第8話 - えっと、最弱種族じゃなかったっけ?
オレの頭の上でスヤスヤと寝息をたてる、産まれたばかりのドリームシープ。
「とりあえず、鑑定してみっか……」
まずはこの子のステータスを見てみようということで、半透明でまっさらな新品のステータスカードを取り出し、"鑑定眼"と呟く。
鑑定眼スキルは鑑定スキルの効果を併せ持つので、ステータスカードを新しく作ることも出来るのだ。
さてさて、気になるステータスは……。オレとカエデとニャンジローは、揃ってジワジワと文字が浮かび上がるカードを覗き込んだ。
○○○
名前: なし
種族 魔獣・夢羊(亜種) 年齢 0歳 ♀
HP :D
MP :S*
ATK :F
MAT :F
DEF :B
MDE :B
AGE :E
LUK :A*
称号
『従魔:朱雲 夏向』 : 朱雲 夏向の従魔。互いに能力値ボーナス。
固有スキル
『
『
『
スキル(進化前)
『幻影魔法 Lv6』 : 幻影魔法を扱う。
『空間魔術 LvX』 : 空間魔術を扱う。詳細不明。
『再生魔術 Lv1』 : 再生魔術を扱う。治癒魔法の上位スキル。
『念話』 : 脳内に直接語り掛ける。
『浮遊』 : 魔力を消費して宙に浮く。
○○○
夢羊(亜種)……? 普通の夢羊とは違うのか。
危険度と希少度はF? と書かれている。
本来のドリームシープの危険度はFの最弱種族のハズだが、亜種で能力値も異なるため、鑑定さんでも計り知れない……ということだろうか。
確かにこの子の能力値は、さっき見た通常種のドリームシープと大きく異なっている。
通常種のドリームシープはMPとDEF、MDE値だけはそこそこで、あとは殆どがFという最低値であった。
それに対し、この子は通常種と比べ物にならないほどあらゆる能力値が高い。
攻撃力こそ通常種と同じFであるが、これは攻撃手段を持たない夢羊種の生態上仕方ないだろう。
しかし防御性能は通常種よりも遥かに高く、MP値にいたってはカエデ超えのSという破格っぷりだ。
幸運値に関しては、きっと親であるオレの影響が出ているんだろう。称号の『従魔:朱雲 夏向』の欄にも、その旨が書かれている。
そして気になるスキルだが、まず固定スキル……。『
頼りの鑑定さんですら詳細不明と匙を投げてしまっているが、MP値に補正が掛かっているのを見る限り、少なくとも魔力関連に何かしらの影響を与える効果はあるんじゃないかなぁと思う。ま、それ以外の効力についてはおいおい見つけていこう。
その他のスキルは、通常種のドリームシープも持つ『幻影魔法』と『浮遊』に加え、治癒の上位属性魔術『再生魔術』と、
高い防御性能と敵を惑わす『幻影魔法』。そして自身や味方を回復する『再生魔術』に底なしのMP。
『
「私より魔力値が高いなんて……。それに再生魔術も……。私のアイデンティティが……」
とハイライトの消えた目で呟くカエデをよそに、コスモシープはフワァと欠伸をしてスヤスヤと眠る。
「(この子の名前、どうしようかな……)」
まずは名前を決めてやらないとなぁ、と頭を抱えていたら、突然ニャンジローが声を上げた。
「また出たニャ! 今度はウインドフルフだ!」
「「えっ!?」」
驚きで我に返ったオレとカエデがニャンジローの指差す方を見る。
何処かに隠れていたのだろうか、それとも生き残りが戻ってきたのだろうか。2匹のウインドウルフがこちらを見据え、今にも飛びかかろうとした様子で唸っている。
鑑定さんによれば、ウインドウルフはフォレストウルフよりもランク的には上位にあたる、危険度がC-の魔物らしい。群れでの連携攻撃と風属性が厄介なためにCランクに片足を突っ込んでいるが、単体での脅威度はさほど高くはない……らしいが。
「また……懲りない狼ですね!」
オレたちの中では唯一の戦闘要員であるカエデが、ウルフたちに対峙する。
不意を突かれたからといって、C-ランクのウルフたった2頭などカエデにとっては取るに足らない相手である。
接近される前に一気に勝負を付けてしまおうと、カエデは無詠唱で"
―――が、その時であった。オレの頭に伸し掛かっていた重量感が、フッと無くなった。
『とぉー』
「あっ! おい!?」
「シープちゃん!?」
突然、眠ったままのはずの
いや、高い防御力と再生魔術があることを考えれば負けることは無いだろうが……お前、攻撃手段が無いじゃないか!
「戻ってこい! 怪我するぞ!」
『……すぅ』
大声で呼び戻すが、コスモシープは聞く耳を持たない。
……っていうか、目を瞑ってるし! もしかして半分寝たまま!? 寝ぼけてるのか!?
そうこうしているうちに、痺れを切らしたウルフたちが低い姿勢のまま飛び出し、カエデとの間に割って入ったコスモシープに襲いかかる。
「ガアッ!!」
片方のウルフは正面から、もう片方のウルフは側面からコスモシープを強襲する。
まず正面のウルフが前足の鋭い爪でコスモシープに襲いかかる。
コスモシープはフワリと宙に逃げてそれを躱すが、それは牽制だったのだろう。ガラ空きの胴部に食らいつかんと、もう片方のウルフが高く跳躍してコスモシープの上をとる。
「危ないっ!」
オレは叫んだが、コスモシープは気付いていないのか、それとも避けるつもりが無いのか、回避する素振りを見せない。
ウルフは獰猛な牙を向き、その体に噛み付き―――
ポフンッ!!
「キャイン!?」
ふかふかの羊毛に阻まれた牙は胴体まで到達することがなく、上半身を羊毛に埋もれさせる形でウルフの動きが止まる。アレ気持ち良さそうだな……。
『……じゃまー』
コスモシープは薄く目を開くと、体をプルプルと振りウルフを振り落とす。
そして地面に墜落したウルフのことなど気にも留めず、
『はい、おーしまい』
と、暢気に毛ずくろいなんかを始めだしてしまう。
相変わらず『
墜落したウルフはそこまでダメージを負った様子は無く立ち上がる。正面のウルフもコスモシープに対し、戦意を剥き出しにして唸っている。
いくら攻撃を防げようとも、こちらから攻撃をする手段が無いのでは決着が着かないのは明白だ。
「やっちゃっていいですか? やっちゃいますよ?」
もう見てられない! と痺れを切らし始めたカエデが再び"
「何でですか! このまま見てても埒が明きませんよぉ!」
「待てって、よく見ろよ。ウルフの様子がヘンだ」
オレの視線の先には、コスモシープに飛びかかった方のウルフがいる。ウルフは振り落とされて地面に墜落してからゆっくりと立ち上がったのだが、その目は何故か虚ろとしており、コスモシープを無視し、仲間のウルフに対して敵意を顕にしているように見える。
相方に敵意を向けられ、何が起きたかわからず動揺するもう一方のウルフ。
状況を理解出来てないのはオレ達も同様だったが、片方のウルフがコスモシープに何かしらやられたのだということは想像がついた。
「っと、"鑑定眼"」
こういう時は鑑定眼先生の出番だ! ウルフに起きている異変を探るため、ステータスを覗き見る。
〇〇〇
名前: なし
種族: 魔獣・
HP :D
MP :D
ATK :C
MAT :F
DEF :D
MDE :E
AGE :C*
LUK :D
『風脚』 : 追い風を受けるとAGE値上昇。
スキル
『風の牙』 : 牙を使用した攻撃に風属性を付与する。
〇〇〇
ウルフの異常状態が「幻惑」になっている。つまり、コスモシープのスキル『幻影魔法 :Lv6』が効いているということだろう。
つまりあのウルフには仲間のウルフが攻撃すべき敵に見えるように「幻惑」で誘導されているということだ。
そして、幻惑を受けている方のウルフがもう一方のウルフに襲い掛かった。"鑑定眼"でそちらのウルフも見てみたところ、Lvが4と劣っていたのできっと下っ端ウルフだったのだろう。上司ウルフに対して懸命に応戦するが、悲しきかな、同種族の戦いにおいて力量差の前には無力であった。
「ギャウン!」
上司ウルフが『風の牙』で下っ端ウルフの喉元に喰らい付く。それを引き剥がそうと懸命にもがくが、既にそこまでの体力は残っていなかった。やがて下っ端ウルフはピクピクと動きを止め、遂に同士討ちで力尽きたのだ。だが下っ端ウルフの必死の抵抗が上司ウルフに与えた傷も深く、最早立っているのがやっとの虫の息であった。
『ほい、とどめー』
ドリームシープがそう呟き、彼女の体毛が一瞬淡く光を放つ。……が、何か変化が起きたようには見えない。そう思った時だ。そこからオレたちが見たのは、余りに衝撃的な光景だった。
ウルフが突然ビクッと体を震わせたと思ったら、ピタリとも動かなくなった。その直後だ。
ウルフの頭部周辺の空間が立方体状に、まるで写真で切り取られたかのように、その空間内の全てが停止する。
「はっ?」
常識を逸脱した異様な光景に、思わず変な声が出る。そして次の瞬間―――。
ズルンッ!
「ひいっ!?」
「うげぇっ!?」
魔獣討伐に慣れているカエデですら思わず悲鳴を上げ、オレは思わず口を押さえる。ニャンジローは両目を手で隠してしまっている。
切り取られた空間がそのままスライドするように横にずれ、空間の境目でウルフの首と胴体が分かたれたことで、正面からそれを見ていたオレたちは断面をモロに見てしまったのだ。
剣と魔法のファンタジー世界なのだから多少はグロテスクなのも覚悟してたが、これは流石にショッキング過ぎる……。
『ほいっと』
だがそんなことはお構い無しのコスモシープちゃん。
切り取った空間を解除すると、分離した頭部はその場にゴロンと落ちる。胴体はその場に仁王立ちしたままピクピクと痙攣していた。
「あぁもう! 見てられません! "
余りの惨状にいたたまれなくなったカエデはすぐさま魔法を発動する。
宙から出現した4本の巨大な氷の柱がウルフの胴体部分の周囲に突き刺さり、正に牢獄の名前の通り対象の姿を覆い隠してしまった。
フーッ フーッ っと青白い顔でダラダラと汗を流しながら肩で息をする彼女をよそに、なんの悪びれた様子もないコスモシープは
『ほめてー、ほめてー』
と嬉しそうに擦り寄ってくる。
「あ、ああ……。ありがとう、助かったよ」
『えへへー』
照れた様子で頬擦りしてくる様子は天使そのもの。しかしその戦いっぷりはまさかの
「(初めての従魔は、とんでもない子だった……)」
ギャップの
※ストック分を吐き切ったため、連続更新はここまでとなります。今後の更新は読者様の反応次第となります。
今後とも【前向き百姓】をよろしくお願いします。
前向き百姓は省みない ~ なりそこない勇者と最強従魔の異世界牧場 聖瀲 @aquana134
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