ダメ姉は、勉強会に参加する(その6)

 ~SIDE:マコ~


 勉強会からお泊り会へ移行したり。皆でお風呂に入ったり。寝ぼけたカナカナ・レンちゃん・せんせーたちが私のお布団に潜り込もうとして(※故意です)それを阻止しようとしたコマと大喧嘩したり……

 まあ色々トラブルもあったけど、平日は学校の図書館で。週末は私たちのお家で勉強しながら皆でワイワイ過ごしていって。気が付けばもうテスト一週間前に差し掛かっていた。


「―――うん。いい感じですね姉さま。お疲れ様です、ちょうどキリも良いですし今日はこの辺にしましょうか」

「はーい、コマ先生!今日もありがとうございました!」


 本日のノルマも無事終了。今日も今日とて自分の勉強時間を削ってまで献身的に私に勉強を教えてくれた最愛のコマに心からの感謝の言葉を送りつつ、二人で仲良く勉強道具を片付ける。


「流石私の姉さまです。この調子なら目標にしていた全科目赤点回避は余裕でしょうね」

「まあ、あれだけ優秀な皆に付きっ切りで勉強教えて貰ったわけだからそりゃ余裕も余裕だよねー。今回はテスト勉強する時間もたっぷりあったわけだし」

「いえいえ。全て姉さまの実力ですよ。姉さまはやればできる子ですから!」


 やらないからダメな子、とも言う。


「しっかし、こんな風にコマと一緒に勉強してると……中学時代にコマに勉強教えてって泣きついたあの日の事を思い出すよ」

「ああ、そういう事もありましたね。なんだか懐かしいです」


 赤点を取りまくって、下手したら留年するかもしれない―――そう親友に脅されてから流石に危機感を覚えて勉強をコマに教えて貰ったこともあったっけ。

 ……今更だけど。高校生になっても変わらず妹にも親友たちにもおんぶにだっこで勉強を教えて貰っている私って……その頃から今まで結局成長してないわな……


「そうそう。思い出しましたよ。あの時って確か……姉さまが全科目赤点回避をしたら、ご褒美に『一つだけ、姉さまの言う事を何でも聞く』って約束しましたよね」

「あー!あったあった!それ聞いて私、すっごい気合入って勉強したんだよねー!」


 まあ、気合入れ過ぎて最後の最後で一夜漬けなんてしてしまい、反動で試験中に寝てしまうという致命的ミスをやらかしたせいで……そのご褒美は残念ながら無効となってしまったわけだけど。


「あん時は惜しい事したなぁ……悔しかったなぁ……自業自得とはいえ、折角あれだけ頑張ったのにあと一歩のところでご褒美に手が届かなかったなんて。今からでも時を遡ってリベンジしたいくらいだわ」


 コマにお茶を淹れながら、苦笑いでそう言ってみる私。するとコマもふふっと微笑して……


「ふふっ、でしたら折角の機会ですし―――今回の試験でリベンジしてみてはいかがですか?」

「ん?と言うと?」

「ですから、リベンジです。あの時と同じように……『試験で全科目赤点回避が出来たなら、一つだけ姉さまの言う事を何でも聞く』―――というご褒美を用意しましょう。そうすればリベンジになりますでしょう?」


 そんな事を軽い口調で言い出した。…………なんですと?


「……コマ、それ本気で言ってる?」

「え?あ、ええっと……はい。まあ、頑張っている姉さまに何かご褒美があったら良いなとは思っていましたから……姉さまがそんなご褒美で満足してくださるのであれば……喜んで」

「……本気で、なんでも言う事聞いてくれるの?なんでも、だよ?」

「あ、あの……姉さま?急にどうなさいましたか?なんだかお顔が、ちょっと怖い……ような?」


 私はコマに再確認する。……『場を和ませるための冗談でした』とか言われないように、有無を言わさないように鬼気迫る勢いで。


「なんでも、だよ?コマはあの時と同じ条件で、とか言ってるけど……あの時とは状況が違ってる事、ちゃんとわかってる?」

「……と、言いますと?」

「……あの時は、一応私……コマへの好意を隠していた。あくまでも家族として好きだって誤魔化してた。コマに嫌われないように、恋愛感情を持っていたことをひた隠しにしてたんだ」

「え、ええ。私もそうでしたけど……」

「……けど今は違う。コマとは……想いが通じ合って結ばれた恋人同士で。心の内も、身体も、お互いの性癖すらもぶつけ合ってきた。えっちい事もお互い躊躇なくやり合える関係になっている。…………それを理解しているうえで、もう一度聞くよ?……本当に、なんでも言う事聞いてくれるの……!?ひょ、ひょっとしたらドン引きされるような事をさせられるかもしれないよ?お姉ちゃん、えっちい事覚えた今なら、すっごいえぐい事もやらかすかもしれないよ?それでも本当に、良いの……!?」

「ぐ、具体的に一体何をする気なんですか姉さま……?」


 それはナイショ。今言ったら約束を反故にされるかもしれないし……


「で、どうかな……どうかな!?本当に、本当に全科目赤点回避したら……なんでも言う事聞いてくれる!?」

「え、ええっと。流石にそこまで念を押されると、姉さま相手とはいえちょっと怖い気持ちもありますが…………ま、まあ。女に二言はありません。い、良いですよ……?もしもちゃんと姉さまが条件を達成出来たら……私の事、好きにしても……良いです……」

「っしゃぁ!!!言質取ったぁ!!!」


 私があまりにも必死過ぎたのが効いたようで。コマは渋々同意してくれる。よし……よし!やった、やったぞ……!これで勉強に更に身が入る。モチベが上がるぅ!


「そうと決まれば、休んでる暇なんてないよね!早速コマに教えて貰ったところを復習しなくっちゃ!」

「えっ!?あ、あの姉さま……?い、今勉強終わったばかりですし……少し休まれては……」

「大丈夫!まだまだいけるッ!……あ、コマは付き合わなくていいよ。ゆっくり休んでて良いからね!」

「し、しかし……」

「というか、休んでて!コマには―――ご褒美の為に、少しでも体力を残しておいて貰わないといけないからねっ!」


 そう言って私は再び勉強道具を取り出して、机にかじりつき勉強を再開する。さぁヤるぞぉ……!……今度こそ私はヤってヤるぞぉ……っ!


「うぉおおおおおお!!!ご褒美ぃいいいいいい!!!」

「…………か、軽はずみで『なんでも言う事を聞く』とは言いましたが……ね、姉さま?い、一体私どんな凄い事をされちゃうんですかね……?」



 ~SIDE:コマ~



 私とそんな約束をしてからの姉さまは、それはもう……何と言いましょうか。物凄かったです。勉強会では無駄口など聞かず一心不乱に勉強し、私やかなえさまたちが声をかけても反応されないほどに集中されて。

 勉強会が終わっても夜になると自主学習をされるのは勿論の事。授業中はおろか、休み時間も……わずかな時間を見つけて復習されて。


「この勢いですと、全科目平均点越え……いいえ、全科目満点も夢ではないかもしれませんね」

「あははー。いやぁいくら専属家庭教師たちの腕がいいとはいえ、流石にそれは無理じゃないかな?」

「い、いえ……平均点越えはほぼ確定。下手をしなくても本当に満点もいける気がしますよ姉さま。……え、えっと……どうします?もしも全科目で平均点を超えたり、満点を取れたら……何かしらご褒美を追加したほうが良いのでしょうか?」

「あー。気持ちはありがたいけど……別にいいよ。条件は前と同じで。あくまで赤点回避が目的だったわけだし。勉強を教えて貰っている身なわけで贅沢言える立場じゃないし。それに―――」

「それに?」

「……これ以上ご褒美を増やしたら、コマの身体がもつかどうかわかんないし」

「い、一体何をなさるおつもりなのですかね姉さま……?」

「えへへぇ。ひーみーつー♡ま、とりあえずコマ!約束は守ってね!お願いだよ!」


 ……ホント、どんなことをされるのでしょう。お優しい天使のような姉さまです。そんな無茶な事を言ってくるとは思えませんが……

 ……あれだけ念を押してまで姉さまが私にしたい事。姉さまにシて貰える事……内容が全く想像できません。期待半分、興奮半分―――じゃなかった、不安半分です。


 そんなこんなで迎えた試験当日。


『フハハハハハ!この立花マコ、同じ轍は二度と踏まぬわ!』


 と、意気込む姉さま。一夜漬けをして失敗した苦い経験を活かし、前日はしっかりと睡眠をとられて準備は万端。最高のコンディションで試験を挑まれました。

 本人も『過去最高に勉強したし、手ごたえあるよ』と満面の笑みを浮かべられていました。


 そして気になるその試験結果ですが―――



 ◇ ◇ ◇



「―――ぜ、全科目……文句なしの百点満点……」

「お、おぉ……私もビックリだわ。人生初の学年一位……まあ、コマたちも文句なしで一位だけど」


 思った通り。期待以上の結果を残してくださったマコ姉さま。私・かなえさま・ヒメさまと並び、堂々の学年一位を叩き出しました。


「調子よかったと思ったけど、まさかここまで自分が出来るなんてねー。流石はコマ!そしてカナカナたち!みんなのサポートのお陰だよ!自分だけじゃこんなに上手い事出来なかったし、ホントにありがとー!」

「い、いえ……」


 謙遜する姉さまですが、これは私たちの教えがどうこうというか……姉さまの努力の賜物ではないでしょうか。


「さーて、と。ねぇコーマ♡」

「は、はい」

「コマはさ……一週間前の約束、ちゃんと覚えているよね?ね?」

「も、勿論ですとも。覚えています……よ?」

「うんうん!それは良かった。……コマたちの協力のお陰で、ちゃんと赤点回避したよ私。つーか、満点まで取っちゃったよ私」

「そ、そのようですね……」


 ……あと、努力の他に付け加えるなら姉さまの欲望がそれはもう強かった。今回の試験……姉さま同様に満点を取った私が言うのもなんですが、決して簡単だったわけではありませんのに……満点まで取ってまで、この私にやってほしい事があったご様子。

 子供が誕生日プレゼントを期待しているような……それはもうキラキラした愛らしい目で私を見つめ、そしてにっこり笑って姉さまはこう続けます。


「じゃあ、さ。約束を守ってくれるかな?―――赤点回避したら、何でも言う事聞いてくれるって約束……守ってくれるかな……!?」

「……は、い」

「……やっぁああああああああああ!!!!」


 私が恐る恐る頷くと。姉さまはそれはそれは大層喜んでくださります。私の手を取りその場でぴょんぴょこ跳ねる姉さま(かわいい)。

 一方の私は……内心ドキマギしながら次に放たれるであろう姉さまのお願いに備えて身を固くします。


「(どんなことをお願いされるのでしょう?)」


 なんでも言う事を聞くと約束してから一週間。どんなお願いをされるのですかと何度聞いても教えてくれなかった姉さま。

 ……あんなに熱心に、寝る間も食べる間も惜しみながら勉強されていたわけですし……生半可なお願いではないハズです。


「(あれだけ念を押してまで、そしてあれだけ必死に勉強してまで姉さまが私にやってほしい事です……かなり無理のあるお願いなのでしょうか?もしそうであるなら……例えば『私の従順なペットになって』とか『私の雌奴隷として振舞いなさい』とか……?)」


 正直そういうお願いは……(ちょっぴりSな)私向きではない気はしますが……姉さまが望まれるのであれば、黙って従うつもりではあります。ぞんざいに扱われようが全裸で姉さまの愛玩ペットとなろうが決してやぶさかではありません。

 いえ、寧ろそれはそれでご褒美なのでは?普段と打って変わって姉さまに攻められる私…………あ、まずい。なんか想像したら濡れ―――


「―――ま?こ、ま……コマ?」

「ハッ!?な、なんでしょうかご主人様!?」

「へ?ご主人……?こ、コマ?どしたの?なんかトリップしてなかった?」

「…………コホン。すみません、なんでもありません。そ、それで姉さま?その……ご褒美の内容は……私にやってほしい事は、もうお決まりでしょうか」

「あ……う、うん。大丈夫。その、さ。実は……ご褒美を提案された時から……決めてたから。恥ずかしい事だけど、コマにお願いしたいなってずっと思ってたことだから……」


 はにかむように姉さまは照れた表情でそう言います。そ、その反応……やはりそうなのですね……!?相当に、ハードな内容なのですね……!?


「じゃ、じゃあコマ……早速だけど。お願いしても良いかな」

「ど、どうぞ……!もう、好きに言ってください!そして好きに私を扱ってくださいませ……!」

「よ、よし!じゃあ言うよ!お願いするよ!あ、あのね……」


 安心してくださいマコ姉さま。どれほど無理難題なお願いだろうと。私は、コマは……腹を括りました。さあ、遠慮なさらずに……心の赴くがままに私に命じてください……!

 そうして覚悟を決めた私に対して。姉さまは一世一代の告白をするかのような真剣な表情で。








「一日でいい、お願いコマ。どうか……どうか!私の、、振舞って!」

「…………はい?」

「ちゃんと、妹として、振舞って!」

「…………???」


 姉さまから放たれた言葉は、私の頭脳では理解できない内容。困りました……日本語なのに姉さまの仰る意味が分かりません……

 いや、あのマコ姉さま?振舞うも何も。私、正真正銘……ちゃんとした姉さまの妹なんですけど……?

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