第9話 両親の秘密

私の目の前に両親と知らない綺麗なような可愛いらしい魔族の女性がいる。

でも、なんで私のお父さんとお母さんがいるんだろう?

一応、顔には出さずに普通にしてはいるつもりなんだけどね。


この部屋に入ってきた瞬間に魔族の女性が私に幻惑か魅了系の精神魔術を使ったみたいだけど、私には効果が無い。

古竜様の威厳や他の種族の方々によって、この一年で様々な耐性が上がってるからなんだろうけど…。

でも、結構、強力な術だったみたいだから、鈍感な私にも気づいたくらいだから。


うーん、とりあえず、気づかない振りをするのも楽しそうな予感がする。

何よりも、あの両親の屈託のない笑顔がそれを物語ってるのよね。

あの笑顔の時は、ホントに楽しそうに嘘をついてくるから…。

偶には、親孝行の為にもこの茶番劇に付き合ってみるのが、一番かな。


とりあえず、クラ爺の方を見てみると私に魔術が効いてないことを一番理解されてるみたいで、にこやかな顔で私を見ると何気に気配を消して部屋と同化してるし…。

レイティア様とシャイン様は、魔術が効いてるように思ってるみたい。

ということは、顔には出てないということね。元々、こういう時はポーカーフェイスしてるのが一番だから。

まずは、私が切り出した方が話は進みそうだから、挨拶しておこうっと。


「お初にお目にかかります。私、この度、期限付きではありますが、の職を承りましたアニスと申します。以後、お見知りおきを頂ければ、幸いです。レイティア様とシャイン様から中央からの来客とのことを本日、知らされた為、本来ならば、クラルテ様より賜ったの正装での対応をしなければいけない所を普段の仕事着での対応で、大変、申し訳ありません。」


レイティア様とシャイン様が、たぶん、念話テレパシーで何か話されてるみたい。


「えっ、何、正装なんてあったの…。」


「レイティア様、私、そんなの聞いてないですよ。本来なら、アニスが言うように正装で対応するのがマナーですよね。」


「だって、私もそんなの知らなかったし、あの方々から直々に口止めされてたから、仕方ないのよ。」


「でも、アニスがすごく丁寧に私達のことをきちんと報告してますよ。」


「長官は知らないのよね…。この口止めの話は…。」


「レイティア様、もしかして、この後で長官からお叱りがあるのですか?」


「いえ、長官の性格からして、お叱りは無いと思うし、あのお二方が口添えしていると思うから、きっと大丈夫よ。」


「それならいいんですが、あのお二方はアニスの知り合いなのですか?」


「えぇ、知り合いも何も…。」


中央の魔族の女性が軽く咳払いをして、お二方へ合図をしたみたい。

まぁ、私には何に会話をされてるか、わからないけど、大体の予想は付くのよね。

きっと、私の両親に口止めされてたんでしょうから。

とりあえず、素知らぬ顔して話を進めようっと。


「レイティア様、出来れば、中央から来られたお三方様の紹介をして頂けると助かるのですが?」


「それでは、お三方をお一人ずつ紹介をするわね。こちらの方は、中央管理局所属中央管理整備室長であり、のアル様です。」


「初めまして、アニス様。中央管理局所属中央管理整備室の室長をしています。のアルと申します。同じ人として、とても嬉しく思います。以後、お見知りおきを。」


お父さんがで、しかも中央管理室の室長って、私にとんでもないことを隠してきたのね…。

ってことは、もしかして、お母さんが…。


「こちらの方が、中央管理局ののニナ様です。」


「初めまして、アニス様。中央管理局で管理整備官の主任をしているニナと申します。私も同じ人として、とても誇らしいですわ。以後、お見知りおきをお願いしますね。」


お母さんの方が役職としては高いのね…。

家の中での構図は逆なのに何故か、仕事だと思うとしっくりくるのはどうしたものなのかな…。

しかし、偽名を使わないところが私の両親らしいわ…。


っと、あれ? 中央管理局って何だろう。私の勉強不足かしら…。

そうだ!「光の書」さんに念話テレパシーで聞いてみればいいのか。


「ねぇ、本さん、中央管理局って何?」


「ん、えっと、この光の庭園の各管理整備室を総合で管理している所だよ。どっちも中央にあるから、一般的には統合されてるって思われてるみたい。でも、実際は統合するすると中央庭園の機能が円滑に動作しないから、別々になってるんだよ。これを知ってるのは、各庭園の管理整備室の上位職数名のみであって、一般の管理整備士は知らないこと。あとは、ここの文献には、細工がされてあって、読む際に中央管理局のことは伏せられるようにしてあったみたいだよ。たぶん、アニスのご両親に関する記述がされていたからだと思うけどね。」


「ふーん、ありがと。「光の書」さん。」


「いえいえ、また何かあれば、話しかけてね。ここ光の大庭園のことならお任せあれ。」


確かに短命種であり、もっと最弱ともされる人が中央のお偉いさんであるとするならば、後世に残る出来事の一つだから、しっかりと記載はされているのが当たり前だものね…。

しかし、細工してまで、私に隠すことなのかしら?

これは後で、聞いてみないといけないかな。


「最後にこの方が、中央管理局局長であり、であるルーシェ様です。」


「ご機嫌よう。アニス様。私がこの光の大庭園、中央管理局の局長を賜っているのルーシェと申します。期限付きとは申さず、このまま、の業務を行って頂けると大変、ありがたいことなのですが、そこはアニス様が決めることなので、これ以上は言えません。以後、お見知りおきを頂ければ幸いでございます。」


えーっと、このすごく綺麗で可愛らしい魔族の方がなんだ…。

正直、女性だとは思わなかった。クラ爺みたいな方を想像していた私が愚かに思えるわ。


「しかし、様と様が同じ人とは知らず、大変、申し訳ありません。私の勉強不足でした。」


「いえいえ、あまり世間一般に知られてないことなので、お気になさらずに結構ですよ。中央以外の各管理整備室の書物には、機密事項プロテクトになっているので。」


「それでは、お二方のことは中央の方以外は、あまり知られていないのですね。」


「はい。やはり、人が他の種族の上に立場にいるのは、色々と面倒なことも起こるので、内密にお願いしますね。」


「では、今回の私の件に関しても、知ってる方は少ないのですか?」


「この件に関しても知っているのは、中央以外では、各管理整備室長と室長補佐が知っている程度です。」


やっぱり、短命種であり、最弱種とも言われる人が高位の役職につくと言うのは、大変なことなんだろう。

それにしても、中央以外には機密事項プロテクトになってるのは、嘘ではなさそうね。

お母さんとお父さんが素知らぬ顔をして、普通に話してくるから、これは本当のことだろう。

しかし、この茶番劇をいつまで続ければ、いいことやら。そろそろ切り出してみようかしら。


「それにしても、お二方の名前が私の両親の名前と一緒なので、とても驚きました。私の両親も中央で整備士をしているものですから。」


そういうと両親の顔がすごく笑顔になる。


「そうなのですか、同じ名前とは偶然というものは、あるものなのですね。」


「同じ名前とは、私にとって光栄の至りですよ。」


「いえいえ、お二方は、名前だけでなく、お顔も両親にそっくりなので、とても驚きです。偶然って怖いですよね?」


笑顔の両親が揃って、ルーシェ様の方を見ている。


「アニス様。この二人の顔がご両親そっくりであるというのは、何かのお間違いではありませんか?」


「いえいえ、ルーシェ様。この部屋に入る際に私に何かしらの魔術を使われませんでしたか?幻惑か魅了系の精神魔術か何かを?」


「そ、そんな無礼なことをする必要が何故あるのですか?」


「私もこの丘に来て一年が過ぎ、色々な種族な方から教えて頂いたり鍛えて頂いたりして、様々な耐性を持っています。それにこの部屋にいる精霊さんに聞いてもいいんですが?」


「アニス様は、精霊が見えるのですか?」


「はい。この丘に住んでいる全ての精霊さんは、私の友達と言っても過言ありませんから。」


「アル、ニナ、私はアニス様が精霊術師であることは、聞いていませんが?」


「いえ、私達も今、知ったばかりなので、驚いてる所です。レイティア殿は知っておりましたか?」


「はい、私も知らないことでして、今、この部屋にいる精霊に訊ねた所、姿も見え、会話もできるとのことです。」


クラ爺が気配を消して、笑いを堪えているのを横目で見つつ、両親と長官様にレイティア様にまで飛び火がかかって、大変なことになったみたい。

とりあえず、茶番劇は終わりにするとしますか。


「っで、お父さんとお母さんはいつまで、娘に敬語を使って話すつもりなの?」


「いつから、気づいてたの?アニス?」


「この部屋に入ってきてから、ずっと気付いていたわ。ルーシェ様が私を見た時に幻惑か魅了系の精神魔術を使ったのも気付いたし。」


「確かに私は、アニス様に幻惑系の精神魔術を使いました。申し訳ありません。どうしても、この二人が娘を驚かしたいと言うので。しかし、それに気づくとは、本当に大したものですね。」


「いえ、ルーシェ様が高位魔術を使われたので、普段、鈍感な私でも精神系の魔術を使われたのに気付いただけなのですよ。いつもなら気付かないんです。精神系の魔術には…。」


「それは、精神系の魔術を無効化しているということですか?」


「無効化というのか、私にはわかりませんが、耐性が身についているということです。そうですよね?クラ爺。」


「うむ。アニスには、精神系の魔術は効かんぞ。あと精霊達が基本的に守っておるからな。」


「ク、クラルテ様、いつから居たのですか?」


気配を表して、先程と同じ位置で座って、お茶を飲んでいるクラ爺の姿が皆様の前に現れる。


「クラ爺は、皆様が入られる前から、ずっとそこの場所に座っていましたよ。まぁ、気配を消して部屋とほぼ同化してましたけど…。」


「アル、ニナ、君たちの娘は、本当に予想した以上に大した者ね。私に対しても一歩も引かないし、度胸も据わってる。中央に本格的に招きたいわね。」


「ルーシェ様、それはとても光栄なことですが、娘が一緒の職場にいるとなると他の種族の方に対して、やりづらい面が多々ありまして…。」


「私も中央管理室の業務に支障が出そうなので、それはどうか、ご勘弁をして頂きたいのですが…。」


「ルーシェ、それはダメじゃ。アニスにはここでやって貰わなければいけないことが、まだ沢山あるからのう。」


「クラルテ様のお気に入りとなれば、ますます興味が湧いてくるわ。」


なんか、一気に蚊帳の外に出された気分。まぁ、この茶番劇も終わったし、まぁ、いっか。

とりあえず、きちんと挨拶をしなおさないと。


「それにしても、お久しぶりです。お父さん。お母さん。でも、そんな高い身分だなんて、娘の私が驚かされたわよ。」


「いや、アニス、驚いたのは私達の方だぞ。この丘に来るのは、クラルテ様との約束を守ったお前だから、快く向かい出したというのに。」


「たったの一年で期限付きとは言え、私達以上の役職につくとは思ってもなかったわ。」


「それは、私だって驚いているわよ。この丘に来て一年で、こんな役職につかされるなんて思ってなかったわよ…。」


「でも、元気そうで、本当によかったわ。驚かせようとしたのが、逆に驚かされるとは思ってみなかったけど。」


「レイティア殿やルーシェ様に頼んで、色々と仕組んだのに見抜かれてしまうとは、思わなかったよ。」


「だって、あんな楽しそうな笑顔で嘘をつくのは、私のお父さんとお母さんくらいですからね。」


久しぶりの親子の会話。長距離通話はしたことあったけど、実際に会うのは一年振り。本当に元気そうで何よりだけど、この思ってもみなかった再会は何と言えばいいんだろう?

だって、なんて、上位役職な身分な私の両親に驚かされて、その件に関しては何も言えない。

私の方が役職的には期限付きとは言え、上になってしまうのは、解っているけど、それでも、中央のお偉いさんだなんて知らなかったわ。

今になって思うけど、幼い頃に聞いた話が整備士だけでなく管理職としての話でもあったのが、ようやく理解できた感じがする。

でも、まだ何か隠してることがある気がするのよね。何かを話したそうにしてるから。

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