ダメ姉は、催眠される(その4)
~SIDE:ヒメ~
マコにかかった催眠を解こうと集った私たち。しかしながらどれだけ手を打とうともどれだけ試行錯誤しようとも。相当深くかかっているらしいマコの催眠は未だに解ける気配はない。
参った……このままじゃ私、ホントにコマに殺されるかもしれん……
「……後輩もダメ、先生もダメ。困った……最早打つ手なしか……」
「ちょいちょい?おヒメ、大本命のこのわたしを忘れてはいないかしらん?」
もう後がない私を前に、自分で自分の事を大本命とか自信満々に言い出すお調子者が一人現れる。
「このわたしこそ、マコの世界一の大親友。マコの事なら叶井かなえにお任せあれ。そうでしょうおヒメ?」
「……んー」
カナーか。うーん……どうだろうか。本人の言う通り、マコに本気で惚れているだけあってか。マコ関連のトラブル解決力はコマと同じくらい―――いいや、ある一面ではコマ以上に頼りになると思う。思うんだけど……
「……カナーは……一番危ない気がするし」
「あ、それはあたしも同感です」
「み、右に同じく……」
「なんでよ」
頼りになるのと同じくらい、頼ったら危ないと思う私。何せ常々マコをコマから寝取ろうと声高らかに宣言している変人だ。催眠を利用して、あんなことやこんなことをマコに強要する恐れが高い。ひじょーに高い。下手をするとマコが美味しく食べられちゃう可能性も……
「あんたらねぇ……考えてみなさいよ。どの道ね、ここで催眠が解けなきゃ皆まとめてコマちゃんに殺されちゃう事になるのよ?」
「……それは……確かにそうだけど……」
「だったらここは、わたしに賭けてみたらどうよ」
「……むぅ」
そう言われて少し考える。……カナーの言う通り、ここで催眠が解けなければどちらにしても同じこと。催眠が解けなきゃあのコマに―――
『愛しきマコ姉さまになんて酷い事をしてくれたんですかね皆さま方』
と。一撃で屠られてしまうだろう。催眠を利用して好き勝手した皆も。勿論不覚にも催眠をかけてしまった私も。
「……カナーを信じてホントにいいの?」
「ふふん、大船に乗ったつもりでいなさいなおヒメ」
「叶井先輩の場合、大船っていうよりも泥船ですよねー」
「し、沈まないか心配ですね……」
「やかましいわ外野共。……で、どうすんのおヒメ?やるの?やんないの?」
……正直不安しかないけれど。
「……マジでヤバイ催眠するなら、私止めるからね」
「オーケー。マコはわたしに任せなさい♪必ず催眠を解除してみせるわ」
後は野となれ山となれ。どうせコマに殺されてしまう運命ならばここは一つ、一縷の望みを託してみるしかないのではなかろうか?
そんなわけで最後の希望をカナーに託す私。カナーの挑戦が今始まる。
◇ ◇ ◇
~命令その1『メイクをさせなさい』~
「はい完成。うんうん、マコ綺麗よ」
「…………はい」
「うわ……か、叶井先輩凄い……マコ先輩、いつも以上に輝いてますね……!?」
「マコさん、女優さんみたい……素敵……」
「ふふん。どーよ?綺麗でしょマコ。今のはキレイ系で攻めてみたんだけど―――ここをこうして、こうすると……」
「わぁ……わぁあ……!!!ま、ままま……マコ先輩が、あたし好みのイケメン風に……!」
「へぇ……マコさんの体型とはアンバランスなメイクですけど……これはこれでアリかもですね」
「ふふ。これでも意外と似合うでしょ?素材が無限の可能性を持ってるマコだから、どんなメイクも映えていいわぁ」
「……」
……メイク程度ではマコの催眠は解けないようだ。次に賭けよう。
~命令その2『マッサージをさせなさい』~
「…………んっ、はぁ……」
「ふふふ。どうかしらマコ?気持ちいい?気持ちいいならちゃんと教えてね」
「…………はい。とても気持ちがいいです」
「そうでしょうそうでしょう♪ああ、気持ちいいなら我慢なんかしないでもっと声とか素直に出して良いからね。てか、寧ろマコのカワイイ声聞かせてよ」
「…………はい―――ぁっ……ソコ、いい……です……イッ……ぁ、ああ……ッ!」
「~~~~~ッ!!!そう、それよ……!その喘ぎ声を聞きたかった!もっと聞かせて!その素敵な声、わたしに聞かせなさいマコ……!」
「ま、マコ先輩の声……なんか……」
「えっちい……ですよね……」
「……」
……マッサージ程度でもマコの催眠は解けないようだ。次に賭けよう。
~命令その3『ヌードデッサンさせなさい』~
「か、叶井先輩……これは、流石にアウトなのでは……!?」
「何を言うか後輩。これはね、アートなのよ。ヌードアートは芸術なの。芸術だからいかがわしい気持ちなんてこれっぽっちもないわ」
「な、なるほど一理ありますね……!芸術なら問題ありませんね……!」
「わかって頂けたようで何よりです先生。んじゃマコ。早速ヌードデッサンを始めるわね。最初から全部脱いじゃうのはもったいないし、一枚ずつ焦らすように脱いでいって頂戴な♡」
「…………はい」
「……」
……ヌードデッサンという名のストリップショーをさせてもマコの催眠は解けないようだ。次に(ry
~命令その4『わたしの愛犬(ペット)になりなさい』~
「マコ、お手」「…………わん」
「マコ、おかわり」「…………わん」
「マコ、伏せ」「…………わん」
「よーしよし。マコは良い子ねぇ。ちゃんと出来たご褒美におなか撫でてあげる。そこにゴロンって横になりなさい」
「…………きゅーん♪」
「ま、ままま……マコ先輩かわいい……!あ、あたしも!あたしも撫でて良いですか!?」
「…………ぐるるる……ッ!」
「す、すっごく警戒されてますね柊木さん……」
「な、なんでですかー!?」
「ああ、そりゃそうでしょ。わたしのペットって条件で催眠がかかってるからね。そりゃわたし以外の人間が触れようとしたら警戒もするに決まってるでしょ」
「ず、ズルいですー!!?」
「フハハハハ!残念だったわね。今のマコはわたしのカワイイ忠犬よ」
「……」
動物化催眠を施して屈辱の限りを晒されてもそれでもマコの催眠は(ry
◇ ◇ ◇
「―――あー、楽し♪催眠って良いわねぇ」
「……ねえ」
「さてさて、んじゃ次はどんな催眠をしちゃおうかしらね」
「……ねえ、ねえ。カナー聞いて」
「んー?何よおヒメ。今かなり良いところなんだから。要件があるなら手短にお願いね」
「……やっぱ、キサマも催眠なんて解く気ゼロでしょ」
……今の今まで敢えて何も言わなかったけど、もう我慢の限界。薄々わかったいたけど、カナーも催眠を良いことにマコを好き勝手してるだけじゃんか。ちょっとでも信頼した私がやっぱりバカだったよ。
「失敬ね。ちゃんとマコの催眠を解くつもりはあるわよわたし?」
白々しくそんな事を口にするカナー。ほほぅ?まだ言い残した事があると?
「……あれだけ色々やってもマコの催眠は解けなかったじゃないの」
「そりゃそうよ。メイクしたりマッサージしたりヌードデッサン描いたりペットになった程度で、催眠が解けるわけないでしょ?おヒメはあんなので解けると思ってたの?」
「……おいこら」
じゃあ、今の今までやってたことはなんだと言いたい。
「そうね、まだまだ楽しみたいところだけど……あんまり弄ってもマコが可愛そうだし。おヒメもガチギレしそうだし仕方ない。そろそろ真面目に催眠も解くとしましょうか」
「……最初から真面目にやってほしい。こちとら命がかかってるわけだし」
「ああ、でもその前に。マコ、わたしから最後の
「……あっ」
この期に及んで何かまたマコに催眠をかけようとするカナー。
「マコ、命令よ―――(ごにょごにょごにょ)」
「…………はい」
わたしが止めようとするよりも早く、カナーはマコの耳元で小さく何かを呟いた。しまった、遅かったか……
「……なんてマコに命令したの?」
「ふふ、ナイショ」
やたら満足そうな笑みを見せて、私がいくら問い詰めてものらりくらりと躱すカナー。こやつ、なんて言ったんだろう?
「安心しなさいおヒメ。わたしにとっても、マコにとっても。決して悪い催眠ってわけじゃないからさ」
「……好き勝手マコの事弄ったやつの言葉とか、まるで信用できないし安心できないんだけど?」
結局最後にカナーが命じた催眠が何だったのか分からずじまい。……大丈夫かな……?変に後遺症が残るような催眠じゃなきゃいいんだけど。
『マコ、命令よ―――この催眠が解けても……これから先、自分の事をずっと大切にして。いつまでも健やかに、いつまでのその輝きを失わないで。貴女は誰よりも素敵な女の子だって、心の中でちゃんと自覚して』
◇ ◇ ◇
「さーてと。んじゃ名残惜しいけど、マコの催眠解くわね」
何かしらの確信でもあるのだろうか。やけに自信満々に『マコの催眠の解き方ならわかる』と言い張るカナー。
「とりあえずあの子に電話しなきゃね。えーっと、スマホスマホっと」
そのカナーは唐突に懐からスマホを取り出して誰かに電話をし始めた。
「あー、もしもし?」
『―――?』
「うん、そうよ叶井よ。今電話良いかしら?」
『―――、―――』
「うん、うん……いや何。ちょっと報告しておきたい事があってね」
『―――?』
「いや、別に大した事じゃないけど。実はさぁ―――マコが催眠にかかっちゃってねー」
『―――!!!―――、―――!!?!!?』
「え?ああ、いや誤解よ。今回の主犯はわたしじゃないわ。安心しなさいな。―――まあ、マコが催眠にかかっているこの素敵な状況を……存分に利用したいなーとは思ってるけどネ♡」
『―――ッ!!!(ブチィ!)』
数秒のやり取りの後、電話の向こうの相手は何やら激昂した様子で一方的に通話を切る。
「……カナー。今誰に電話したの」
「んー?ああ、すぐにわかるわ」
何故だろう。なんだかすごく嫌な予感がするんだけど……
「さて。おヒメに柊木に先生。マコの催眠の解き方の話に戻るけどさ。―――あんたら割と良い線行ってたのよ?良くも悪くもマコの心を揺さぶる何かがあれば催眠が解けるって考察とか。マコの興味や趣味嗜好を攻めてみるところとかさ」
「そう言われましても……叶井先輩?結局マコ先輩の催眠は解けず仕舞いじゃないですか」
「い、一体どんなことをすれば……マコさんの催眠が解けるというのですか?」
是非私も聞きたい。何をすればマコの催眠が解けるんだ?
「みんな難しく考え過ぎなのよ。あのマコが最も心惹かれている存在―――それを考えれば一発でわかるはず」
そう言われて考えてみる。マコが最も心惹かれる存在……恋焦がれて、何よりも大切にしているであろう存在と言えば……
「「「……あっ」」」
この場にいる全員の脳内で、一人の女の子の姿が思い浮かんだ。そして次の瞬間―――
「マコ、姉、さまぁあああああ!!!!」
脳裏に浮かんだまさにその人物が、カナー達の手によって封鎖されていた教室の扉を蹴破り侵入してきた。自慢の脚力で瞬時に近づき自慢の腕力でマコを悠々と抱きかかえ、そして親の仇でも見るように私たちを恐ろしい形相で睨みつけるその人の名は。
「―――性懲りもなく、私がいない間に……よくも私のマコ姉さまを好き勝手してくれましたね皆々さま……!」
「やっほーコマちゃん。お早い到着だったわね」
マコの最愛の妹で、今最も会いたくない相手―――立花コマその人だった。……ああ、オワッタ……
「……カナー。まさかとは思うけど……今電話したのって」
「んー?うん、そうね。電話の相手はコマちゃんよ。わたしがコマちゃんを呼んだの」
「……なんてことをしてくれたんだいキミは?」
「仕方ないでしょー?こうしないと問題解決できないわけだし」
あっけらかんとそう告げるカナー。ああ、バレちゃう……マコに催眠をかけた事も。この三人の魔の手からマコを守れなかった事も。コマに、このヤンデレシスコン過激娘にバレちゃうじゃないか……
「状況を察するに……大方アレですね?ヒメさまが冗談で姉さまに催眠をかけ、それが見事に大成功。どうにか解決しようとした矢先にそちらの三人に催眠された姉さまを発見され。あれやこれやとされてしまった、と」
「……」
まるで見てきたかのように詳細にこの状況を予測分析してくるコマがこわい。ジトっと私を睨んでくるコマがこわい……
「全く……そこの三人は勿論の事。どうしてヒメさまは私にすぐに連絡してくれなかったんですか」
「……連絡する前に、三人に捕まっちゃったから」
あと、連絡をしたらしたで。マコに催眠かけた罪で処刑されると思ったから。
「やれやれです。まあ、全員の説教は後でするとして」
「…………」
「姉さまの催眠を解く方が先ですね」
「……え?」
どういうわけかマコが催眠されたこと自体はあっさりと受け入れている風なコマ。
「……ねえ、コマ。なんだか随分と手慣れているように見えるけど……マコの催眠の解き方、わかるの?」
「そりゃ手慣れていますし分かりますよ……だって、ねぇ?」
「まあ。わたしがしょっちゅうマコに催眠かけて。コマちゃんがその催眠解いてを繰り返してたらそりゃ手慣れるわよねー」
「「「…………!?」」」
二人の口から放たれた、衝撃の言葉。おい、オイ待てカナー……?今何て言った?
「……カナー。知ってたの、催眠を解く方法を……!?てか、催眠かけるのこれが初めてじゃなかったの……!?」
「え?いや知ってたも何も。言ってたでしょ、催眠の解き方わかるって」
「……なら何故早く実行しない……ッ!」
「だっておヒメならすぐに気付くと思ってたし。マコに一番衝撃を与えられるのは―――コマちゃんの存在だって事にさ」
「……言われてみればその通りだけど、だけど……!」
その発言にがっくりと肩が落ちる私。今までの私の苦労は一体何だったんだと言いたくなる。こいつ……私たちが催眠解くのに四苦八苦していたところも含めて、やっぱ催眠を楽しんでいやがったな……!?
「もう……催眠をかけたヒメさまも。催眠を利用して散々お楽しみなさった三人もですが。あっさりと催眠されちゃう姉さまも姉さまですよ」
「…………」
すっかり気の抜けた私をよそに。ため息交じりにそんな事を呟きながら、コマはゆっくりとマコに近づく。催眠状態でぼーっとしているマコの頬に手を添えて、
「ほら、姉さま―――目を覚まして」
二人の濡れた唇は、一つとなった。そして―――
◇ ◇ ◇
~SIDE:マコ~
「―――ふぁ?」
ふわふわとした微睡みの中。突然経口投与で身体中に幸せオーラを注入されて完全覚醒する私。……あれ?私、今もしかして寝てた?
「良かったです。姉さま、無事にお目覚めのようですね」
「ありゃ……コマ?部活はもう終わったのかな?」
「寝坊助さん。今回もちゃんと起きれたみたいね」
「マコさん、お疲れ様です……」
「マコ先輩!おはようございまーす!」
「おっ、カナカナ。それに先生に……レンちゃんまで」
どうやら知らないうちに眠っていたらしい私。寝ぼけまなこを擦ってみると、目の前には最愛の存在が笑顔で立っていた。いつの間にかコマも部活を終えて戻ってきていたらしい。ついでにカナカナや先生。そして何故かレンちゃんまでもいる。いつものメンバー勢ぞろいだ。
「……マコ、大丈夫?」
「へ?大丈夫って?」
と。そんな中どうした事かヒメっちが心配そうな顔でそんなことを言ってくる。そう言えばヒメっちとお話していた最中に眠くなった気がする。
ひょっとして私ったらヒメっちとお話をしている途中で眠り被っていたのだろうか?そりゃ心配もするよね……ごめんねヒメっち。
「……まさか、覚えてないの?」
「ん?覚えていないのって何が?」
「……なんでもない。知らぬが仏。…………とりあえず、色々すまんかった」
「え?なんで謝ったの今?」
なんだ?何かヒメっちに謝られることでもされたのか?眠っている間に顔に落書きでもされちゃったのかな?まあ落書き程度なら別に許すけど……
「……とりあえず、マコ」
「うん?何かなヒメっち」
「……忠告する。その無防備さは、ちょっとどうにかしたほうが良いと思う」
「……何の話?」
「……あと、今後そこの3人が五円玉とヒモを持ってマコの前に現れたら……最大限に警戒するように」
「だから何の話!?」
ヒメっちのその警告に一体どんな意味があるのかよくわかんなかったけど……
どういうわけか後日。ヒメっちの警告通りカナカナや先生、レンちゃんがその五円玉とヒモを手にし。興奮した様子で私の前に現れることが増えた事だけはここに記しておく。
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