第四十九話 俺の戦い! 合印決定選に間に合わない!?

 どれぐらい時間が経過したのだろう。パフェットが去ってからの時間が長く感じていた。まだ、五分も経過していないのに、いつ俺の名前が呼ばれるのかと考えてからの暗号椅子との格闘時間がやたら長く感じた。


「くっ……! 手よ動け!」


 ぽかぽかの快晴で、そよ風が裏庭に植えている常緑樹の葉を、さらさらと心地良い音で撫でて行く。その心地よい風の戯れの音に、俺の歯ぎしりとうめき声が混じっているのだから、風情も何もない。木々に留まった小鳥たちが首をかしげて、俺をつぶらな瞳で不思議そうに見ていた。


「はぁはぁ……! クソッ、解読もしてないのに汗だくだ!」


 息を切らしながら、絡みついてくる暗号をまといながら、手を俺の顔の前に持ち上げる。まるで磁石にくっ付いてくる砂鉄のようだ。


「でも、手と足は自由に動くようになった! でも、暗号が俺に絡みついて椅子から尻が離せないけど!」


 俺は、呼吸を整える。そして、手を叩き合わせて広げた。


「解読!」


 暗号椅子は電池の切れかかった電球のようにうっすらと光った。しかし、暗号は俺に絡んだまま取れる気配がない。


「だ、ダメだ……! 全然効き目がない……!」


 それから、俺は力を振り絞り続けた。


「解読ッッ! 解読ッ! 解読……! 解読……はぁはぁ……」


 微かな光がどんどん弱って行く。何回、呪文を唱えただろう。視界が重く俺の瞼の上に圧し掛かってくるような錯覚がある。俺は、疲弊しきっていた。


『百八番! ガーリックさん! シオンの間に入ってください!』


 アナウンスが、辺りに響き渡った。一ノ選の順番が回ってきた。確かに、俺の番だ。

 俺は、重く圧し掛かって来る瞼をギュッと閉じた。


「俺は頑張った……そうだ。もう帰ろう……こんな事をしていたって時間の無駄……」


 俺は目を閉じようとした。すると、笑い声が聞こえてきた。クエッションの声か。いや、違う。あれは――。


『アーッハハハハ! アーッハハハハ! あたし、パッとしない男は嫌いなの~!』

「……ッ!」


 俺は、カッと開眼した。目が怒りで燃えるようだ。


「そうだ、俺は絶対に合印にならなければならないッッッ!」


 暗号は絡みついて来るので、どうにもならない。俺は、怒る目を閉じて、深呼吸した。


「考えろ! この状況をどうすれば良い!」


 俺の怒りに震える絶叫を聞いて、小鳥たちはおびえて飛んで行った。


「そうだ……!」


 妙案を思い付いた俺は、直ぐに実行に移すことにしたのだった。

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