第21話 科学部、議論する!
「それにしても昼間見かけたゴキブリはデカかったっすね」
「あー、プロトファスマねー。ヘラクレスオオカブトくらいあったもんねー」
「二号先輩、よくそうやって名前スラスラ出てきますねー」
「だってそりゃー作者が資料見ながら書いてんだもん、オイラが間違えるわけないよねー」
普通はそこは隠しておくものである。正直すぎるのも問題がある。
「酸素濃度が上がると、生物は巨大化するらしいですね、ソースは定かではありませんが」
「それにしてもあのバカでかいムカデ」
「アースロプレウラねー。あれは感動的だったねー、3m級だったねー」
「勘弁してくださいよ、俺、足がいっぱいあるカサカサした奴ダメなんすから」
「21世紀にだって30cmクラスのアフリカオオヤスデだっているわよ?」
「最大の哺乳類は34m220tのシロナガスクジラだ。赤ちゃんだって7mはある。古代の生物ばかりが大きいというわけではないぞ、金太」
「そんなの神話の世界だけでいいっすよ。クトゥルフとかクラーケンとか」
実は金太はオカルト・神話ヲタクである。
「クラーケンなんて、誰かがダイオウイカに遭遇しただけでしょ」
「大体っすね、植物だってデカすぎっすよ。あのバカでっかいスギナ、反則っすよ。何なんすかあれ」
「あー、カラミテスねー」
名前を聞いているわけではないと思われる。
「いいじゃないのよでっかいスギナがあったって。言っとくけど、大根なんか日本には世界一のが2種類もあんのよ。桜島大根の重さなんか約30kg、小学四年生の平均体重」
「二号先輩サイズっすね」
「コロスよー」
「守口大根は直径2cmしかない代わりに長さは180cm」
「僕の身長くらいですね」
「幅もな!」
「それに、21世紀にだって直径1mの花があんのよ?」
「ラフレシアですね」
「ショクダイオオコンニャクなんて花序の高さ2mよ? 太くて長くて立派なのが天を突きさすように立ってんのよ」
姐御が言うと別のものに聞こえるのは何故だろう。
「何かすげー敗北感っすよ」
「まあ、そう落ち込むな。攻めは俺が担当してやるからお前は総受けでいい」
「そういう問題じゃねーよ!」
「大体、大きければいいというものでもない。昭和の特撮のように、人間が近隣のビルと同じくらいのサイズに膨張すると大変なことになると思わないか?」
「なんで?」
「例えば巨大化する際、その質量はどうなる? 彼が質量を変えずに巨大化すれば、フワフワと浮くことになるだろう。キックどころの騒ぎではない。だが、彼は普通に戦っている。と考えれば、それなりに質量が増加しているということになる。彼は約40mという設定だったはずだから、金太の約20倍強だ。サイズが20倍になるとすると質量はその3乗倍になるわけだから、190cmの金太が38mになったら体重はいきなり95kgから760tになるわけだ」
「金太、95 kgだったんだねー」
「96kgっすから!」
そこ、論点じゃない。
「38m760tの金太が歩き回るだけで、その辺の建物を破壊して回ることになるだろう。それだけならまだしも、僅か数秒でそれだけの質量になるためには、周りにある質量を取り込むことになる」
「人間竜巻レベル」
二号、ナイス合いの手!
「さらに悲惨なのは、そのサイズから元のサイズに戻るとき。自分の質量を僅か数秒で放出しなければならない。そのエネルギーは……」
「核兵器並み?」
姐御、ナイス合いの手!
「つまりデカけりゃいいってもんじゃないっつーことすね」
「デカい方がいいことの方が多いけどね」
「ガーン」
何故か男子三人の声がハモった。
「姐御先輩、地味に僕の努力を水泡に帰すのやめてください」
「あ、ごめーん」
「二号先輩、話題を変えましょう」
姐御の
「大きいといえばねー、現在オイラたちはパンゲアという超大陸に立っていることになるんだねー」
「パンゲア大陸はどれくらいの広さなんでしょうね」
「21世紀の陸地の総面積とさほど変わらないんじゃないかねー?」
「というと、約1億5千万km²?」
「そだねー。それがローラシアとゴンドワナに分裂するんだねー」
「P-T境界の頃ですか?」
「いんにゃ、それは中生代三畳紀とジュラ紀の境目T-J境界の頃だねー。P-T境界はスーパーホットプルームによるシベリアトラップの噴出があったとされる頃だねー」
かなりマニアックな話になっている。金太はついて行けてるのか?
「全然わかんないっす」
解説しよう。
簡単に言えばシベリア高原を中心に大規模な噴火活動が何度もあったらしい。以上!
「簡単すぎだろ!」
「全然解説になってないじゃないのよ」
ごめん。二号、頼む。
「100万年にわたって推定400万km³の溶岩が噴出してねー、700万km²の広範囲にわたる洪水玄武岩層が形成されたんだねー。それでその火山ガスによって気候が激変して、陸上生物が絶滅に追いやられたんじゃないかってねー。まあ、諸説あるけどねー」
全く割り込めなくなってしまった金太に代わって、姐御が割り込んでくる。
「酸素欠乏説もあったわよね?」
「ああ、そーねー。海底のメタンハイドレートが崩壊して、大気中に大量のメタンが放出されたってヤツねー」
「ということは大気中の酸素と結合して、酸素が急激に減少するのでは?」
「そそ、それで酸素欠乏説ねー。中生代初頭の酸素濃度は12~15%と言われてるねー」
「ヒトが酸欠になるのは酸素濃度18%からよ?」
「ペルム紀前期で本当に助かりましたね。ペルム紀末期から三畳紀初頭だったら死んでますね」
「全球凍結時代でも死んでるねー」
「せっかく生きてたんですから、21世紀に戻ることを考えましょう」
「だからそれ、お前の仕事だろ、教授」
「あ……」
やはり、どこか抜けているようである。
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