0-②
「ん~…っと…」
抜けるような青空の下、夏の朝の目映い日差しを存分に浴び、細い肢体をいっぱいに伸ばして少女は大きく伸びをする。そのまま軽やかな足取りで御者台から飛び降りると、馬車を引く愛馬の手綱を握り、愛馬を停止させた。愛しむように鼻筋を優しく撫でつけ、木陰へと愛馬を誘う。
そのまま馬車の戒めから愛馬を解き放つと、近くの小川に連れて行き水を与えた。
少女は愛馬の姿を満足そうに眺め、ひとしきりその体調を観察する。怪我もなく体調は良好そのもの。納得した様子で一つ頷くと、少女も小川の水を一掬い手に取り、渇いた喉を潤した。
清廉でありながら切るような冷たさを称えた水は遠方に聳えるメデル山の雪解け水であり、この地が寒冷地方に属することを教えてくれる。
メデル山…またの名を「堕神の楽園」。
数多の堕神をその懐に擁する悪魔の山と恐れられるが、遠方から眺めるメデル山は神々しく、そして雄々しくただそこに鎮座していた。
少女の目的地はそのメデル山の麓にあるユティナ村。
このまま行けば昼前には目的地に着くだろう。
目的地が近づいてきてる実感と共に、これから始まる新しい生活への期待と、少しの不安が少女の胸に浮かんでは消える。
愛馬と共にひとしきり冷たい水を楽しんだ後、少女は馬車の中にあった大きめ鍋を取り出し、小川の水を掬い取って火にかけた。
「誰もいないから…いいよねっ!」
そう愛馬に向けて微笑むと、少女は身にまとった白いコートを脱ぎ捨て、さらには着込んでいた軽甲冑を脱ぎ捨て、最終的には下着になった。
その肌はメデル山の雪を思わせる透明感のある白い肌。
普段はただ流すだけにしている明るいアッシュグレーのロングヘアーを一つにまとめ、沸いた湯を桶に移し、小川の冷たい水で温度を調整した後、少女は行水を始めた。
否、彼女の身体は少女と称すべきではないのかもしれない。
ユーナ=シエルニカ。花も恥じらう17歳。
少女と女の境目にある彼女は、年頃の男の目から見たら、垂涎もののプロポーションを誇っていた。
普段は軽甲冑に隠れた胸は、けして特筆するほど大きいわけではないが、かと言って小さいという訳ではなく、彼女の細い肢体と合わせると抜群の黄金比を保っている。
「気持ちいいけど…やっぱりちょっと寒い…かな…?」
それでも旅の汗というものは、年頃の女の子としてはやはり気になるようだ。
アクアマリンを思わせる海色の瞳を湛えた二重の大きな目を不服そうに少し細め、自分ではどうしようもない自然環境に注文をつけてみる。
それでもその明るい表情を曇らせることはなく、快活な彼女の雰囲気が損なわれることはない。
それはまるで山の恵みを司る妖精が、水を浴む一枚の絵画の様であった。
その絶景の中に馴染まないものが一つ。
彼女が脱ぎ捨てた白いコートの背に輝くクロスされた二本の大剣と小剣。
その意味するところは「勝者には栄光を、敗者には墓標を」。
その紋章は、妖精を思わせる美しき彼女が、軍属であることを示していた。
「や~~~っと着いたぁ!」
ユーナは両手を蒼穹へと伸ばし、喜びを身体いっぱい使って表現する。
行程丸3日をかけて到着したその家屋には、「アルキメディア国北方防衛大隊第87班」と大きく書かれた立て札が掛けられていた。
しかしこの地方ではありきたりなログハウス調の家屋であり、一般的な兵舎のイメージからは程遠い。
その大きさも、小さくはないが格別大きいものではなく、一般家庭向けの家屋の範疇に収まっている。
ユーナは馬車を降りると、ここまで自身を連れてきてくれた愛馬を労い、ゆっくりとログハウスの隣にある厩舎に誘った。
今回の旅は長かった。
丸三日と言う道中が、ではない。
一月前に拝命されてから準備を整える間ずっと興奮を押さえることができなかった。
軍人なら誰でも憧れるあの班に加われると言う喜び、誇らしさ。
ユーナは愛馬から時間をかけて馬具を外し、興奮気味の自身の気持ちを落ち着ける。
愛馬はそんなユーナの胸中を見透かし、宥めるように優しく彼女に鼻をこすりつけた。
愛馬との戯れの時間を存分にとり、ユーナはおもむろに口を開く。
「さて…行きますか!」
愛馬から離れ、逸る気持ちを抑えるように一歩ずつゆっくりと、それでも抑えきれず大股で裏口に向かう。
今日からこの詰め所で、アルキメディア最強の班の一員として働くのだ。
誇り高い気持ち、新生活のワクワク感、同じくらい不安な気持ち…
様々な感情を胸一杯に詰め込み、その気持ちを声に乗せた。
「ユーナ=シエルニカ二等兵であります!只今到着しました!」
ユーナが精一杯張り上げた透明なアルトは、若干の声の震えがあったが良く通る澄んだものだ。
しかし、その声に反応する者はない。
あれ…?おかしいな…
留守なのであろうか…?
しかし、先方には今日の正午前に訪れる旨は伝わっているはずだ。
「ユーナ=シエルニカです!どなたかいらっしゃいませんか!?」
突然、ドンっ…ゴロゴロゴロ…ビダンっという鈍い音が聞こえ、目の前のログハウスが大きく揺れた。
余りの揺れにユーナは面食らったが、中からあった奇妙な反応は、ユーナの訪いに対する返事であろう。
ユーナは身を硬くして、家の主、則ち自分の上官に当たる存在の登場を待った。
(ぅぅ~…緊張する…)
「く…くそぉぉぉ…ミリアめ…階段から突き落とさなくても良いじゃねぇか…」
そんな呟きとともに全身埃まみれの男がドアから現れた。
全身を痛打したようで、足を引き摺り、腰を屈める様子が痛々しい。
加えて身なりは、黒のタンクトップに、寝間着のズボンというだらしない格好。
暁闇を彷彿とさせる青みがかった黒髪は短く切りそろえられているが、押しつぶされた寝癖がついている。
今の今まで寝ていたことがありありとよくわかった。
一見すると滑稽にも見える男であるが、それでもユーナの緊張が解れると言うことはない。
彼女はこの男が誰であるかを知っている。
レイ=クロムウェル(22)。階級:少尉。
黒瞳童顔で長身痩躯。
ぱっちりした二重。
まるで少年のような顔立ちとその幼げな雰囲気から女性軍人の間で弟にしたい軍人万年No.1。
にも関わらず彼氏にしたい軍人ランキングでは何故か10位前後。
これは彼の本性を悟ったファンが彼から離れる故であるが…
それはまた別の話。
しかし、彼を語る上で大切なのはそう言った外見にまつわる情報ではない。
タマモノオンマエ希少種ソロ討伐。
有史以来100も討伐例のないレア種を単身で打ち倒したその武勇だ。
この功績により齢22歳と言う若輩ながら少尉の位階を授けられ、軍上層部から次世代のエースと期待されている武人である。
そのスタイルは普段の飄々とした態度からは想像もつかないデュアルナイフによる苛烈な速攻。最後方にいたはずのレイがいつの間にか最前線に現れ、戦場に血煙を舞い上がらせる様は見た者に戦慄を覚えさせる。
そんなレイは、青みがかった黒髪とタマモノオンマエ攻略の功績から、いつしか『蒼の狐』と呼ばれるようになった。
そしてレイは、二年前この辺境で任務について以来、この班で数多の討伐記録を叩き出している。
今最も勢いのある軍人の一人であり、多くの新兵の憧憬を集める一人である。
かく言うユーナも最強の班の一翼であるレイに憧れと尊敬を抱く新兵の一人。
「お休みのところ申し訳ありません!自分は本日より着任を命じられた、ユーナ=シエルニカであります。よろしくお願いします。レイ=クロムウェル少尉!」
口上とともにユーナは右手を左胸に当てて敬礼をする。
両手を膝につき、全身痛打で腰がガクガク、生まれたての小鹿のように足がカクカクしていたレイは死んだ魚のような目でユーナを見上げた。
互いの目があった。そのまま見合うこと数瞬。
レイの死んだ魚の様な目に突如光が戻り、彼は大きく息を呑んだ。光を取り戻したその瞳には狼狽の色が浮かぶ。
しかし、それも束の間…
動揺の色が消えたレイの目がカッと見開かれ、その全身から溢れんばかりの闘気が膨らんだ。
瞬間、痛々しかったレイの様子が一変。その背筋はしゃきんと延び、足の震えも止まる。
そして…
「気をつけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
割れんばかりの大音声が響いた。
その声はユーナの全身を電流のように駆け巡り、ユーナの全身の筋肉は、首、背筋、足、指先…すべての身体部位を真っ直ぐに伸ばした。
(すごい威圧感…)
先ほどの情けない様子が嘘のような歴戦の勇士の雰囲気を醸し出したレイ。
その雰囲気に呑まれるユーナは、蛇に睨まれたカエル…いや狐に狙われた子リスのようだ。
レイは鋭い視線のまま、ユーナの表情をじっと見つめる。
何かを確かめるように、じっと…
穴が開くほど見つめられた後、レイが手を顎に当てて考え込むような仕草をした。
「ふむ…」
そう呟くと、レイはユーナの周囲を回りだし、じっくりとユーナの全身を舐めまわすように観察する。
(…私の…戦闘力や戦闘スタイルを計っている…?)
レイのするどい視線を肌で感じ、ユーナの額に冷や汗が浮かぶ。
生唾を飲み込んでも、口の渇きが抑えられない。
強者は相手の姿を見ただけで、相手がどの程度できるのか判断する事ができる。
鷹の目のように鋭くなったレイの目は、まさに今ユーナの全身の情報から余すことなくその戦闘能力を丸裸にしているのだろう。
どれくらい経っただろうか…
ユーナの背後にまわりその後ろ姿を観察していたレイの口から、突如禁忌の数字が語られた。
「86…57…84…」
「…は…?」
ユーナは唐突過ぎてその数字が指す意味がわからなかった。
レイはゆっくりとユーナの正面にまわり、ニヤリと口の端を釣り上げる。
「E…いや…Dだっっっっっっっっ!!」
レイがドヤ顔でユーナを指差し、その言葉を吐いた瞬間、ユーナは先の数字が自分のスリーサイズとぴたりと一致する事を悟った。同時に…
「こぉぉぉぉぉぉぉのぉぉぉぉぉぉぉへんたいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
ドヤ顔でいたレイの左顎を、全力の右掌底で打ち抜いた。
「ふぎゅぅぅぅ…」
そのままレイは膝から崩れ落ち、無様に大地とキスをする。
羞恥で耳まで真っ赤に染まり、目元に涙を浮かべたユーナは自身の腕で己の胸元を隠して、まるで土下座をするように情けない格好で倒れ伏すレイを見下ろした。
「ウフフフ…アハハハハハハハハ…」
突如場違いな笑い声が辺りに響き渡った。
その声の主は、建物の二階の出窓からユーナを見下ろしていた、純白のロングスカートのワンピースを着た女性。
装飾もなくシンプルではあるが活動性を意識的してか大胆なスリットが入っている。
スリット以外の露出は控えめであるが、ぴったりと張り付くようにその身を覆うその衣装は、お腹を抱え身を捩って笑う彼女の肢体のシルエットを克明に描き出し、かえって彼女の女性らしいプロポーションを誇張している。
その女性こそ…
ミリア=ベルゼル(28)。階級:大佐。
母性あふれるその姿や普段の言動からは想像もできないが、レイとともに最強の名を欲しいままにする第87班の片割れであり、この班の班長。
夏の眩しい日差しを浴びて輝く稲穂のように美しい金髪と、翡翠色をした瞳。
その彫刻のように整った美貌は女神ヴェルタと瓜二つと言われ、軍どころか国中からもてはやされたほど。
曰わく軍最強の女帝。
曰わく教導の女神ヴェルタの再来。
曰わく戦場に現れた女神。
歴史上で3人しかいない起源種殺し(オリジナルキラー)の一人であり、現役軍人で唯一のオリジナルキラー。
その類い希な武力、加えて圧倒的な指揮力を発揮し、堕神メザイアを封じたその功績により大佐に任ぜられる。
しかし…
「中央の椅子に座って、目上の方に気を使うくらいなら、最前線に出て暴れていた方が私の性に合っています。北方防衛の最前線とか行ってみたいですわ!」
と激戦区の現場を自ら志願。
それならばせめてもと軍中央部は北方防衛大隊長として任命するもこれを固辞。
変わりに…
「ユティナ村から部隊を退くのですか?あそこに暮らす人達は生まれ故郷を追われることになってしまうではないですか!!…それならば、私にお任せください!レイ~!レイ=クロムウェル!私と来てください。二人でユティナ村を守って見せますわ!」
その場で顔見知りであったレイを指名し、二人でユティナ村防衛班を結成。
周囲が止めるのも聞かず、次の日からユティナ村の防衛に当たる。
上層部も当初はすぐ逃げ帰ってくると思いミリア達の行動を黙殺していたものの、周囲の予想を裏切り二人はユティナ村に留まり続ける。
それどころか二人は聞く者の度肝を抜くような目覚ましい戦果を上げ続け、結果ユティナ村は滅亡を免れることになる。
そして今やユティナ村は北方防衛の最前線基地としての役割を担うようになってしまった。
そうなってしまってはミリアが勝手に結成したユティナ村防衛班を認めない訳にはいかず、アルカディア国北方防衛大隊第87班として正規班の一つに編入されることになる。
そう言う背景のため第87班はミリアに全権が与えられており、北方防衛大隊の正規班でありながら独立した指揮体系を持つ一つの組織として機能する。
組織と言っても、ミリアとレイの二人しかいないのだが…
しかしこの二人が叩き出す戦果は、他のどの班のものより際だっており、最強の班の呼び声が高い。
そんな中、今回ミリアが新しい戦力が欲しいと中央部に掛け合い、選出されたのがユーナである。
なぜ歴戦の強者ではなくユーナのような新兵が選ばれたのかは預かり知らぬ話ではあるが、ユーナ自身、生きる伝説と化したミリアの元、最強の名を欲しいままにする第87班で働けると言うことに言葉にできないほどの感動と喜びを覚えた。
そのミリアが今、自分の目の前にいる…
「ごめんなさいね…ユーナ。レイが不快な思いをさせました」
そう言うと、ミリアはすっと頭を下げた。
その姿は出来の悪い弟の面倒を見る出来る姉と言った様子だ。
「い…いゃぇ…しょ…しょんなことは…」
偉大な上官を前にガチガチに固まったユーナの口はうまく回らない。なにせ彼女は国中に知れ渡った英雄なのだ。
「ミリア=ベルゼルと申します。この班の班長をしております。今日からよろしくお願いしますね」
艶やかに微笑みながら会釈するミリアに、ユーナも慌てて敬礼するが、手足が強ばったその敬礼はどこかぎこちない。
「ユーナ=シエルニカです!第87班に着任するように指令を受けみゃ…ました!よろしくお願いしましゅ!」
出来の悪いおもちゃのロボットのようにギクシャクするユーナを微笑ましく見ていたミリアが、ふわりとその豪奢な金髪をかきあげる。
その艶っぽい仕草に同性のユーナであっても目を奪われてしまう。
「部屋を案内しましょう。上がってきてください」
「あ……はい…でも…」
ユーナは未だ伸びているレイに視線を向ける。
それを見たミリアは心配ないと言わんばかりに穏やかな微笑を浮かべると…
「レイ、いい加減起きなさい。あなたダメージなんかないでしょう?」
その言葉に反応するように、一瞬レイの体がピクッと動いた。
しかしそのまま動かないレイの体。
一方ミリアはニコニコと笑みを浮かべ、レイの体から目を離さない。
数瞬の間をおいて…
突然、無様に地面にキスしていた体制から、ヘッドスプリングでレイは立ち上がった。
その俊敏な動きからは、微塵のダメージも感じられない。
(そんな…まさか…)
「なんでバラしちゃうんだよ、ミリア!!せっかくこれから介抱してもらって、ユーナちゃんにあんな事やこーーーーんな事迫る気だったのに!」
「あなたと二年もここにいるのよ?あなたの考えなんてお見通しです」
ムキーーーーーーっと猿のように悔しがるレイをユーナは唖然とした表情で見つめる。
(う…うそ…あの時ちゃんと振り切ったのに…)
掌底は平手打ち(俗に言うビンタ)と違い、打ち込む瞬間手首を返さない。
手首のすぐ上にある掌で最も肉の厚い部分を使って、相手の顎を真っ直ぐ打ち抜く。
平手打ちは手首を返すことで肌に衝撃を伝えるが、掌底は撃ち抜くことで顎を捉え、脳しんとうを引き起こす。
有り得ない。有り得ないのだ。ノーダメージでこんなにピンピンしているのは…
(そう言えば…振り切った割に衝撃が軽かった…)
ユーナは目の前でごちゃごちゃと喚いているレイを信じられないものを見るような目で見つめる。
ユーナはたまらずレイに尋ねた。
「少尉は…その…何を…?」
「あん?さーてね…なんd「スリッピングアウェイって言うのよ。顎を打ち抜かれる瞬間、首を捻って、衝撃を逃がすの」
レイの返事に被せるようにミリアがニコニコとタネを明かしてくれる。
「だ~か~ら~~~…なんで教えちゃうんだよ!この後模擬戦とかやった時に気絶するフリできなくなっちゃうだろ!!そしたらきゃー大丈夫ですか、先輩!的なキャッキャウフフの展開ができないだろうが!!」
レイは不満たっぷりにミリアを見やる。
「…あらあらお盛んね…レイは…そうよね…二年間であなたが私に仕掛けたエッチな悪戯の数々は数え切れないほどですものね…」
「なんでこの場でそんなことばらすんだよっっっっっ!」
レイはやかましく騒ぎ立てるが、ミリアはニコニコとどこ吹く風だ。
そんな二人の言い合う様を横目に見つつ、ユーナの思考が少しずつ追いついてくる。
(それって…つまり…)
ユーナは完璧にレイの掌で遊ばれていた…
そう言うことになるのだろう。
その事実が理解できたとき、同時にユーナはレイの恐るべき戦闘能力の片鱗を理解した。
新人ではあるが、けして戦闘の素人ではないユーナを、余裕たっぷりに欺ききるほどのレイの戦闘技術の高さ。
そして離れた場所からそれを一目で見切ったミリア…
(…第87班…最強の班と呼ばれる2マンセル…)
ユーナの顔が強ばる。
しかし、それも一瞬。
ユーナの淡い水色の瞳に爛々と光が宿り、その双眸は二人を見つめる。
(いつか必ず…この二人に肩を並べてみせる!!そして…私は必ず…)
ユーナの決意の表情に気づいたミリアが、レイとの不毛な争いに口を噤み、ユーナを見る。
レイもそれに気づき、ユーナを見た。
強い光を灯したユーナの蒼い目を見て、レイのその表情が一瞬驚愕に彩られる。
「良~~~い目してるな、お前さん」
ユーナをまじまじと見て、レイはそう呟いた。
「レイ=クロムウェル。これからよろしく!」
そう言うとレイはユーナに右手を差し出した。
ユーナは差し出されたその手を前に逡巡するが、迷いを振り切るかのように思い切って手を取った。
ユーナの手の中にあるレイの右手は、ごつごつと拳ダコが張った無骨なものだった。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
その返事を聞いて、レイはにやっと笑う。
二人のその様子を見て、ミリアは優しく微笑み…
「二人とも早くおいでなさい。ユーナ!まずはあなたは荷物の片付けを…部屋を案内しますから」
「はい!」
ユーナは大きく返事をして、先を歩くレイの背を追った。
「あっ…そう言えばっ!」
ふと何かを思い出し、レイが突然足を止める。
「?」
ユーナも足を止め、レイの後ろでその言葉の続きを待つ。
くるっとユーナに向き直ったレイが言葉を紡いだ。
「ユーナくん。キミ、上官にいきなり手を上げちゃダメだろ…罰として、今日昼飯抜きなっ!!」
「えっ…えええええええええ~~~~~~」
ユーナの悲痛な叫びが聳えるメデル山に跳ね返り、辺り一面に木霊した。
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