ダメ姉は、オシオキされる(本番編)
まだお昼だというのに目の前が真っ暗になり私はパニックになりかける。よくわからんが……何かに目を覆われている感覚だけ、かろうじてわかった。
慌ててその覆っている何かを取り外そうと手を伸ばす私なんだけど……
「だーめ♡」
「わ、わわっ!?」
その手を何者かに捕まれて、そして後手にひも状の何かであっという間に両腕を縛られる。な、何この状況……というか、今の声……
「こ、コマ?コマなの?これ……コマがやってるの……?」
まあ、冷静に考えれば今この家にいるのは私とコマの二人だけ。叔母さんや編集さんは出張中だし、こんなことが出来るのは直前まで私の目の前にいたコマだけだから……必然、これはコマがやっているのはわかる。分かるんだけど……何のために私の視界を遮ったり、腕を縛ったりしているのか……それが分からない。
困惑しながらもコマを呼ぶと、コマらしき気配が私の耳元まで近づいて―――
「……フーッ」
「ひゃぅ!?」
そして小さく息を吹きかけられた。瞬間、身体の芯までぞわぞわとした感覚に襲われる。や、やだ……なに、これ……!?
振り払おうにも両腕は後手に縛られているから抵抗できない。身をよじって抵抗しようとしてみたけれど、後ろから優しく―――そしてしっかりと抱かれて逃げられない私。
「……言ったでしょう。オシオキするって……言ったでしょう。身体で払ってもらうって」
「こ、これが……オシオキ……?」
「ええ、オシオキです。……実は前々から試してみたかったんですよね。いい機会でしたから、オシオキも兼ねてやってみようかと」
「やってみるって……何を?」
「目隠しして……縛って。姉さまを好き放題にやってみようと。姉さまもお好きでしょう?SMプレイ。以前叩かれると悦びを感じるって言ってましたし……」
「好きじゃないしそんな事言ってないよ!?」
コマに怒られて感謝をしたことはあったけど、別にビンタをされて悦んだわけじゃないんだよ……!?なんか盛大に勘違いされてる気がする……なんでまたコマも友人たちもそろって皆私の事マゾだのなんだのと言ってくるんだ……?
「え?なら興味ないんですか?止めちゃいます?」
「え…………い、いや……その。興味……な、ない…………わけでも、ないけどさ……」
まあ、それはそれとして。興味がないとは言ってない。
……やっぱお前マゾだろって?ち、違うし……性的……じゃない知的好奇心が旺盛なだけだし……
「それは良かった♪今日色々と見繕って購入した甲斐がありましたよ」
「見繕う……?あ、まさか……!?」
「お察しの通りです姉さま。今目隠ししているそれは、さっきドラッグストアで買ったアイマスクです。ちなみに姉さまの腕を縛っているのは―――さっき私が姉さまにプレゼントした、リボンです」
「……ッ!?」
それを聞いた途端、全身に緊張が走る。今この瞬間、私を縛っているのはただの布でできたリボンではなく、ある意味で強固な鉄で出来た鎖と同種のものと化した。
「ホワイトデーのお返しでもありますからね。お返しである姉さまにラッピングしちゃいました♡姉さま、とてもお似合いですよ」
「え、マジで……マジで縛ってるの……?しかもさっきコマが買ってくれたあのリボンで縛ってるの……!?」
「はい。うふふ♪初めて縛るわけですし、怪我とかしないように安全面も考慮してみました!……ああ、姉さま。もしも怖かったなら遠慮しないで抵抗してくださいね。そのリボンなら、簡単に千切れると思いますから」
コマは優しくそう言うけれど……出来るかいそんな愚行!?折角コマからプレゼントして貰ったリボンを、この私が自分の手で千切れるわけないでしょうが……!?
や、ヤバイ……下手に鎖とかで縛られるよりもよっぽどヤバイ。これじゃ、まともに抵抗できない……!想像してたよりもはるかにオシオキのレベルが高くなりそうな気がしてきたぞコレ……
「リボンついでに……このチョーカーも付けちゃいましょう。さ、姉さま。首を出して」
「ぁう……」
「ああ……!やっぱり私の見立て通り、とても素敵です姉さま……!カワイイ……!」
緊張で身体がガチガチになる私をよそに。コマは先ほど購入したチョーカーを嬉々として私に嵌める。……どうやらコマはSMプレイをする為にこのチョーカーを買ったらしい。気分はまさにコマに従順な飼い犬だ。
最初に見た第一印象通り、やっぱこれチョーカーじゃなくて首輪じゃんか……
「さて。準備も整ったところで……姉さま、どうですか?初めて目隠しされてみて……」
「ど、どうって…………真っ暗で、なんにも見えなくて……コマの声しか頼るものがなくて……緊張する」
「縛られた感想は?」
「縛られているのは……圧迫感と、抵抗できない感じが……まさに拘束されちゃってるってダイレクトに伝わってきて……このまま、コマに好き放題にされちゃうんだなって……そう思うと、なんか……」
「なんか?」
「……なんか、身体中が……ゾクゾクなる……」
「はい、よく言えました♡」
コマに後ろから抱きつかれながらプレイの感想を言わされる私。正直に話すと、いい子いい子と言わんばかりに頭を撫でられる。
「……姉さま。一応、オシオキという形でやらせて頂きますが……本気で嫌なら嫌だと言ってください。初めてですし、私調子に乗りやすいので……やり過ぎる可能性もありますからね」
「わ、わかった……」
「では……」
優しいコマは始める前に一言前置きをくれる。……大丈夫。わかってる。コマは私の本気で嫌がることは、絶対にしないって信頼してるよ。……まあ、嫌がる一歩手前くらいを攻めてくることも勿論わかっているケド。
私がゆっくり頷くと、コマは頭を撫でていたその手を……ゆっくりと太ももへと降ろしていった。
「んっ……」
触れるか触れないかの絶妙なタッチで、ゆっくりとコマは私の太ももをなぞる。指先でくすぐられるこそばゆさに逃げようにも、縛られているうえに後ろからコマに抱きつかれているからやっぱり逃げるに逃げられない。
「ゃ……ん、くっ……」
コマに指定されていた服でデートしていたから、私にしては珍しくマイクロミニなスカートを履いているせいで……生の太ももを容易に撫でまわされる。指先が肌を這うたびに普段以上に甘い痺れが私を襲い身体がビクンっと反応を示す。
……不思議。これくらいのボディタッチ……いつもコマとやっているはずなのに。私たちにとっては軽いスキンシップみたいなものなのに。気を抜くとなんか……変な声が出ちゃいそうで……
「ひっ……!?お゛、お゛おぉ……ふ、ぁあ……!?」
「ふふ……姉さま、やっぱりお耳が敏感ですね。……反応、かわいい……」
太ももばかりに気を取られていたせいで油断をしていた。反対側のコマの手で私の耳たぶを軽くなぞられた瞬間、私は我慢していたハズなのに悲鳴が漏れ出す。
元々耳は私の弱点。それが全く予想できないタイミングで責め立てられると、もうお手上げ。コマも私の反応を見て嬉しそうな声色で今度は耳を中心に攻め始める。息を吹きかけ、耳たぶをぷにぷに触り、耳のふちをくすぐって―――
「どうですか姉さま?やっぱり、いつもよりも感じちゃいます?」
「わ、わかんない……くすぐったいの……だけは、わかる……けど……」
「本当に?くすぐったいだけ?……ほら、もっとよく感覚を研ぎ澄ましてみて……」
「ぁ……ふぁ……あ……っ」
アイマスクをされて分かった事がある。……これ、凄い。見えないから次に何をされるかわからないドキドキ感はいつも以上だし、視界が奪われている分他の感覚が非常に鋭くなったせいで軽く肌が触れるだけでも……コマの声を耳元で聞くだけでも……コマ特有の甘い香りを嗅いだだけでも異様なまでに興奮する。
あ、アイマスク恐るべし……こんなヤベー物が全国どこのドラッグストアにも安価で売られているなんて……日本は大丈夫なのか……!?
「お耳、気に入ってもらえたみたいですね。でしたら次は……あーむ♪」
「は、ぁあん……!?」
なんて、目隠しをされているせい(?)でパニックになっている私が変な事を考えている間にも、コマは更に情け容赦ない責めを展開し始める。
反対側の耳を口で含み。まるで私の耳を食べるように口の中で舐めて、吸い付き、そして甘噛みしてきたのである。
「あぅ、……あっあっ……ふひゃん!」
「んちゅ……れろ、れろ……んむっ……」
ぺろぺろ、ぴちゃぴちゃ、じゅるじゅる―――そんないやらしい唾液の音が私の耳にダイレクトで伝わってくる。じっくり、そしてねっとりと時間をかけて耳を責め上げてくるコマ。
片方は指で、もう片方は口と舌で……左右からくる種類の違う責めに、私は気がおかしくなりそうになる……
「ちょ、ちょ……タンマ、コマ。待って……す、少しだけでいいから……休ませ―――ひぎぃ!?」
どうにかなってしまう前に、一旦休憩させて。そう思い懇願しようとしたけれど……私の要求は途中でかき消される。耳の中に、コマの生暖かい舌がぬるりと入り込んできた。眩暈がしそうなくらい強烈な刺激が私に容赦なく襲い掛かる。
「あら?今何か仰いましたか姉さま?」
「い、言った……!休ませてって今言っ―――いぎぃ!?」
私の要求をまたもかき消して、固く尖らせたその舌先で耳の中を激しく抉り始めるコマ。じゅぼじゅぼと脳みそごと掻き回されるような音と刺激に、私は息が止まりそうになってしまう。
「す、すとっぷ……コマ、ストップ……!それ、刺激が強すぎ―――あ、ふ……んんんっ……!」
卑猥な水音が、耳元で絶え間なく鳴り響き続ける。ぞくぞくするのが止まらない。変になりそう……叶う事なら振りほどいてしまいたい。逃げ出したい。
けれど縛られている上にしっかりと抱かれているからそれは絶対に叶わない……
「こ、コマ……まって、許して……!こ、怖い……!ダメ、おかしく……なる……からぁ!」
「……大丈夫。大丈夫ですよ姉さま……怖くないです、それは気持ちがいいんです。そう……気持ちいい、きもちいい……きもち、いい……」
「ふぁあああ……!?」
ぶんぶんと頭を振ってせめてもの抵抗を見せようとするけれど。コマは私に付けたチョーカーを―――否。私に付けた首輪をグイっとひっぱりながら、耳元で怪しげにそう囁く。
まるで飼い犬を躾けるような扱いに、何故だか胸が高鳴る。大好きな人に耳元で蠱惑的に囁かれて、耳を舐められ弄られる以上の快楽が……私を更なる高みへと昂らせる。
「あっあ……ッ!や、だめ……コマ……なんか、もう……私……わたし……!?」
「……はい。良いですよ。良いんですよ。恥ずかしくないんです。もっと素直に……気持ち良くなって。私で……感じて。……んちゅ……」
「んッ!?む、……ん、んんー!?ふむぐぅううううぅ……!?」
前触れなしにまたもコマに首輪を引かれ、顎を掴まれたかと思うと……後ろから強引にキスをされた。舌と舌が絡み合い、まるで抱き合うように互いに巻き付いて擦れ合う。お口の中で耳元で聞こえていたような卑猥な水音が響いてくる。
ただでさえいっぱいいっぱいだった私。その甘いコマとのキスが最後の引き金となった。腰が浮き、耐えられない快楽が身体を駆け抜け―――私の意識はフッと飛んで行ってしまった。
◇ ◇ ◇
「―――ま、まさか……たったこれだけで……気を失うなんて……」
数分後。意識を取り戻した私は息を整えつつそう漏らす。……コマにやられた事と言えば、太ももに触られて耳を責められて、そしてキスをされただけ。たった一枚も服を脱がされてすらいない。本来性的に感じる場所に全く触れられていない。
だというのにまさかこれだけの事で気をやるだなんて……恐るべし、SMプレイ……
「正直私もびっくりです姉さま。……そんなに、良かったですか?」
「…………正直に言うと……うん……すごく良かった……です」
アイマスクを取ってもらって、リボンを解かれコマに介抱されつつ感想を聞かれる私。……コマに好き放題にされるのが、こんなにも気持ちが良いなんて……
「なんか……病みつきに、なっちゃいそう……かも。コマに支配されるの……すっごい、良い……」
「ふふ……姉さま?これ、一応はオシオキなんですよ?オシオキを病みつきにされちゃ困っちゃいますよ。これじゃあ反省して頂けないじゃないですか」
「あはは……ごめんごめん」
苦笑いするコマに手を合わせて謝る私。確かに、オシオキで喜んじゃうなんてダメだよね。……そういうのも含めて、皆が言う通りやっぱ私ってMなのかもね……
「さて、と。それでは姉さま。次は……こちらを使いましょうか」
そんな和やかなムードの中。コマはゴソゴソとデート中に買ってくれた物の中から一つを取り出して私に見せつけてくる。
……それは、家電量販店でコマが買った―――
「電気マッサージ器?えっと……もしかしてマッサージしてくれるのコマ?」
「はい!これで、姉さまをもっともっと気持ち良くしてあげようかと!」
そう、コマが買った……ハンディータイプの電気マッサージ器だった。何故にこのタイミングでマッサージ……?
もしかして、今日のプレイで疲れるであろう私の為に癒してあげようと思って買ってくれたのかな?まったくもう……コマは優しいなぁ。
「あはは!いいよ、大丈夫だよー?そんなに疲れてなんかいないよ私」
「……え?」
「そんなもの使わなくても身体凝ったりしてないからへーき」
「……???」
私がそう答えると、コマは一瞬不思議そうな顔を見せる。数秒ほど首を傾げて何やら思案顔。
「……もしかして姉さま。コレの用途……ご存じありません?」
「はい?用途?……いや、用途もなにも、マッサージするための物でしょソレ?」
「あー……やっぱりそうですか。ふふ、ふふふ……あはは……!」
「こ、コマ……?どしたの?何がそんなにおかしいの……?」
「い、いえごめんなさい。そっかー。知らないのかー。……ふふ♪姉さま姉さま。コレはですね―――」
そうしてコマは何故か大笑いをしながら私に耳打ちしてくれた。
「―――ふむふむ。……ふ、む……ふむぅ?…………ッ!……!?~~~~ッ!!?」
このマッサージ器の……別の用途について説明してくれた。
「え、嘘……?これって……そんな使い方すんの!?こんなもの、どこにでもあるような家電量販店で売っちゃっていいの!?」
「まあ、本来の用途はマッサージ器で合っていますけどね。……物は試しです。そういうわけで―――早速使ってみましょう姉さま!」
「え、ヤダちょっと待ってコマ……!?も、もしかしなくても……オシオキはまだ終わってないの!?だ、だったらごめん!あと10分…………いや、5分でいいから休ませ―――」
「では、めくるめく快楽の世界に戻りましょうね……姉さま♡」
そうして再び私は……アイマスクを付けられて。そしてオシオキの続きをさせられることとなったのであった。
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