タイムマシン

油布 浩明

タイムマシン

 小さな研究室は、今まさに興奮に包まれていた。

「やった、やったぞ。人類が果しえなかった永遠の夢。世紀の偉業。私は、ついにやった」

 まだ年若いモンド博士は、いひひと笑いながら突然わめきだした。両手で、なにか知恵の輪のようなものをいじくっている。

「どうしたんです、博士。なにかすごいアイディアでも浮かびましたか」

 普段より博士を尊敬している助手も走り寄り、興奮気味に聞く。

「聞いて驚くなよ、タイムマシンだ。ついにやったぞ。思いついてみれば、実に単純なものだ。全ては発想の問題だった」

「本当ですか? 説明してください」

 助手の目がらんらんと光った。博士を、食い入るようにして見つめる。

「見ての通り構造はきわめて簡単だが、なにしろ発想が特別だ。理屈は私以外の者には説明してもわからんだろう。ここに、実物がある」

 博士は、手にしていた知恵の輪のような物体を助手の前に差し出した。どう見ても針金をいくつか組み合わせただけの物に見える。

「何です?」

「これがタイムマシンだ。ちょっとそうは見えないだろうが、私が言うのだから間違いはない。この通り、材料は針金だけだ。卓越した発想と正しい理論があれば、誰にでもつくれる。その気になれば、十五世紀の連中にだってつくれたんじゃないかな」

「そうなんですか。しかし、さすがは博士。天才ですね」

「そうなんだ。わかるか」

 二人は声をそろえて、わっはっはと笑った。

「それで、これをどうやって使うんです」

「いい質問だ。実に簡単だよ。ここにある輪を、こうやって左にくぐらせてから外してやればいい」

「こんなに単純な構造で、制御なんてできるんですか」

「むろん、できない」

「そりゃあ、そうでしょうね」

 二人は再び大声で笑った。

「でもそれじゃあ、せっかくのタイムマシンが使えないじゃないですか」

「安心しろ。測定値によれば、とにかく一度だけ過去に行くのに使える。時代もわかった。場所もわかった。とにかく大昔だ」

「しかし、それでは世の中に発表が……」

「その必要はない。われわれは、その時代の人間にとっては未来人だ。過去の世界に行って、その土地の支配者になればいい」

「なるほど、われわれを認めようとしない連中を相手にするより、その方がずっといいですね。さすがは博士……」

「わかるか」

 二人は飽きもせずにまた笑った。いい加減、声もかれてきた。

「すぐにライフルとありったけの弾を持ってきたまえ。他に、薬や何かもいるな。用意ができ次第、出発する」

 数時間後、二人は現代を去った。


 ※ ※ ※


「すごい人ごみですね、博士……」

 あたり一面は人の海だった。草原地帯らしいが、それすらも判別が難しい。

 人々は人種も雑多。白人もいれば黒人もいる。そして時代も雑多。中世貴族のようないでたちの者もいれば、わけのわからない宇宙人のような服を着た人間もいる。

 共通点といえば両手に知恵の輪のような物を握っていることと、何やらものものしい武器を各自が持ち込んでいること…。

「ううむ、そうか。やはりこのタイムマシンは発想が問題だけに、古今東西、考えついた奴の性格が同じだったらしい」

「なるほど。それでみんな同じ行動をとったんで、こうなったんですね」

「そうだ。これなら誰にも知られることがない。なにせこのタイムマシンは、一方通行だからな。いなくなった人間は蒸発とか、神隠しにあったことになる」

「でも、さすがは博士。鋭い分析ですね」

「そうか、わかるか」

 二人は大声で笑った。一面を埋め尽くした人々も皆笑った。笑いの渦の中で、なにがなんだかわからなくなった。

 

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タイムマシン 油布 浩明 @rekisizuki33

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