Ⅲ 底辺だった僕はドジっ娘じゃないと信じたい

 暫く、その場に居る者達(アガレスは除く)で軽い近状報告が行われていた。

 ブエルは人界で気まぐれに薬屋を営み、バエルは魔界にて下克上を受けては圧勝の毎日。パイモンはと言うと、自軍の能天使達と茶会を開いていたらしい。


「それでは私の番ですね。私は久しぶりに〈原罪〉に会いに行きました」


 〈原罪〉と言う単語を耳にした魔神達の目付きが変わる。その中で、バエルはその話の続きを急かす。


「ほう……〈原罪〉か?」


「ええそうですよ、バエル。〈原罪〉です」


 バルバトスは表情を崩さない。作りのもの笑顔のまま、彼は続きを話す。


「彼女の下にですね……可愛らしい姫君が居られたのですよ。純潔である身体に淫らな神が降りた魔女です。見た目は〈枢要罪〉と瓜二つでしたが……印は七つでしたね」


「へー……仔猫キトゥンちゃんと似た見た目で、しかも七つねぇ……」


「え、淫らなのに純潔? もしかして生まれたばかり?」


「最近誕生したらしいですよ? まあ、原因は〈原罪〉にありますが」


「ハハッ、原因が〈原罪〉なだけに?」


 そんな談笑の中、一番恐怖していたのはアガレスだった。彼の首筋には一滴の冷や汗が辿る。


「そ、そんな……バカな……」


「で、バルバトスはその……そうだなぁ……彼女と呼ぶよりは〈七罪〉と呼ぼうか。その〈七罪〉に宿った存在はもう見当がついているのかな?」


「ええ勿論ですよ、王よ。まあ、その前に彼女の可愛らしい話でも?」


「いいよ。君がそんな活き活きとしているのは久し振りだからね」


 許可を得たバルバトスは楽しそうに彼女のや、、更にをする。流石の魔神達も思わず吹き出してしまう。


「アハハハハッ! そりゃあ最高だ! バルバトス、君が熱中する気持ちがわかるよ!」


「そうでしょうそうでしょうそうでしょう!」


「ねえねえ! 今度遊びに行ってもいいかい!」


「その時は我もパイモンに同行させてもらおうか」


「いいなぁいいなぁいいなぁ。僕はこの玉座からそう遠くまで移動できないのに……あ、今度連れて来てくれない?」


「構いませんよ、王。それよりも……遅れた方々の登場の様です」


 近状報告をして約五時間。流石に残りの魔神達も到着する。


「遅くなったわねぇ」


 まず初めに現れたのは女性。序列六位、公爵階級のウァレフォル。天使の持つ様な純白の翼を腰から生やし、耳はライオンのもの。性別は正真正銘の女性であり、パイモンの様な事はない。


「ウァレフォル! 王を待たせるとは――」

「いや、謝らなくていいよ。僕が緊急で呼んだんだから」


「そうなのぉ? でも一応謝罪はしておくわねぇ」


 そしてウァレフォルは空いている席に腰をかけた。

 その時、一羽の梟が慌てて舞い降りる。


「王よ、遅れて申し訳ない!」


 梟は着地時に人の姿を象った。序列七位、侯爵階級のアモン。頭部は梟のものであり、燕尾服を着ている。しかし、腰からは蛇の尾が垂れていた。

 その後、アモンに続く様に残る二人がようやく到着した。到着したのは序列四位、侯爵階級のガミジンと、序列五位、総裁階級のマルバスだった。

 ガミジンは死霊魔術師の様な薄汚い鴉色のローブを羽織り、そのフードを深く被っている。

 対してマルバスはというと、黒い軍服に赤いマントの女性の姿である。


「マルバス、ガミジン共にここに参上仕りました」


「ウァサゴの欠席連絡は来ているからこれで全員だね、各自席に座るといい」


 と、ソロモンは指を鳴らす。すると、広い玉座の間の中央部に円卓とそれを囲うように椅子が配置された。定員はソロモン自身が座る席を含めて十一人。魔神達は王の座る席から左周りに序列順で着席した。


「さて、まず初めに僕の呼びかけに応じてくれて感謝する。これは緊急な事だから早速本題に入るね」


 真剣な表情で集まった魔神の九柱は王に顔を向ける。


「異星の来訪者がこの地に降りた。しかも神性を持っている。そしてそれは……」


 着実にこの世界に適応しているらしい。












 時刻は放課後。講義は全て終了し、学生達は各々の自由な時間を謳歌している。

 ……まぁ、僕は何故か姉と慕って来る女学生達から逃げきって、アリサちゃんとゆっくりと旧校舎の中庭にあるベンチでゆっくりしている。


「くしゅんっ!」


「あれ? ピュルテちゃん風邪ひいたの?」


 くしゃみが出た。アリサちゃんが心配してくれてはいるが、風邪をひいた時の様なくしゃみでは無い。


「多分……違うと思います。このくしゃみは風邪と言うよりも……誰かに噂された時に近い様な……?」


「なーんだ。風邪じゃないんだ。ざんねーん……」

「何故そこで安心してくれないんですか」


「だって、そうじゃないと看病という名目でピュルテちゃんの家に入り浸れないじゃない」


 こいつ……

 でも、一応今夜は暖かくして寝よう。


「……あ、帰りに食材を買い足しておかないといけませんでした」


 そう呟くと、アリサちゃんの耳がピクリと動いた。


「ん〜? 買い足すぅ〜? まーた貴女は男を拾ったのね。お母さん、今日こそ許しませんよ」


「何故男性と勝手に決めつけるのです!?」


 それといつから君は僕のお母さんになったの!?


「え……違うの……??!!」


「何故この世の終わりの様な顔を……はぁ……」


 とりあえず弁解としてシスターさんの事を話した。そのシスターさんが大喰らいだという事を含めってね。

 そしたら今度は鼻血を吹き出した。彼女の鼻から真っ赤な血が垂れている。


「まさか……まさかピュルテちゃんあなた……」


 神妙な表情で彼女は続けて言った。


「そんな可憐な見た目をして、男も女もいけるクチだなんて……!!」


「なっ!? 何を言っているんですか!?」


「きゃー、ピュルテちゃんに襲われるー」


 キャッキャと楽しそうに笑いながら棒読みで叫ばれる。


「お、おそっ!? そんな事しませんよ!?」


 冗談だとわかっていても、ちょっと本気になっちゃうなぁ……

 走り回って逃げる彼女に少し苛立ちを覚える。けれど、それは心地の良いもので、どちらかと言うと感覚だ。遊びで言う鬼ごっこの鬼をしている様な感覚だ。

 だから……


「そろそろお巫山戯はおしまいですよ?」


 小アルカナのタロットを太腿のカードホルダーから呼び出す。


「ソード、ジャック11


 塀を越えた時と同じく、脚部を強化する。そして、直線上にいるアリサちゃんに目掛けては飛んだ。


「捕まえました!」

「ふぁっ!?」


 勢いがあり過ぎて押し倒しそうになったけれど、すぐには自分が下敷きになる様に態勢を変えた。


「び、びっくりした……」


「そんなに驚くことですか?」


「仕方ないじゃない。だってピュルテちゃん、追いかけている途中に転ぶかと思ったんだもん」


 不満そうに彼女は言う。でもどうして!?


「貴女は私をなんだと思っているのですか……」


 僕は呆れながらそう言う。けれど、彼女は正直に答えた。


「ドジっ娘属性持ちの魔女っ娘」


 何故!?

 そ、そんな訳無い…………と信じたい。

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