ダメ姉は、誘惑する(その4)
カナカナ……そしてレンちゃん。私の為に(コスプレという名の)策を授け、私の魅力を証明しようとして(主に鼻の粘膜が)傷つき、そして倒れて(より正確に言うと失神)逝った尊い仲間たち。
「残ったのは私とヒメっちの二人だけか……いかん、不安しかない……」
「……安心してマコ。真打、参上」
「自分で真打って言っちゃうのかヒメっちよ」
「……大船に乗ったつもりでいるといい。まかせろー」
二人を介抱しとりあえず私のベッドに寝かせた後で、自信満々にヒメっちが乗り出す。うーん。さっきの私の大真面目な男装執事演技に大爆笑しやがったヒメっちには正直任せたくないんですがね?
「……あの二人、カナーと後輩ちゃんの案……狙い自体はそう悪くはなかったと思う」
「え、そうなの?」
「……うん。実際どっちも良い線行ってた。敗因があるとすればただ一つ」
「ほほう?それは何かなヒメっちよ」
「……自分が思うマコの魅力を推し出し過ぎてたこと」
「?どういうこと?」
「……簡単に言えば、二人とも自分の趣味に走り過ぎた」
むむ……それは一理あるかもしれない。確かにカナカナもレンちゃんも。どちらかというと自分たちの理想の私像に特化させたアプローチをしていた気がする。
『自分たちが考える立花マコが魅力的なところ』が必ずしも『コマの考える立花マコの魅力的なところ』とイコールになるわけじゃないもんね。
「……その点私はだいじょーぶ。何せ私は、マコは勿論……コマとも親友なわけだし。コマの性的思考―――もとい好みはバッチリ熟知している。その上マコに惚れていないから自分の趣味に走るような事も絶対ない。安心安心」
「とか言って、ヒメっちも前の二人と同じく自分の趣味全開で―――『……マコはおっぱいが母性的だから、バブみ溢れるこの搾乳服を着ると良い』とかおかしなことは言わんよね?」
「…………ハ、ハハ。そ、そそそ……そんな安易なこと……わわ私が、考えているとでも……?」
「おーい、ヒメっち?何故冷や汗を流しながら必死に目を逸らした今?」
適当に言ってみたけど、まさかこのマザコン娘……マジでそんな事考えていたんじゃあるまいな……?
「……小粋な冗談はさておき。私ほど、マコとコマの事をよく知ってる友人はいないと思っている」
「ふむ。まあ……確かにヒメっちなら私の事もコマの事もよく知ってるだろうね」
「……授乳服の他にもコマを魅了できそうな案も勿論用意している。ここは二人の親友って立場の私の事を信じてみない?」
「むぅ……」
……正直嫌な予感しかしない。なんというか、この後ろくでもないことが起こりそうな……そんな予感がひしひしする。こやつに任せて本当に良いのか……?
けれど……万策尽きた私にとっては、この際藁にも縋る思いだ。どんな奇抜で馬鹿げたアイデアでも良い。もしかしたらそれが何らかの突破口を開けるかもしれないし……
「よし分かった。ここは騙されたと思ってヒメっちのコーディネートに賭けてみようじゃないか」
「……承った」
そんなわけで最後は私とコマの共通の親友に全てを託すことに。
~ヒメっちコーディネート中:しばらくお待ちください~
「―――断言しようヒメっち。これは違う」
「……そんなことない。絶対、コマは気に入るはず」
ヒメっちの言う事を信じ、騙されたと思ってお着換えしてみた結果。やはり騙されているとしか思えなくなった。
「こんな格好でコマを誘惑できると本気でお思いか?何なのヒメっち。君はコマを何だと思っているの?」
「……マコ好き過ぎるヤンデレシスコンムッツリスケベ」
「人の最愛の妹に、なんたる言い草だこのマザコンは。ええい、もういい。毎度毎度着替えた後でツッコミ入れちゃう私も問題あるけど……ナイナイナイ、これは無い。こんな服着てコマの前になんか出られるか!私は着替えさせてもらう!」
「……ウダウダ言ってないで、とにかくごーごー」
「あ、ちょ……バカ!?お、押すなヒメっち……!?や、やめ……」
ガシャ!
これはダメだと確信し、即回れ右をして退散したかった私だったのだけど。ヒメっちは情け容赦なくそんな私をコマのいる部屋へと押し込める。や、やめろぉ!?
「おや……?ああ、姉さまちょうど良かった♪今姉さまにお食事のお誘いを……しよう、と…………え?」
「あ……」
「「…………」」
コマの部屋に無理やり押し込まれ、愛しのコマとご対面♡直後、カナカナコーディネートのセクシー衣装とレンちゃんコーディネートの男装執事……その二つをコマに見せた時以上に長い沈黙が私とコマの間に流れる。
コマが言葉をなくすのも無理は無いだろう。だってよりにもよってヒメっちが選んだのは……日本人の誰もが一度は装備したであろう赤いバックバック+体操服+ブルマというコンボ。まあ、平たく言えばアレだ。要するに―――
小学生のコスプレである。
……天然娘に全てを託した結果がコレだよ!つーか、何故?何故体操服にブルマ?そこはせめて制服を着させて頂戴よ!マニアック過ぎませんかね!?オイヒメっち。これの、どこが、コマが気に入ると……!?
『……マコ。ぼーっとしない。コマが見入ってる今が誘惑チャンスだよ。コマ好みのロリッ子を演じてみると良い』
なんて、文句の一つも言いたい私をよそに。こんな格好を私にさせた張本人はインカムの向こう側で呑気にそう指示を飛ばしてきた。この姿で誘惑しろと?何なの?罰ゲームかなにかなの?こんなアホみたいな恰好で誘惑する私も、こんなアホみたいな恰好で誘惑されるコマもお互い気まずいでしょコレ……!?
「あ……の、姉さま……姉さま?だ、大丈夫ですか……いろいろと……」
心なしか哀れんだ……蔑んだ目で私を見ている気がするコマ。く、くそぅ……コマの前に立った以上、引くに引けん。えーい、もうどうにでもなれぇっ!
「こ……コマちゃん、ただいまーっ!」
「は……?」
恥などもとからあって無いようなもの。全てをかなぐり捨て、今全力で小学校の頃のコマと自分を思い出しながら女子小学生に成り切ってみることに。
「今日はいっしょに帰れなくてごめんね!マコ、あたま悪いから、ほしゅー?ってやつ受けてきたんだー」
「え、あの……えっ?」
「コマちゃんはあたま良いからすごいよねー!マコ、そんけいしちゃうなぁ」
頑張れ私、(羞恥心に)負けるな私。ちょっと3,4年前はガチで小学生だったんだ。その時の事を思い出せ……!成り切るんだ、やり切るんだ……小学生を!
「ええっと……姉さま?ツッコミを入れたいところが多すぎて、どこから手を付けていいのやら分からないのですが……とりあえず、まずは一つ聞きますね。……その恰好は……」
「あー。これでしょ?えへへー♪マコったらあわてんぼうだからぁ、体育のじゅぎょーのあとでね、制服に着替えるのすっかり忘れてそのまま帰ってきちゃったのー♡」
「は、はぁ……」
心の中で自分の気持ちの悪い言動に血反吐を吐きながらも、なりふり構わず笑顔でゴリ押す。これには私にこの服とシチュを授けたヒメっちも満足そうだ。
『……良い感じ。そのまま間髪入れずに攻め落とすとよし』
「(ボソッ)攻め落とすって……具体的に、どうすれば良い!?」
『……コマの胸に全力ダイブ。後は胸元見せて、風呂にでも誘えば……ミッションコンプリート。大丈夫、上手くいく。絶対性交―――じゃない、成功する』
ホントだな!?信じるからなヒメっち!?い、いくぞ?行ってやるぞ……!
「コマちゃん!」
「わわっ……と!?」
コマなら絶対受け止めてくれると確信し、ヒメっちに言われた通りに半ばタックルする勢いでコマの胸に飛び込む私。当然、コマは突然の私の抱きつきに驚きながらもしっかり受け止めてくれた。
「あ、危ないですよ姉さま。もう……怪我したらどうするんですか」
「えへへ、ごめんねー。……それよりさ!コマちゃんコマちゃん!」
「は、はい?」
「(ピラッ)……私、汗くさくないなかー?」
「……っ」
そう言って私はコマに見せつけるように胸元を開き問いかける。
「…………いえ。特に不快な臭いはしませんよ。……いつも通り、とても良い香りです……。あの、どうして……そんな事を聞くのですか?」
「体育おわったばっかりでにおわないかなーって思って。へーき?大丈夫?」
「…………ええ、平気です。それを言うなら、助っ人で走り回っていた私の方が……臭うかと。軽くシャワーを浴びてきただけですので……」
「あ、ならさコマちゃん!―――マコと一緒にお風呂はいろ!そんでもって……一緒に、洗いっこしよっ!」
「お、ふろ……あらいっこ……」
小学生らしい、無邪気な笑みを浮かべ。コマにそんな
「マコ、ねえさま……」
そんな私の誘いに対して、コマは一度大きく艶めかしくため息を吐き。私の耳元にそっと手を添え、そして―――
「―――入れ知恵したのは、ヒメさまたちですね?」
「あっ……!」
『……ありゃ』
私の耳に付けていたインカムを苦笑いしながら取り上げた。え、えっ……?
「ヒメさまー?聞こえますかー?聞こえますよねー?……もう。あまり私の姉さまをからかわないでくださいませ」
『……別に、からかってるわけじゃないけど』
「あ、ああ……あの。こ、コマ……!?ば、バレてた……の?い、いつから……気づいて……!?」
「ちょっと色っぽい服を着た姉さまが私を出迎えてくれた時から、ですかね」
それ、最初からでは……!?
「私、耳良いんです。あれだけ外野がキャーキャー騒げばいくらインカム越しだからって気づきますよ」
『……あー。やっぱ聞こえてたんだ……』
「そうでなくとも恥ずかしがり屋で清楚な姉さまが、あんな大胆だったり奇抜だったりする服なんて着ておかしな言動をしていたら何か変だってわかりますって。ふふ……最初の衣装とシチュエーションはかなえさまのですね。次が恐らくレンさま。そして最後のこの恰好がヒメさまのコーディネート。違いますか?」
「…………あってる」
見事なまでに名探偵ぶりを見せつけるコマ。うん……そうだね、合ってるよ……流石私の聡明なコマ、良い観察眼だ。
「大方アレでしょう?4人でババ抜きか何かをやっていて、それで負けた姉さまが罰ゲームとして皆さんのお勧めのコスプレを私に見せなきゃいけなくなったのでしょう?」
……肝心の、私がなんでこんな格好をしなきゃならなくなった理由は理解して貰えていないっぽいけどな……ッ!?お願い、他はどうでも良いから!一番大事ななぜこんなことをせざるを得なくなったのかに関してだけは察して頂戴コマさんや!?
「いやぁ、それにしてもとても良いものが見られましたね。セクシーな姉さま。凛々しい姉さま。愛らしい姉さま。どの姉さまもとても素敵でしたよ♪」
「うぁ……ぁ、ああ……うぁぁあ……」
そのコマの悪気の無い一言で、私の中の何かがプツリと切れる。あんな恥ずかしい想いをしておいて、それがすべて茶番と徒労に終わった……そしてあれだけ頑張ったのに一切コマを誘惑させられなかった……
全てはコマに抱かれるため、円満なこれからふーふ生活を送るためと恥ずかしさを押して死ぬ思いで演技をしていたのに……こ、こんなの……こんなのって……
「い、いやぁあああああああああ!?!!!?」
「って、えっ!?ね、姉さま!?姉さまー!?」
居てもたってもいられなくなった私は、トマトよりも赤くなった自分の間抜けすぎる顔を手で覆い隠して……コマの部屋から飛び出すしかできなかった……
「ね、姉さま……一体どうなさったのでしょうか……?」
『……それ、こっちの台詞。コマ、一体どうしたの』
「は、はい?何がですかヒメさま?」
『……なんでマコを、抱いてやらないの?ちゃんとわかってたんでしょ?マコが、コマを誘っているのを』
「…………ッ」
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