第35話 客人の見学初日
臨時朝礼が終了し、お二方を大樹の丘をまずは軽く案内することに。
私とシャイン様が付き添い、ガブリール様とルフォン様をご案内です。
大樹の丘は、庭園として大きく分けると、「光葉樹の森林」、「滝を臨む庭園」、「大樹の丘」、「自然花壇」、「管理整備棟前の庭園」の五つの区画になります。その区画を一通り案内することになりました。
全ての区画を案内するだけでも、半日以上かかるのですが、3日の滞在なので今日中に全ての区画を案内する予定になってます。
これは、研修に来られたラエルご一家の時と一緒ですが、今回の付き添いはシャイン様なので、私よりもより解りやすく様々な特徴を教えられるはずなのですが、緊張されている様子なので、補足説明をして貰うことにしました。
「シャイン様、緊張されてるみたいですが、いつも通りにしていれば大丈夫ですよ。」
「アニスは、そう気軽に言うけど、失敗でもしたら、レイティア様に何をされるかを考えると余計に緊張してしまうのよ。」
「お二方に対しての緊張でないのなら、安心しました。もし何かシャイン様がポカしても、私がフォローするから大丈夫ですよ。」
「アニス、その言葉忘れないわよ。もし何か私が失敗しても、フォロー宜しくね。あと同罪になってもらうからね。」
「それを決めるのは、私じゃなくてレイティア様ですよ。どの道、風の精霊の噂話はあっという間ですから、すぐに耳に入ると思いますよ。」
「うぅ、そうだったわね。もう開き直るしかないわよね。アニス、メインの案内をお願いするわ。私が補足説明するから。」
「はい。わかりました。では、私がメインで案内しますね。」
私達のやり取りを見ていたガブリール様とルフォン様は、不思議な顔をされている。
ガブリール様が気になったのか、私に小声で聞いてこられる。
「アニス様、失礼ですが、シャイン様は、何故、緊張されているのでしょうか?」
「えーっと、たぶん、風の精霊さん達が噂話をしてまして、それを聞いて、緊張なさってるのでしょう。」
「風の精霊の噂話ですか? それはもしかして、私達のことですか?」
「はい。その通りです。風の精霊さんは噂話が大好きで、七大天族がお三方も大樹の丘に来てるぞ!って噂をしているのですよ。」
「実際にその通りなんですけど、力は抑えて…いえ、あの時に解放しましたから、それで漏れたのかもしれませんね。」
「私が口止めするのを忘れていたのもあるんですけどね。なので、あのお二方、いえ、レイティア様は完全に気付いてらっしゃいますし、シャイン様も何となくですが、気づいているのでしょう。」
「そうですか…。でも、名乗らない方がシャイン様も緊張されることは無いと思うので、私達は素知らぬふりをさせて頂きますね。」
「はい。ガブリール様のご配慮に感謝します。」
「アニス様、私のことはガブちゃんとお呼びくださいと言ってますでしょうに。」
「わかりました。ガブちゃん。」
するとルフォン様も小声で私に聞かれてくる。
「アニス様、シャイン様は何者なのですか? アニス様のことを平然と呼び捨てにされてますが、それが普通なのですか?」
「ここでは、私は単なる一般の整備士ですし、気を使われるのを嫌っているのは、ここに住む皆さんが知ってますし、誰もが平等なのですよ。」
「平等…その言葉で済むことなのですか?」
「ちなみにシャイン様は、あのように見えて『
「『
「ちなみにレイティア様も同じ『
「いえいえ、喧嘩を売る気は更々、無いですし、それを聞いてしまったら、私の今の力では勝つことは、きっとできないでしょう。管理能力でも並の管理官では、相手にならない程の方なら、尚更、管理能力でも私は勝てないでしょう。では、上位管理官たるレイティア様は、さらにその上をいかれるということなのですね。」
「はい。その通りです。レイティア様は
「この丘は、本当に驚かされるような人材で溢れているのですね。」
「はい。でも、そのようなことを微塵に出すことも無く、業務を普通にこなし、誰もが平等であるのが此処、大樹の丘なのですよ。」
シャイン様が深呼吸をして、私達に話しかけてくる。
「アニス、お二方と小声で話されていても、エルフの耳では聞こえてしまうのよ。まったく、必要ないことまで教えちゃって。それにお二方とも七大天族であることの確証を得てしまったじゃないの。それに私は、七大天族の方々に喧嘩を売るようなこともしないし、お仕事だって普通よ。まぁ、偶にポカはするけどね。」
「やっぱり聞こえてましたか。さすがはシャイン様ですね。」
「それよりも、もう少しで光葉樹の森林に着くわ。ここでは整備の見学をして貰いながらの案内にしましょうかね。」
「はい。それがいいと思います。」
こうして、他愛のない談笑をしながら、最初の見学地に辿り着く。
本来なら、もう整備作業が始まっているはずなのに作業が開始されていない様子。
管理者と整備士の間で話し合いがされている様子だった。
「あっ、補佐官、丁度、いい所に。実は整備部に渡した整備図が未完のものだったらしく、途中まで整備が完了してしまってしまい、どうしようかと話し合っていた所なのです。」
「すみません。我々もいつも通りの整備だと思っていたので、整備図通りに途中まで森林の整備を行ってしまいまして、これをどうしようか話し合っていた所なんです。」
「とりあえず、今の整備状況と整備図を見せてくれますか? それから考えますので。」
「これが現状の整備状況と正式な整備図です。」
「ふむふむ、なるほど。5分程、時間を頂けるかしら? 新しい整備図に書き換えるから、ちなみに整備士さん達には、苦労をかけるかもしれないから、管理者側もしっかりとフォローしてあげてね。」
そういうと整備図と整備状況を見て、考え始める。
そして、両方の状況を集約すると、目を閉じて思考を巡らせ始めた様子。
「アニス様、ざっと見た所ですが、整備図と整備状況を見るとこれを直すのは、かなり困難な作業になると思うのですが…。」
「そうですね。でも、シャイン様なら新しい整備図を作り出して、これ位の問題なら解決してしまうわ。」
「そう簡単な問題では無いと思いますが、私達、管理整備官でもこの状況を作り替えて、全体のバランスを取るのは困難だと思うのですが?」
「でも、5分で問題を解決するって言われたのだから、比較的、簡単なことなんだと思いますよ。」
「たった5分で、この問題を解くのは、私達には無理難題なんですけどね。」
「フォンちゃんの言う通りですわ。5分足らずで、この状況を変える整備図を作るのは無理難題ですわ。」
「それでも、もう出来たみたいですよ。」
シャイン様が新たな整備図を組み始める。
現在の整備状況から判断し、まだ整備されていない区画状況を照らし合わせ、全体的な整備図を組み替え始める。
そして、全く新しい整備図を管理者と整備士に手渡す。
「このまだ未整備の区画の樹々と整備した樹々の入れ替え作業をしつつ、この整備図に沿って作業を行ってください。景観は損なうことは無いはずです。」
「ありがとうございます。補佐官。確かにこれならば、問題は全くありません。」
「整備士さん達には苦労をかけますが、宜しくお願いしますね。」
「いえ、これも我々の不手際ですし、久しぶりに大掛かりな整備作業が出来るので、腕がなるってもんですよ。」
管理者さんも整備士さん達もさっきまでと打って変わり、やる気に満ち溢れている様子。
それを見たお二方は、驚きを隠せていない。
それもそのはず、たった5分で新たな整備図を作り出し、完成されていた整備図以上の整備図を作り出してしまったのだから。
「シャイン殿、たった5分でこれ程の整備図を作り出すなんて、本当に補佐官なのですか?」
「えぇ、管理補佐官ですよ。」
「これだけの整備図を新たに作り出すなんて、普通の補佐官にはできないことですよ。」
「でも、この大樹の丘全ての景観は頭に入ってますし、それぞれの区画も覚えてますので、この程度の問題であれば、大したことは無いのですが?」
「全ての景観を覚えていて、さらに区画内容も記憶されているというのですか?」
「はい。大樹の丘の全ての管理図及び整備図を覚えてますし、それに合った景観の図案を作り出すのは、時間さえあればできますよ。まぁ、整備士さん達に苦労をかけてしまいますけど、ここの整備士さん達は皆、優秀ですし、管理者のフォローも信頼を置いてますので、問題はありません。」
ガブリール様は、目の前で起ったことを驚きを隠せず、言葉も出ない様子。
ルフォン様は、管理補佐官であることを信じられず、質問攻めを始めた様子。
シャイン様は、いつもの通りにあっさりと質問に答え、別に何もなかったかのように次の見学場へ案内しようとしている。
私は、そんなやり取りを見て、楽しんでいました。
そして、新しい整備図を基に整備が開始され、その圧倒的な整備力に対しても、お二方は驚きを隠せない様子でした。
ドワーフの整備士さん達が地脈を傷つけないように樹々の移動経路を作り出し、中級魔族の整備士さん達が樹々の根を傷つけないように続々と移動を開始し始める。上級魔族の整備士さん達は、その補助を行い、下級魔族の整備士さん達は経路上の障害物を手際よく取り除いている。
エルフの管理者は、整備状況を見ながら、的確な指示出しを行いながら、精霊による補助を行っている。
樹々の大移動を終えた後は、各種、整備士さん達が整備場を分担し、各々の持ち場での整備作業を開始し始めました。
「樹々の大移動も上手く行ったようですね。これなら問題なく整備も行えますし、景観も問題ないでしょう。」
「さすがのチームワークですね。それにしても、こういう大作業になるといつの間にかやって来るアス姐の姿がありませんね。」
「そうね。珍しいわね。あのアス姐がこの作業に顔を出さないなんて。」
そんな話をしていると息切れした様子で、アス姐が現れる。
「今日の作業場は、全くの正反対で凄い端での作業だったのよ。これなら猛ダッシュで来るより転移術を使ってくれば良かったわ。それに今日のここの作業班の面子のことを忘れていたのよ。この面子なら、すぐに終わっちゃうじゃないの。あぁ、もう勿体ないことしたわ。」
そんなアス姐を見て驚くお二方。
私達にはいつものことなので、あまり驚くようなことでは無いのだけれど、こういう時の整備場に現れる勘と言うのか、匂いと言うのか、わからないけど、
珍しく終わった後でも駆け付けることは、流石だと思う。
「アス姐、相変わらずですが、よく気付きますね。」
「長年の勘と言うのかしら? 匂うのよね。快感をもたらす作業と言うのが…。」
「それで今日の作業場の方は、どうしたんですか?」
「ん、任せてきたわよ。きちんと指示出しをしてから来たから問題ないわよ。それにこれから、すぐに戻るし。」
「とりあえず、お二方とも驚かれてるので、何か言うことは無いのですか?」
「あぁ、驚かしてゴメンね。でも、いつものことだから。それじゃ、私は戻るわね。お二方ともまた後でね。」
そういうとアス姐は転移術を使って、自分の作業場へとすぐに戻って行かれました。
こうして、「光葉樹の森林」の整備を見て貰ったのですが、最初の見学から驚き戸惑っているお二方の様子でした。
私としては、いつもの日常なので、驚くことは何もないのですが、これはきっと普通では無いのかもしれないと始めて思いました。
この後も私達としては、普通に大樹の丘内の庭園を案内しました。
お二方は、色々な出来事があって、ある意味でカルチャーショックを受けたようでした。
その後、大樹の丘の各庭園を丸一日かけて全て見学をし終えて、お二方に感想を伺ってみると、唯々、驚きの連続だったということ。
そして、ここまで種族格差が無く、皆、平等であることに大変、感銘を受け、驚いたということを口を揃えておしゃっていました。
管理者の能力もさることながら、整備士の能力も高く、さらに補佐官であるシャイン様の一瞬で解決してしまう能力の高さなど、初日にして様々なことが勉強になりつつも、この大樹の丘と言う庭園を皆が支えあって作り上げていることに感動したとのことでした。
お二方は、管理官や整備官、整備主任の能力が高く、それに指示を仰いで、ただそれに従って管理整備を行っていると思っていたことを深く反省されてしまったみたいでした。
ここでは、各々の能力あった作業を行っているので、格差など毛頭なく、それぞれに見合った作業を行いつつも、各々の考えで、管理整備図に沿った作業をしていることに大変、感銘を受け、自分達の浅はかな考えをただ深く反省し、これを
こうして、初日の見学が終わりました。
管理整備棟内でお二方と別れ、私はシャイン様と共にレイティア様の元に今日の報告を行いに管理官室へ。
シャイン様は途中から、業務の補助とかもあったので、お二方への見学もしっかりと行われたので、レイティア様からお褒めの言葉を頂き、嬉しかった様子でした。
明日はお二方が、ここの業務のお手伝いをしたいとのことなので、レイティア様にお伝えしたところ、シャイン様とルーモ主任とアス姐と話し合って決めておくとのことだったので、私は下手に口出しせず、お任せすることに。
その後、管理整備棟を後にし、私は、クラ爺にお二方の初日の見学を報告し、無事に初日が終了したことを伝え、地下街の寮へと戻りました。
今日は久しぶりに大樹の丘に戻ってきたという懐かしい感覚と見学されるお二方を見て、新鮮でとても楽しい一日でした。
また明日もきっと楽しい一日になると思いながら、眠りにつく私なのでありました。
神々の庭園 ~光の大庭園~ 永久乃刹那 @eta000
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