第43話 男装女子は、警告する

「その、首飾りはどこで手に入れられたのですか?」

 ジェームズが人好きのする笑みを浮かべてアルに尋ねた。


「ローラが持っていたものと、とても良く似たその首飾り。どこで手に入れられたのでしょうか」

「頻繁に花を買っていたとはいえ、何故あなたに、ローラは首飾りの話をしたんでしょうねぇ」

 アルが質問を質問で返す。綺麗なファルセットに、ジェームズだけではなく私も彼の顔を見た。


「ローラは、首飾りのことを、あなたと同じような客たちには内緒にしていたわ。知人である街娼たちにもね。私と彼女の家族以外、この首飾りの存在は、誰も知らなかった」

 アルの端正な口唇が緩やかに三日月に象られる。親指と人差し指でトップのエメラルドをつまみながら、アルはジェームズを冷ややかに見据えていた。


「それなのに、あなたは首飾りのことを知っている」

 ジェームズはにっこりと顔に笑みを貼り付けたまま、アルを見上げていた。私はアルと彼の顔を交互に見比べた。


 冷然と笑うアル。柔和に笑うジェームズ。

 ただ。

 ふたりとも、言葉を発しない。


「あなたが、ローラに首飾りを贈ったのではなくって?」

 アルがそう言うと同時に、ジェームズは私たちに背を向けて路地奥に走り出した。咄嗟に私とアルはその背を追う。


 だけど。

 すぐ側の路地から数人の男が滑り出てきてジェームズの姿を隠した。


「後ろにっ」

 私はアルの前に回りこみ、背中でアルを押した。


 目の前にいるのは3人の男だ。

 いずれも私より背は高い。中折れ帽を深く被っていたり、顔を覆うように布を巻いているせいで誰一人顔はわからない。はっきりとした年齢はわからないが、ユリウス様と年が近いだろうか。肩幅やその姿勢からそう察した。


「下がれ」

 私は低い声で男達に言う。

 狭い路地が幸いした。三人一度に襲ってくることは、この道幅ではないだろう。一人ずつしか攻撃できないはずだ。


「その庇った男を追って帰れ」

 じりじりと背でアルを大通りの方に押しやりながら、男たちに言葉をぶつける。

 今この状況で一番考えたくないのは、「挟み打ち」だ。背後から敵がやって来るより先に、人目の多い通りに逃げ出すほうが賢明だ。


「金髪に、青い目か」

 一番前の男が布越しにそう言った。私ではない。視線は、私の後ろのアルを見ている。

「ちょうどいいじゃないか」

 背後の男のどちらかがそう言い、くぐもった笑い声を立てる。


「三人目に使おう」

 誰かがそう言うと同時に、先頭の男が抜刀した。

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