番外編2 虹の想い
番外編2-1忘れ去りたい過去(性描写注意)
「薄気味悪い子」
「不気味!」
「男か女かもわからないなんて気持ち悪い」
物心がついた時から、私は人の心の声が聞こえていた。四歳になる頃には、周りの人――親でさえもが私のことをよく思っていないと知っていた。現実の言動と心の声が違っているほど、不信感が増したのを覚えてる。
私が周りの人に避けられるのは、有色人種の差別からじゃなくて。私の見た目が男とも女とも区別がつかないから。そのせいか、私は毎年のように両親の前で裸になって身体を
「気持ち悪い」
「いや、見世物にすれば需要はあるぞ」
「あなた、自分の子供を見世物にする気なの?」
「暁家の名声は今や地に落ちた。仕事もほとんどないし稼げない。なら、見世物にしてでも金を稼いで貰おうじゃないか」
「やめて! この子は……たしかに女性であって男性で。でも、子供よ? まだ十歳の子供なのよ?」
両親はいつも私の身体のことで喧嘩した。私の身体は、当時の医療文献では極めて稀とされる「インターセクシャル」と呼ばれるものだったから。今でこそはっきりわかるけど、当時は本当に気味悪がられた。
生まれつき、私の身体には生殖器が二つある。このために、産まれたばかりの頃は男子と間違われた。だから私の名前は「
見世物として裸を見せたり売春をしてお金を稼いだのは十歳から十五歳までの五年間。母親は私を見世物にすると言って譲らない父親に愛想を尽かして去っていった。私を連れていかなかったことが、私を愛していたかの答えだと思ってる。
成長するにつれて身体は変わっていった。第二次性徴の結果、私は女性であると判明した。男性生殖器を持つけれど乳房は発達したし、初潮も迎えた。第二次性徴の始まりこそ遅かったけれど、私の身体はきちんと性別を持っていたというわけだ。
私が十五歳の時に、事態は大きく動いた。この時から私は人の心の声が聞こえると自覚し、そして人に失望するようになる。始まりは家庭崩壊からだった。
当時、暁家の名声は地に落ちていた。シャニマという国の戦争に向かった先代当主と多くの部下が死んだため、とされている。それをどうしたのかはわからないけど、一つの噂が流れてきた。
「二十歳になった
暁金牙、それは先代当主の息子。あったことは無いけれど名前は覚えてる。武芸に向かない身体で生まれた、戦えないけど頭がキレる人物、らしい。幼い頃はよく「金牙様に仕えるんだぞ」と言われて育ったからかな。
金牙が当主となっての戦闘貴族の復活。この話に一番驚いたのは私の父親だった。私が生まれた時は息子だと勘違いして武芸を教え、暁家の復興をしたいと張り切っていた父親。届いた復興の知らせに、父親が狂い始めた。
「戦えないなら、暁家の子孫を産むんだ、虹牙。俺の子を
今考えてもやっぱり短絡的な考えだなと思う。口では子孫繁栄って口実を言っていたけれど、私の耳には聞こえていたよ? 父親の本当の声が。
「こいつを孕ませたい」
「誰でもいいから抱きたい」
「娘なら金をかけずにタダで抱ける」
「武芸がダメならせめて性欲処理に役立ってもらおう」
「抱かせろや、クソガキ」
父親が気持ち悪かったことは覚えてる。普通の同年代の人なら怖がったり泣き叫んだりするんだろうね。でも私は、ただただ冷静に、淡々と状況を把握していたんだ。
寝室の上だった。父親の手が一枚ずつ私の服を脱がせていく。逃げられないように、私の手を片手で強く掴んで離さなくて。仕方なく、私はされるがままになって機会をうかがっていた。
父親は用心深く、私の手を掴んだまま器用に自分の服を脱いでいく。かと思えば突然私の胸に触り始めた。下半身とは違い明らかに女性のものである僅かに膨らんだ乳房を、父親は気持ち悪い笑顔で揉む。
やがてその手は少しずつ腰の方に降りていき、ついに私の二つの生殖器のついた場所へたどり着いた。父親の手が私の下腹部に、大腿部に触れる。その唇が私の胸に赤い花を咲かせる。その口が私の股間についた雄性生殖器を咥え込む。
太ももに触られる度に妙な感覚に襲われた。抵抗したくても身体には力なんて入らなくて。父親の咥えている私の一つ目の生殖器が熱くなるのを感じた。射精なんてものは出来ないのに、私の雄性生殖器がピンと竿のように伸びて硬くなる。
父親の人差し指が私の膣の中に入ったのを感じた。指はいつしか二本三本と増えていき、膣内でバラバラに動く。膣内が掻き乱される度に耳にしたくもない水音が聞こえる。やがて膣から出された指には何やら妙な液体がついていて。
「身体は正直じゃねーか。もう、こんなに濡れてやがる」
このままはいやだ。こんな奴と一つになんてなりたくない。こんなところで無様に襲われるのは嫌だ。私は、私は――こんな目に遭うために生まれてきたんじゃない。好き
自覚さえしてしまえばなんとかなると思った。でもならなかったんだ。父親のいうように、私の身体は確かにそういう行為に反応してしまっていて。身体に上手く力が入らない。そうこうしているうちに、父親のモノが何もまとわないまま私の中に入ろうとする。
私に出来ることなんて一つしかなかった。気持ち悪い笑みを浮かべた父親の顔を、力一杯蹴飛ばす。脱がされて床に散らばった服を慌てて身につける。父親は突然のことに混乱して、慌てて私の腕に掴みかかろうとする。その一瞬が全てだった。
「
父親にそう叫んで、衣服が少しはだけた状態で家から逃げ出した。所持品なんてない。あるのはこの身一つと、裸体を隠すための頼りない衣服だけ。その状態で私は、ラクイアの町に飛び出した。
目指すのはラクイアと中央都市クラウドの間にある山。その山の中にある、暁家本家の屋敷。話に聞いただけで実在するかはわからなかったけど、私には会ったことのない親戚を頼るしかなかった。
他の親戚は皆、私を気味悪がる。この見た目が、男女どちらとも付かぬこの声が、気持ち悪いのだそうだ。そして人の心の声が聞こえてしまう。私を助けてくれる者なんて、近所にはいなかった。最初からいなかった。
異端者は嫌われる。人は違うものを恐れる。同じ白色人種であっても見た目が奇異な私は、恐怖の対象でしかなかったんだろう。だからこそ、見た目で人を選ばなそうな頭のキレる当主、暁金牙を頼ることにしたんだ。
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