第24話 女装男子の友人は、街娼たち

「ローラは、夜の街で首飾りをくれた男に出会ったの?」

 私と腕を組むアルに尋ねた。

「そう。夜の街で仕事をしてた時に、声をかけられたんだそうだ」

 アルはさっきから、ひとつの露店を見つめ続けている。焼き栗だ。


「ローラって、お花を売ってたんでしょう? 夜にも売るの?」

 私は、小さくため息を吐く。絶対あの焼き栗、買う、って言うな。


「街娼に渡すために、花を買っていく酔客が多いんだって」

「街娼」

 思わず怯んだ。アルが不思議そうに、視線をこちらに向ける。


「街娼、意味わからないか?」

 どうやらおうむ返しに質問したと思ったらしい。私は真っ赤になって慌てて首を横に振る。アルは特に気にもせず、再び視線を露天に向けた。


「夜の街の客は、酔っぱらいだから、大分金額をふっかけても、疑いもせず買ってくれたって。昼よりいい商売になるらしい」

「でも、危ないよ。女の子でしょ?」

 私がそう言うと、アルは笑う。


「金を稼がなきゃ。危ないとか言ってらんねぇよ。それに」

 アルは口の端に苦い笑いを浮かべた。

「危ない、っていうなら、街娼ほど危険な商売はない」

 アルの視線を辿り、私は彼が露店を見ているのではないことを知った。


 露店のその脇。

 テントとテントの間に、数人の女性が立っているのが見える。

 服装や化粧から、街娼だと知れた。

 皆、道行く男性を品定めするように眺めている。


 あれは。

 どの男が金を持っていそうかとか、どの男が自分を買うか、とか。そう言う風に見ているのだ、と思ったけれど。


 この男は、安全か。

 そうも見ているのだ、と気づいた。


 ふと。

 そのうちの一人と目があった。


 思わず立ちすくむ。

 それほど、一瞬にして私自身の『価値』を見られたような視線だった。


「なぁんだ」

 だけど、彼女の眼はすぐに私の隣に向けられ、つまらなそうに尖る。


「アリーのだったの?」

 べったりと口紅が塗られた口唇が歪み、そう言われた。何のことかわからず、視線を彷徨わせていると、私の隣で軽やかな笑い声がした。


「そう。手を出さないで」

 綺麗なファルセットでアルが街娼の一人に声を投げつけた。

「よさそうなお坊ちゃまじゃない。アリー、いいの捕まえたわね」

 別の街娼が私を指さす。どぎまぎしていると、もう一人の街娼がキスを投げてよこした。


「良い夜を」

 それは、私に、というより『アリー』と呼ばれたアルにかけられた言葉だった。


「良い夜を」

 アルはそう答え、私と腕を組んだまま悠然と三人の前を通り過ぎようとした時だ。


「そうだ、アリー」

 最初に声をかけた口紅の女性が、アルを呼んだ。


「なに?」

 アルは私と腕を組んだまま、彼らの方に顔を向ける。

「ちょっと」

 口紅の彼女は周囲に視線を走らせ、小さく手招いた。私とアルは顔を見合わせたものの、並んで彼女たちに近づく。


「良く考えたら、あんた、金髪に青い眼だから教えておくわね」

 三人の側に立つと、やけに化粧の匂いが鼻についた。香水、というわけではない。これは白粉の匂いだ。そう思って目の前の彼女たちを見ると、随分と化粧が濃い。ひょっとしたら、お母様より年齢が上なんじゃないだろうか、と彼女たちを凝視してしまう。


「『金髪で青い瞳の女を探している』って、男が出回っているの」

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