露出狂おじさんの恐怖!

オニオン太郎

第1話

 吉川美麗よしかわみれいは、暗い公園を歩いていた。


 ――疲れた。普通のOLである彼女は、今日も残業に勤しみ、結果帰宅時間は夜の0時を超えてしまった。


 終電もなくなり、町が閑散とする時間帯。家が近いのがせめてもの救いか。吉川は、25にもなって彼氏もできず、日々を労働に消費する現状にため息をついた。


 ――と。


 キョー! キョキョキョー!


 何やら妙な奇声が聞こえた。吉川はビクリと身を震わせて、そのまま後ろを振り向く。


 そこには、革製のコートを羽織り、深々と帽子を被った男がいた。

 顔はよくわからない。しかし、その男は何かがおかしい。吉川は思わず男をジロジロと見てしまった。コートの胸に付けてある、「オニオン太郎」という名前が印象的だった。

 が――そんな印象が吹き飛ぶくらいの異常に、彼女は気づいた。


 男は、ズボンを履いていなかったのだ。


「キョーキョーキョー!」


 ゴクリ。喉が鳴った。男は妙な奇声をあげながら、嬉しそうな雰囲気でこちらを見つめている。


 ヤバい……! 吉川がそう思ったのと、男に背を向け走ったのは、同時だった。


「いやー!」


 走る、走る。なんだあれ、なんだあれ! 焦りと恐怖で冷汗を流し、一目散に駆ける。しかし、


「キョー! キョキョキョーキョー!」


 男の声は遠くならない。否、むしろ近づいてきている。吉川は驚き、男の方を振り返った。


 男は四つ足になり、豹のようなスピードでこちらへ駆けていたのだ。風を切る音が響く、見る見るうちに吉川と男の距離は近づいていく。


「だ、誰かー! 誰か助けてー!」

「どうかしましたか!」


 何やら誠実そうな声が木霊した。声の下法を見ると、1人の警察官がこちらへ向かって走ってきていた。


「あの、あの変態が追いかけてくるのです!」

「任せてください! こら、そこのお前!」


 警察官が叫ぶと同時、男は「キョキョー!」と言いながら、警察官に向かって大きく跳んだ。

 そして、警察官の肩に身を縮ませて乗ると、彼の顔を両手で取り、男の顔へと近づけた。


「んばぁ……」


 そして、男は警察官の口にディープキスをした。

 ちゅる、ちゅるちゅるちゅる。舌を吸う音が聞こえる、吉川はその音にある種の絶望を覚えていた。


 と、男は警察官の顔を放し、そのまま後ろへと転ばせる。


「は、初めてのチューだったのに……」

「ど、童貞警察官さん!」


 吉川が警察官の元へ駆け寄ろうとした直後。あの男が、その道を遮るように吉川の前に立った。


「ぐっふっふ……」


 そして、男は。


「んばぁ!」


 高らかに叫びながら、コートを開いた。

 吉川が見たのは、さながら黄金の輝きを放つ金塊だった。あまりに堂々とした露出に、あるいは後光がさしたのかもしれない。神秘的とも言えるその光景を見た吉川は、そして――


「きゃあああ! 小さい!」


 気付けばそう叫んでいた。正直、大きいのか小さいのかの基準はわからない。だが、そうであったとしてもわかるほど、男の金塊は小さかった。


「んご……」


 そして男は、その言葉にショックを受けたのか、そのまま地面に倒れ付し、しばらくもしないうちに消滅してしまった。


 その後、吉川は精神的にも肉体的にも疲弊した警察官を介抱し、彼からお礼をしたいと連絡先を教えて貰った。その後、彼女と警察官の交際が始まり、今では婚約をして、幸せに暮らしているという。


 それもこれも、あの――露出狂おじさんが襲ってきたからだ。そんな結論に達しそうなお話ではあるが、露出狂おじさんことオニオン太郎は、特に何も考えずに局部を露出したいだけのおっさんである。みんなも気をつけよう。

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