第7話 - 爆誕!はじめての従魔


 『生命の牧場ライフメイカー』を試す場所は、そのまま『星降り』の跡地で行うことにした。

 未知のスキルであるから何が起こるかわからないし、広い場所で行うのに越したことはないと判断したからだ。

 フォレストウルフの残骸や、ウルフに襲われた何頭かのドリームシープの死骸も残っていたので、せっかくなら彼らの亡骸も『生命の牧場ライフメイカー』の素材として再利用させて貰おうと考えたのだ。



「さてさて、では早速……"発現せよ、『生命の牧場ライフメイカー』"」


 ワクワクと期待の籠もったカエデとニャンジローの視線を背に受ける中、両腕を肩の高さに突き出しスッと手を広げ、スキル発動のキー呪文を唱える。


 すると、オレの両手がポウッと薄く光を放ち、突き出した両手の前には、青色で半透明のバーチャルチックなシステムウィンドウが出現した。

 スキル使用者オレ以外でも視認できるようで、カエデたちも肩越しに覗き込んでくる。


 システムウィンドウは大きく二分されている。

 左側には『Main Itemメイン素材』と書かれた赤い枠。

 右側には『Sub Itemサブ素材』と書かれた、こちらも赤い枠。

 そして下部には『Life Make生成』と書かれたボタンがある。


 親切にルビがふってあるが、それくらいのニュアンスは英語が苦手なオレでもなんとなく理解できるっつーの。

 だが、この画面を見ただけじゃどうすればいいかよくわからんな。こういう時は……。


「困った時の! "鑑定眼"」


 鑑定眼にはこういう使い方もある。

 一般的に新しいスキルが発現した時、そのスキルの使い方がわからなくて困るのはよくあることだという。

 そんな時、冒険者ギルドや役所などに行って『鑑定』スキル持ちの職員や、鑑定珠という鑑定効果のある魔道具でスキルの詳細を見て教えてもらうことが出来るのだ。

 『鑑定』スキルは他人のスキルも鑑定することができ、鑑定するとそのスキルの発動条件・効果などをバッチリ閲覧することが出来る。勿論、冒険者ギルドや役所で雇われている鑑定屋はステータス情報の秘匿もしかり行ってくれるので、そのへんの心配はないという。


 そしてオレの『鑑定眼』も、鑑定スキルと同じことが出来る。

 自分のスキルを自分で鑑定することで、鑑定眼さんにスキルの使い方を教えてもらおうというのである。

 何故オレも知らないスキルの使い方を、オレのスキルである鑑定眼さんが知っているのかというツッコミ所が残るが、ファンタジーとはそういうものだ……としか言いようがない。



 さてさて、システムウィンドウを鑑定すると、ジワリと文字が浮かび上がってきた。



○○○


生命の牧場ライフメイカー』・・・魔石と素材から従魔の卵を生み出すスキル。


Main Itemメイン素材』・・・魔石を投入する。必須。 赤色→未投入 青色→投入済


Sub Itemサブ素材』・・・素材を投入する。1~3個投入可。無機物・有機物は問わないが、魔獣由来の素材が最低1つ必須。 赤色→未投入 青色→投入済


Life Make生成』・・・従魔の生成を開始する。従魔の種族・能力は、魔石の質・素材のランク・スキル所有者の運など、様々な要素によって変化する。使用したアイテムは消失する。


○○○



 ……どうもご丁寧にありがとうございます。めっちゃわかりやすいです。


 どうやら魔獣の核となる魔石は生成に必須で、産まれてくる従魔の種類なんかをサブ素材によってある程度理想に寄せていくようなイメージで間違いないだろう。サブ素材の選択肢の幅は意外と広いようで、最低一個の魔獣由来の素材を投入すれば、あとは鉄クズだろうが食べ物だろうが基本何でも受け付けてくれるようだ。

 スキル所有者の運が必要なら任せておけ。朱雲大明神の本領発揮だ……!!


「っと、じゃあ先ずは魔石……」


 と言ってカエデに視線を送る。


「持ち合わせで一番質がいいのは……コレですねぇ。魔物のものとは指定しれていないようですし」


 と言ってカエデが取り出したのは空色の綺麗な魔石……さっき隕石から取り出したヤツだ。

 

 ソレを受け取り、『Main Itemメイン素材』と書かれた赤色の枠に近付ける。

 すると、魔石はシステムウィンドウに触れた途端、スウッと消える様に枠に飲み込まれてしまった。

 枠の色が青色に変わったので、『生命の牧場ライフメイカー』はしっかりと魔石を認識し受け取ってくれたのだろう。


「で、次に魔獣の素材だが……」


 同じようにカエデに視線を送るが、カエデは両手の平を見せて首を横に降った。

 流石に都合よく魔獣の素材を持ち合わせてはいなかったようなので、ここは素直に調達するとしよう。


「直ぐに用意できるのは、ドリームシープの素材かフォレストウルフの素材ですかね……」


 周囲には先程の戦闘に跡がそのまま残っている。その死骸の中から素材を調達すればいいだろう。

 別に素材を取りに行くには、『生命の牧場ライフメイカー』を一旦キャンセルしなければならない。投入した魔石が消えたら嫌だし、なによりここまで来てお預けなんて面倒だし嫌だって。


「んー、じゃあドリームシープの素材を使おう」

「フォレストウルフの方が強い従魔が生まれるんじゃないかニャ? 態々危険度Fの最弱の魔獣を選ぶのニャ?」


 ニャンジローは首を傾げるが、ちゃんと理由はあるぞ。


「羊を育てるのは慣れてる。ただそれだけだよ」

「「えぇ……」」


 カエデとジュウベエは呆れた溜息をつくが、わかってないな。

 生き物を育てるってのはとても大変で責任重大だ。ましてやオレにとっては魔獣という未知の生物を育てることになるのだから、それならば少しでも勝手を知っていて、飼育が簡単そうな魔獣を選ぶべきだろう。

 それに、別に戦力を欲しているわけじゃないしな。ウルフを優先する必要性がない。


「と、いうわけで。ドリームシープの羊毛を頼むよ」

「わ、わかったニャ……」


 ニャンジローはドリームシープの死骸から羊毛を刈り取っていく。

 1分ほどで手頃な量の羊毛を採取できたので、それを『Sub Itemサブ素材』の欄に突っ込む。


 魔石と同じようにスゥッと消え、枠は青色に変化した。

 このままでも生成は開始できるが、はじめての生成なのでもう一つ素材を投入しようと思い、オレは学生服のポケットからとある物を取り出した。


「それは?」

「ああ、初めての従魔になるから、是非これを素材に使いたいと思ったんだ」


 といって見せたのは、小さな砂時計の形のキーホルダーであった。


「小さい頃に手作りした物なんだ、コレ」


 本当はちゃんと実用的な30秒計を作ろうとしたんだけど、小学生が作ったものだからしっかり計れなくて、仕方ないから砂を抜いてキーホルダーとして使っていたものだ。


 最初の従魔の生成にはオレと強い心の繋がりを作るためにも、オレが心を込めて作ったモノを何か投入しようと考えた。そこで思いついたのが、このキーホルダーだ。

 投入する素材はなんでもいいようだし、悪い影響は及ぼさないだろう。


 ポイっと砂時計キーホルダーも投入し、いよいよ素材も揃った。



「よしっ、じゃあお待ちかねの『生成』といきますかっ!!」


 右手に期待と願いを込め、『Life Make生成』のボタンに手を翳す。

 カエデは唾を飲んでジッと見守り、ニャンジローは誕生の瞬間を待ち遠しそうにソワソワとしている。


 大した量もない、なけなしの魔力を右手に集めるイメージで、ボタンに強く触れる。


「優しくて、強くて、それでいて皆と仲良くなれるような従魔よ……。ここに生誕せよ! "生命の牧場ライフメイカー"!!」



 カッッッ!!!!!!!!!!!


 オレが叫ぶと同時であった。

 ブルースクリーンだったシステムウィンドウは真っ白に光輝き、つむじ風のように魔力の風が吹き荒れる。

 真っ白に輝くウィンドウはバチバチと音を立てながら、少しずつ球体状に形を変えていく。


 直径30センチほどの大きさの卵状に形状が纏まると、徐々に輝きは落ち着いていき、そして完全に魔力の奔流が収まった時、宙色の綺麗なタマゴがそこに残った。



「おっと」


 謎の浮力を失って、ストンッと落ちそうになるタマゴを慌てて受けとめる。


「これが……初めての従魔のタマゴ……」

「キレイだニャ、どんな魔獣が産まれるんだか」

「すごい魔力を感じますよ……この子」


 オレの腕に抱えられたタマゴを覗き込んで、3人はそれぞれ言う。

 すごいですぅ~と言いながら、カエデはタマゴを撫でようと手を伸ばす。その時である!



パキッ



「「「はっ?」」」



パキパキッ



「おい!カエデ! 何してんだお前、ドジっ娘も大概にしろよ!」

「ええっ!? まだ触ってませんよ!」


 カエデ不幸ドジ娘がまたやらかしたのかと思い怒鳴るが、本当に触れる前だったらしく、彼女はワタワタと手と首を振る。


 そんなことしてるうちにも、タマゴに入った亀裂はどんどん深くなっていき、中から押し出すように殻は破れ……中から? これってまさか?


「もしかして、もう孵化すんのか!?」


 予想は当たった。というか、そう言うのとほぼ同時であった。



 オレの腕の中でタマゴの殻が、パカッ! と快音と共に真っ二つに割れた!!

 そして、その中から現れたのは……。



「メリィ!」



 初夏の晴天のような、透き通る空色のモコモコの体毛に身を包み、黒くてクリクリとした瞳が、なんだか眠たそうにオレの顔を見つめている。

 皆がキョトンとしながらその従魔を見ているが、そんなこともお構いなしにウトウトとしだし、フワァと浮かび上がる。

 そしてストンとオレの頭の上に着地すると、


『ふあぁ……、おやすみなさーい……』

「「「!?」」」


 と、少女のような声が脳内に語り掛けるように聞こえ、従魔はスヤスヤと寝息をたて始めてしまった。



「ドリームシープ、だよな。今、喋ったのか?」

「えぇ。見たことのない色ですが、使用した素材や見た目からしても、間違いなくドリームシープ……のハズです。"念話"が使えるドリームシープなんて聞いたことありませんが……」


 オレとカエデとニャンジローはお互いに顔を見合わせる。

 

 初めての『生命の牧場ライフメイカー』で誕生した、記念すべき最初の従魔……。それは、使った素材と同じ、不思議なドリームシープの子供であった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る