の森の第四エリアだ。ということは――」

「だから!」


 しかし、俺のセリフをアヒージョが遮った。


「だから、私が暗号を操ることができる第四エリアに、ガーリック様を呼び寄せましたの」

「ああ、さっきの暗号はアヒージョが操っていたのか! すげーな!」

「そんなことはどうでもいいんですの」

「えっ?」

「パフェットさんにもガーリック様と似たようなセリフで慰められましたわ?」

「はぁ? なんでだ? 以心伝心か?」

「……」


 思ってもみないことを言われたので、俺は戸惑ってしまった。それ以上に、俺は良く考えて発言するべきだった。アヒージョはそんな俺の台詞をどう取ったのか、にっこりと笑いなおした。


「だから、私と勝負してもらえませんの? 合印になるのは、その後に考えますわ?」

「えっ? 私と勝負してもらえません? って俺と?」

「はい! 私が暗号で攻撃しますので、解読してくださいな?」

「え゛?」


 俺の笑顔が固まった。

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