第32話 女装男子は、キャロルの父に尋ねる

「その、マクドネル男爵と名乗った男が犯人だと思いますか?」

 私はベイカーさんに尋ねる。


「わかりません」

 ベイカーさんは小さく答え、それから顔を上げた。


「ただ、言えるのは、娘の勘は当たっていたのです」

「キャロルの勘?」

 私とアルの声は揃った。ベイカーさんはそんな私達に、かすかに笑みを見せるが、すぐに暗い顔に戻り、頷いた。


「あの子は姉の結婚をいくつも見てきましたから、色だの恋だのとは別に、『結婚』というものを割り切って考えていたところがあります。そりゃあ、年頃ですから、物語のような恋には憧れていたでしょうがね」

 ベイカーさんの言葉に、私はあの日のキャロルを思い出す。

『そんな運命の恋を成就させたかった』

 私の両親や、ユリウス様とアレクシア様の恋を取り上げ、キャロルはそう言っていた。


「ただ、私が決めた結婚には素直に従う、ということは常々言っていたのです。ところが」

 ベイカーさんはそこで、ほう、と息を吐いた。


「なんだかあの男爵は恐ろしい」

 ベイカーさんは平坦な声でそう言った。私は目を瞬かせ、表情の乏しい彼の顔を見る。


「キャロルはそう言ったのです。嫌な予感がする、と」

 そう続け、さっきの台詞が、キャロルの言葉なのだと知れた。


「だけど、結婚は勧めようとお思いになられた。中止しようとは思わなかったのですね?」

 確認するようにアルがベイカーさんに尋ねる。ベイカーさんは苦い薬を口に含んだかのように、顔をゆがめた。


「バチがあたったのです」

「……ばち?」

 私は眉根をしかめて尋ねる。


「貴族でもないのに、貴族になろうとしたバチが」

 ベイカーさんはゆっくりと顔を起こし、私とアルを交互に見た。

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