第27話 女装男子は、男装女子に年を尋ねられる
「その男って、お客さん?」
私が尋ねると、アルは首を横に振る。
「恋人らしい」
そう答えられて、愕然とする。
「稼いだ金、全部持って行こうとして、抵抗したら殴られて……。そこを助けたのがきっかけ」
「……そう」
なんだか、自分のお父様との違いに、衝撃を受けた。なんとなく『恋人』と言われて頭に浮かぶのは、お父様とお母様だ。お母様に対して、お父様が暴力をふるうなんて、想像がつかない。
だけど。
世間には、私の両親のような。そんな二人ばかりではないらしいことも、なんとなく気付いている。
皆、いろいろ事情があるのだろう。そっと、もう一度振り返った。あの、左端の女性だって、あんなに博識なのであれば、何も夜の街に立ってお金を稼がなくても、他の仕事がある気がするけど。
それぞれの選択と、それぞれの過去を抱え、それぞれの明日に目を向けている。
「あと、一人。金髪を探してるんだよな」
アルが呟くようにそう言い、私は曖昧に頷く。
なんだか、危険な気がしてきた。さっきの街娼達の話を聞いて不安になってくる。私ひとりでアルを守れるだろうか。
そう思うと同時に、キャロルを殺した犯人を自分で捕まえることができるかもしれない、という考えに、心が逸るのも確かだ。
「ねぇ、アル」
そう呼びかけて、「もっと別のブロックを歩いてみる?」。そう尋ねようとして、自分の顎が大分上がっていることに気づいた。
思わず、『アルを見上げている』という事実に、私は言葉を失う。
『アルフレッド坊ちゃんに身長を抜かれたね』
お父様の声が耳によみがえった。
「なに?」
急に言葉を止めたからだろう。不思議そうにアルが首をかしげる。私は慌てて首を横に振った。
「身長、伸びたな、と思って」
そう言うと、アルは目を数度しばたかせ、それから「今さらかよ」と呆れたように息を吐く。
「ずっと前から、おれの方が身長大きかったんですけど」
「嘘。ヒール履いてるからでしょ」
「履いてねぇわ」
言うなりアルはくるぶしまであるチュニックの裾をめくる。「わぁ」と慌てて腰を曲げて裾を押さえるけれど、アルが履いているいつもの軍靴がのぞき見えた。
「……なんで私より身長あるのよ」
私は改めて背を伸ばす。できるだけ。つま先立ちになる限界まで背筋を伸ばし、顎を上げて見せる。なんだか不機嫌な声が口から漏れたけれど、アルは馬鹿にしたように私を一瞥する。
「お前が女で、おれが男だからに決まってんだろ」
そう言われても、現在格好だけ見れば、「私が男で、アルが女」なのだから違和感が溢れまくっている。
「アル、いくつになったんだっけ」
私たちは往来の真ん中を腕を組んでゆっくりと歩く。居酒屋からは酔客の大きな笑い声が聞こえるし、ご飯屋さんからは煮込み料理の良い香りが溢れだしている。
どの店も店員が扉に立ち、道行く客に大声で呼びかけを行っていた。
「十八」
ぶっきらぼうに言われたけれど、「本当?」と思わず驚く。いや、三つ上だから、確かに十八なんだけど。
そうか、もう十八なのか、と愕然とした。
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