はらはる
そして跳ねたのは、声だけでは無かった。ユウは体も跳ねさせて、楡の柄の箒から離れる。
当然、彼女は地面へと落下する。
[ぶつかるっ!?]
視聴者の誰もがそう思っただろう。
しかし、ユウは新しく得た〈魔女の道〉で空間を捩り歪めて繋げ、その隙間にするりと体を入れてその場から消えた。
背後に大木の梢を見ながら、眼下に雲を見るのは、何とも酔いそうな景色だった。
ユウは〈魔女の道〉の隙間を通って、大空へと移動したのだ。
[瞬間移動しなさった]
[しかも単独でな。まじかよ]
[【魔女の恋人に不可能なし】だんだん万能レベル上がってるよな【魔女の恋人に常識はない】]
ユウは魔女の箒を【ストレージ】に収納して、またもや自由落下して行く。その体、下腹部からは光の粒が
[なにこれ、無敵状態?]
[あー、いや、これ、最初の配信で見たな]
[うん。初めて未言巫女が生まれた時と同じ感じだね]
ユウは自らの
《このそらに
いのちなげだし
はらはるの
しがらみすべてふりちぎるよに》
〔《ブレス:はらはる》を取得しました〕
〔〈アート・プレイ・タイプ:未言〉が42レベルになりました〕
〔〈アート・プレイ・タイプ:造語〉が32レベルになりました〕
〔〈アート・プレイ・タイプ:短歌〉が29レベルになりました〕
〔〈アート・プレイ・タイプ:宣言〉が5レベルになりました〕
〔〈アート・プレイ・タイプ:瞑想〉を1レベルで取得しました〕
ユウの下腹部から泡ぐみ流れて行く光の粒が増えて、また強くなり、泡のように集まり肥大化して、人の
ユウはそれを抱き留めようと、腕を広げたまま熱の籠った視線で見詰めていた。
[あれが〈瞑想〉ってアクティブすぎね]
[ううん、思考を巡らす的な意味なんじゃないかな……]
[魔女の恋人に常識が適応されるわけないだろ]
そして、ユウによって産み出された未言は、《未言幻創》によって未言巫女を産み落とす。
「かぁさまぁぁああああ!」
《はらはる》の未言巫女は、その元気な声をドップラー効果で揺らがせながら、宙に投げ出されて即座に落下を始めた。
見た目は子供のようで、雀の羽で織ったようなポンチョを両腕で広げて風を掴んでいるが、ポンチョの裾は幾筋にも分かれているから、滑空には至らない。
「はらはるー!」
ユウも、疑似出産の興奮のままに生まれ出た我が子を呼んだ。
はらはるは、にこりと笑って。
ユウの真横を擦り抜けて、下へと素通りした。
「はらはるー!?」
ユウがまさかの事態に、ぐりんと体ごと首を回して、受け止められなかった我が子の姿を追い掛ける。
「あはははは!」
はらはるは、
ユウが遊泳のように腕で大気を掻いて推進力にして、はらはるの体へと腕を伸ばして捕まえようとするが、指が触れそうになった
「ちょ、はらはるー!?」
「きゃははは!」
はらはるは、ユウに何度も追い掛けられながら、何時でも触れられる程に近くに来るのは許すのに、触れる前にその手から逃れている。
本当に、親の
そんなユウとはらはるの様子は、二枚の落ち葉が凩に乗って舞うようであった。
やがて、一人と一言は、一つの森を落下地点として目の当たりにする。
ユウが今度こそと、はらはるを睨むように目を鋭くして、大気を蹴って疾る。
[おい、今、箒使わないで空中移動したぞ]
[もはや動きが格ゲーである]
はらはるは、ユウの素早い動きに目を真ん丸と見開いて、それから、にんまりと口で弧を描いた。
ユウが迫り、指がはらはるに届くその一瞬前に、はらはるはポンチョをばさりと畳み、浮力を失ってすとんと下がった。
ユウの指が、はらはるのいなくなった空間を虚しく通過する。
「はらはるーっ!!??」
「ふふふ、ははっ、ひゃはははは!!」
母と娘が揃って、真逆の感情のままに、有らん限りの声を上げた。
そしてはらはるは地面に追突するかに見えて。
コマ落ちした映像のように、体の上下を正位置に戻し、地面を覆う枯れ葉の一枚も舞い上がらせないような静かな着地で、綺麗に背筋を伸ばし両手を上げてVの字を象った。
「じゅってんれい!」
はらはるがその姿勢のまま誇らしげに宣言する。
その数メートル後方に落下してきたユウが、その衝撃で地面を揺らし、盛大に土煙と枯れ葉を舞い上げた。
[……しんだか?]
[あの高度からの落下ダメージとか、普通なら即死、なんだが]
[【まだ常識を信じているのか?】おいおい、この期に及んで何を言ってるんだよ【あれは魔女の恋人だぞ?】]
[ヤンデレ箒が補助に入らなかった時点でお察しだよね]
果たして、視聴者の予測通り。
「はーらーはーるーっ!!!」
土煙を破りながら、ユウが怒り心頭の叫びを上げて、はらはるへと突進して来た。
そのままの勢いではらはるの小さな肩をガシッと掴み、前後に揺らす。
「あんたって子はー! あんたって子はー! なんて危ないことするの、見てるこっちがはらはらするでしょーがー!!」
「あはははは~♪」
[遥ちゃんが言うなー!!!!!!]
[お前が言うなー!!!!!!!!!]
[あなたがそれ言いますか!?]
[鏡見ろ、魔女の恋人]
[遥ちゃんが言わないでよ!?]
[お前が言うなや]
[人のこといえませんよねー!!!???]
[お前が言うなー!!]
[おまいう!]
[君が言うなよ!!]
[未言屋さんにはらはるちゃん怒る権利はない]
「ひぅっ!? なに、みなさんどうしてわたしを責めるの!? ていうか、かしこ、何時から配信してたの!?」
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