第66話 女装男子、会場入り
ふと、音が止まる。止まってから初めて気づいた。会場には音楽が流れていたのだ、と。
ただ、悠然と広間に入ってくるユリウス様とアレクシア様には、音楽や言葉などいらなかった。
堂々と優雅に歩く二人は、その存在感だけで、場を制した。
神々しいものでも見るように動きを止めていた皆が、ようやく身じろぎを始めたのは、続くお父様やアル、そして侍従団が室内に入ってきた辺りからだった。
ユリウス様とアレクシア様が上座の席に着くと、音楽が再び室内に流れ始める。
ちらりと見ると、『ルクトニアのバラ楽団』が演奏をしているようだ。伸びあがるようにして見てみたが、カラムの姿は見えない。
どうしたのだろう。
首をかしげていると、「オリビア様」と小声でエミリーにたしなめられた。慌てて彼女に視線を戻すと、目の前に見知らぬ男性が一人いる。
「ごあいさつに来られたようです」
エミリーが早口に、そして小声でそう言った。「はぁ」。私は返事をし、その男を見上げる。
その男越しに室内を伺うと、どこでも似たような光景が繰り広げられていた。
若い男性が若い女性のところに行き、なにやら会話をしている。
私はちらりと目の前の男を見た。袖口に、交差した剣と有翼馬の刺繍がユリの囲い枠とともに施されている。アルの、侍従団のひとりのようだ。
「初めまして、オリビア嬢」
男は恭しく私に一礼し、自己紹介を行った。私もにこにこと笑顔を崩さずに相手をし、しばらく他愛もない会話を続けたら、「ではまた」と立ち去っていく。
すると今度は別の男がやってきて、「初めまして、オリビア嬢」とまた挨拶をした。
以降、それが何人か繰り返され、私は笑顔のまま対応をする。
誰が私の運命の人なんだろう。
そんなことを考えながら、つぶさに男たちを見比べる。顔の笑顔は崩さなかったが、男たちを頭からかつま先まで眺め、声の調子や内容に耳を澄ます。当然、あの『リスト五〇』とも照らし合わせる。
「どの男性が心に残りましたか?」
7人目の男が私の前から立ち去ったのを見計らい、エミリーが耳打ちしてきた。
「……正直、どれもいっしょ」
私はうんざりして答える。会話の内容は誰も変わらない。天気の話、お父様の話、ユリウス様の話。そして最後は、「ではまた」だ。
そして思った。
私が作った『リスト五〇』って、結構誰でもあてはまるな、と。
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