十二月の妹も可愛い(前編)
~SIDE:マコ~
晴れて妹のコマと結ばれた11月……あれから一か月が過ぎた。コマと恋人となり、その羨ましさと嫉妬で狂う暴徒という名の学園の連中共から追い立て回される日々にも随分と慣れてきた12月。
真っ白い雪がちらちらと天から舞い降りて、冷たい風が身を縮ませる。季節はすっかり冬を迎えている。
「…………ハァ」
そんな11月以上に寒々とした12月のとある日の朝。私、立花マコは頭を抱え寒々しく白い溜息を吐き、とある件について思い悩んでいた。
「……一か月前も」
「ふぇ……?」
「一か月前も、そうやってため息吐いてたわねマコ」
「あ、カナカナ……」
「ただでさえ寒くて気が滅入るのに……辛気臭くなるため息を吐かれるのは困るのよね。止めて頂戴な」
「ご、ごめん……」
と、教室でため息を吐いた私の前に……私の一番の、そして最高の親友叶井かなえ―――カナカナが呆れた様子で現れた。
「で?今度は一体コマちゃんと何があったって言うのよマコ」
「え?いや何があったって…………てか、なんでコマと何かあったって思うのさ?」
「何を今更。マコが悩むのはいつだってコマちゃん関連の事でしょ。マコの頭の99%はコマちゃんで占められているでしょ」
きっぱり断言するカナカナ。まるで私はコマ以外頭にないと言わんばかりの言い方だね……
いや、うん……それはその通りだろうけど。
「で?話を戻すけどさ。コマちゃんと何があったのよ?喧嘩でもしたの?お互い嫌われるような事でもやったの?」
「……何もないの」
「嘘おっしゃい。何もないなら悩むことなんてないでしょうが」
「嘘じゃない!だから、何もない事を!今すっごい私は悩んでいるのッ!!!」
「は?」
朝っぱら。カナカナ以外は誰もいない教室に、私立花マコの魂の叫びが木霊する。
「コマと付き合い始めてはや一か月……11月まではイチャイチャラブラブしていたさ。で、でも……でもね!?」
「でも何よ?」
「12月に入ってから何かコマの様子がおかしいの!家ではやけによそよそしいし!帰りも遅くて心配だし!なんか私に隠しているみたいだし!デートに誘っても『ごめんなさい、今日は少し用事がありまして』って拒否られるし!」
「……つまり?」
「12月に入ってから、どういうわけかコマとイチャイチャラブラブする時間が激減したNOOoOOOOo!!??」
机に突っ伏しさめざめ泣く。喧嘩をしたとか……嫌われるような事があったならまだいいさ。それだけお互いにぶつかり合って絆を深め合えるって事なんだから。けれどそうじゃない、そうじゃないんだ……喧嘩をするどころか、何もないんだよカナカナ……
最近何故か何かと別行動をとるようになってしまった私とコマ。付き合い初めてたったの一か月で倦怠期とか……一体全体どういうことなの……?
「ああ、納得した。何もない事が悩みってそういう事ね」
「……そういうことなの」
「つまり……コマちゃんに飽きられて破局秒読みってわけねマコ。おめでとう♡コマちゃんとすっぱり別れたなら今度はわたしとお付き合いしましょうね♪」
「やめろォ!?冗談でもそんなおぞましい事言うなカナカナァアアアアアア!!!?」
涙目でカナカナに掴みかかる私。ホントそういうシャレにならん冗談は止めて……心臓に悪いからマジ止めて……
……あの。冗談、だよね?
「でもさマコ。それはマコにとっても良い事なんじゃないの?」
「ハァ!?なんでそうなるカナカナ!?」
「だってホラ。あんたもあんたでコマちゃんにバレないようにやらないといけない事があるじゃないの。例の件、コマちゃんにはまだ秘密にしてるんでしょ?」
「……ぁ、ああ……うん」
カナカナの一言に口噤む。
「ならコマちゃんの意図がなんであれ、コマちゃんと別々に行動できる今の状況は正直マコにとっても助かる事じゃないの」
「それは……まあ、たすかるけど……」
コマが私に黙って何かをやっているように、実は私もコマに隠れてやっている事がある。
だからある意味で、カナカナの言う通り今の状況は都合が良いといえば都合が良いんだけど……
「コマちゃんが何を考えているのかわたしは知らないけど、今は気にしたってしょうがないでしょ。その悩みは例の件が片付いてから考えなさい」
「う、うーん……」
「期日まであと一週間もないんだし、コマちゃんとイチャコラしてる暇なんてないわよマコ。当然、今日の放課後も行くわよね?付き合うわよ」
「あ、ありがと……助かるよカナカナ」
カナカナに諭される形で一応納得する私。う、うん……まあ確かにそうだ。あの日までにアレを完成させないといけないし……今はコマとラブラブ出来ないのも仕方の無い事……なのかな……
「けどやっぱ……うぅ…………やっぱさみしいなぁ……コマは私が居ない間、一体何をしているんだろ……?」
「…………(ボソッ)ふぅむ。それにしてもあのコマちゃんがマコと過ごす尊い時間を削る、ねぇ?全く、なにをやっている事やら。あまりマコを寂しがらせるならわたしが本気で奪っちゃうわよコマちゃん。…………ま、何やってるのかは大体予想は付くけどね」
◇ ◇ ◇
―――同時刻―――
~SIDE:コマ~
「…………ハァ」
私、立花コマは今とても悩んでいます。一か月前、ずっとずっと好きだった双子の姉にして無敵に素敵な私の女神様―――立花マコ姉さまと結ばれて。本来ならば今頃幸せ絶頂満喫しているハズなのに。今とても悩んでいます。
「……すっごいため息。そういえばコマは一か月くらい前もそんな風に悩んでた」
「え……?ああ、ヒメさま。おはようございます……」
「折角想い人と結ばれたのに何故悩む。何を悩む。この贅沢者め」
俯きため息を吐く私の頭上からそんな声が聞こえてきました。見上げると私と姉さまの大親友、麻生姫香さま―――ヒメさまがぽややんとした表情で私を見下ろしていました。
「私がコマの立場なら、全力で想い人に甘えて甘えられて甘々な、甘すぎて糖尿病予備軍になっちゃうくらい甘い生活送るというのに……ため息吐くとか意味不明」
「え、ええっと……ですね」
「……マコと何かあったの?まさかとは思うけど上手くいってないの?」
「……………その、まさかです。ちょっと最近……姉さまと上手くいっていなくてですね……」
「マジで……!?」
ヒメさまに隠し事をしても仕方ないと正直に打ち明けると、心底驚いた表情を見せるヒメさま。
「半分冗談で言ってみたのに……ホントにそうなの……?ちょっと、ううん。かなりビックリ。何があったの?もしかしてマコ飽きた?飽きられた?」
「それだけは絶対にありません……ッ!!!」
慌ててヒメさまの言葉を否定する私。少なくともこの私が、マコ姉さまに飽きるハズなど死んでもありません……!
…………恋人同士になってからずっと……マコ姉さまにベッタリすぎて今までひた隠しにしてきた本性がバレちゃいましたので……マコ姉さまに飽きられた可能性は……正直否定できませんが……
「そ、そうではなくて。最近ですね、妙に姉さまと一緒になれる時間がないんです」
「……そうなの?」
「はい……11月までは授業中以外の時間はいつも姉さまと一緒だったのに……12月に入ってからは姉さまと離れ離れになっているんですよ。私にはやらねばならない事がありますから……」
「……12月、やらねばならない事……ああ、なるほどそういう事。納得した、例の件ね」
「お察しの通りです。……加えて、姉さまも何やら用事がおありな様子でよく家を空けているんですよね」
「ありゃりゃ……それはさみしいね」
最近とある理由から、姉さまと泣く泣く別行動をとっている……取らざるを得ない私。マコ姉さまもマコ姉さまで、何やらやるべきことがあるらしく放課後や休みの日になると何処かへと向かわれているご様子。
……私も、姉さまにあの日までは今私が何をやっているのか知られたくないので……今の状況はありがたいといえばありがたいのですが……それでもやはり折角恋人としてお付き合いしているというのに一緒に居られる時間が減るのは……こう、精神的に辛いと言いますか……姉さま欠乏症に罹ってしにたくなると言いますか……
「ちなみに離れ離れになってるって具体的にどれくらいの時間なの?」
「そうですね……今までは1時間以上離れたことなど無かったのに……一昨日なんかなんと2時間も離れ離れになってしまってですね……」
「…………それ、そこまで離れてなくない?」
ああ姉さま……マコ姉さま……寂しいです私……何故結ばれる前よりも結ばれた後の方が一緒に居られる時間が減るのでしょう?
これは神に与えられた試練だとでもいうのでしょうか……?
「……まあ、気持ちはわからんでもない。けど例の件をマスターするまでは仕方ないって自分で決めた事でしょ。なら我慢我慢」
「うぅ……そう、ですね。ヒメさまにもご迷惑をかけている事ですし……泣き言を言ってはいけませんよね……」
「それは気にしないの。コマにもマコにもお世話になってるし、そのお礼も兼ねているだけだから。……当然、今日の放課後もやるよね?」
「ええ。どうかよろしくお願いしますヒメさま」
私の我が儘に付き合ってくださっているヒメさまに頭を下げる私。……そうです。姉さまに会えない時間は無駄に出来ません。必ずマスターして……私も姉さまに―――
「……それにしても。姉さまに隠れてコソコソやっている私が言うのもなんですが……姉さまは私と離れ離れになっている間、私に隠れて何をなさっているのでしょうね……」
「…………(ボソッ)あたま良いのに変なところで察し悪いよねコマ。あのドシスコンのマコが妹にして恋人のコマとの二人きりの時間を犠牲にしてまでやる事って言えば……うん。普通に考えればわかると思うけどなー?」
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