番外編の妹も可愛い

ダメ姉は、妹を酔わせる(前編)

 きゅ……旧校舎三階の一室から、ぴちゃりぴちゃりと……ちょっとやらしい水音が、聞こえて……く、る……ッ

 外……から中の様子が見えないように……厳重に、カーテンを閉めきっているせいか……真昼間だと言うのにお互いの身体しか見えない程に……薄暗い部屋の中。そっ、そこでは……二つの影が静かに交わって……んっ……い、た……


「ぁっ、んん……―――はぁっ、姉さま……マコ姉さま……」

「ぅん……ふっ……―――ふぅん……ッ。こ、コマ……ちょ、ちょっと……」

「大分、良い顔になってきましたね姉さま。さあ、続きをしても……宜しいでしょうか?」


 乱れ交わっている二つの影は、体格的な違いこそあれ、ど……その顔立ちは瓜ふたつ……ンンッ……!

 ね、姉さま……なんて呼ばれ方をされているところを見てもらえれば、私と私の目の前にいるとても可愛くて綺麗で……ちょっとエッチな子が姉妹―――それも双子であることくらい誰にでもわかることだろ……ぅうん……


「ちょ、ちょっと……まって。ちょっと、待って……ぁん……こ、コマ待ってッ!」

「……?どうしましたマコ姉さま?」


 息継ぎのため、そしてグイグイ迫る妹を止める為に一旦妹を押し止めて。行為を中断させる私。そんな私の行動に首を傾げながら、どうにか離れてくれる妹。

 ……危なかった。もう少しで軽くトんじゃうところだった……


「あ。もしかして恥ずかしい?声出ちゃいそう?……ふふっ、大丈夫ですよ。心配しなくてもこの時間、この場所に来る生徒や先生はいません。私以外の誰に姉さまのそのお姿を見られるわけでも、私以外の誰に姉さまの声を聞かれるわけでも無いので安心してくださいませ」

「そ、そうじゃなくて……いや。学校でこういう事を致してる事もツッコミたいところだけど……そうじゃなくてだね。一旦やめて欲しいの」

「…………何故です?もしかして、私とするのはお嫌ですか姉さま?私、下手でした?気持ち良く、なかったですか……?」


 不安そうに私にそう問いかける妹。慌てて私は弁解する。


「と、ととととんでもないッ!違うの!嫌じゃないの!コマは上手だよ!コマにしてもらうのはとっても気持ち良いし、幸せな気持ちになれるんだよ!でも、でもね―――」

「良かった!なら、もっと気持ち良く……そしてもっと幸せにして差し上げますね!」

「え、あ……いや」

「では姉さま。続き、しましょうねー♡」

「だ、だから待―――んむぅー!?」


 私の言葉は妹の熱くて甘い唇に塞がれて、発せられないまま消えていった。



 ◇ ◇ ◇



「コマを、攻めたい」

『……は?』

「コマを攻めたい。押し倒して、色々シたい」

『……オメーはいきなり何を言っとるんだマコ?』


 そんな事があった翌日。私ダメ姉こと立花マコは……久しぶりに電話を掛けてきた今現在仕事の為に家を出ているめい子叔母さんに愚痴っていた。


「いやね、誤解が無いように言っておくけどコマに不満があるってわけじゃないのよ叔母さん。正直想像していた一万倍くらいコマって……その、上手だし。コマに色々シて貰えるのは気持ち良くて……最高なの」

『……』

「でも……でもね!私これでも一応はコマのお姉ちゃんなんだよ!?本来なら姉らしくコマをカッコよくリードしなきゃいけない立場じゃない!それなのに……それなのに毎度毎度コマに攻められて、押し倒されて……い、イかされて……これじゃあ姉の面目丸つぶれじゃんか!!!私だってコマを気持ちよくさせてあげたい!コマに満足してもらいたい!ついでに言うなら、私の手でコマが一心不乱に乱れる艶姿を見たいのぉ!!!」

『……』


 電話越しの叔母さんに魂の訴えを届かせる。……コマとお付き合いを始めてから今に至るまで。私とコマは数え切れないほどに身体を重ねてきた。付き合う前以上にスキンシップして。キスをして。……いやらしい事もそれはもういっぱいしてきた。

 ……だけど。初めての時も、誕生日も、昨日だってそうだった。私は……私はずっとコマにシてもらってばかりなのである。


『言いたい事はまあわかった。つまりアレか?コマに主導権を握られるのが嫌って事か?』

「だからそれ自体は嫌じゃない。コマに求められるのはとても嬉しい。でも……でも私だって偶には主導権握りたいのよ……」

『なるほどな。……うん。でも無理だろソレ』

「な、なんでさ!?」


 可愛い姪が真剣に悩んでいるというのに、大して考える素振りすらみせずに『無理』だと断言してくる叔母さん。


『だってなぁ。三つ子の魂百までってことわざもあるけどよ、お前って根っからの『受け』気質じゃんか。どう頑張っても美味しく食べられる方じゃんか。逆にコマの方は……魂レベルの『攻め』気質。攻守逆転リバは不可能だろ』

「そ、そうかなぁ?」

『それに加えて……お前さんって超が付くほどヘタレじゃんか。マコはどうせアレだろ?自分からヤろうとしても寸前でヘタレて、そんでうだうだしているうちにコマにいつも主導権握られてるんだろ?』

「……」


 …………なんのことやら。


『ホント変態の癖に肝心なところでヘタレるよなぁお前。そんなん勢いでヤっちまえばいいだろうに』

「……うっさいな叔母さん」


 呆れたような口調で叔母さんがそんなアドバイスにもならないアドバイスを送ってくる。随分簡単に言ってくれるけどさ、それができてたら苦労はしないっての。


「わ、私だって何か機会があれば……何かしらのきっかけさえあれば頑張れるハズだもん……」

『どうだかねぇ。機会やきっかけをプラスの方向に活かせるタイプと、マイナスの方向へ持って行ってしまうタイプがあるけど……コマはともかくマコの場合は後者だしなぁ』

「……否定はしない。てか、そういう叔母さんは前者だとでも言いたいの?」

『ん?よく分かってるじゃないかい。まあアタシの場合機会やきっかけだけじゃなく、ピンチや修羅場すらもプラスの方向に活かせるがな!』


 無駄に自信満々に笑ううちのBBA―――もとい叔母。ホー?ピンチや修羅場もプラスの方向に、ねぇ?


『…………ほほぅ?なるほど。めい子先生それは素晴らしい』

『ハハハ!よせやい、そう褒めるなってーの

『ではこの修羅場もプラスの方向に活かしてくれますよねめい子先生?…………という名の修羅場もねぇ……!』

『へ?…………ぎゃあッ!?へ、へへへ……編集!?』


 と、通話の途中で電話の向こうから叔母さんのひっくり返る音と……編集さんの怒気交じりの声が聞こえてきた。


『やれやれ。『ちょっと便所行ってくる』と外へ出て、いつまでも戻ってこないから心配で様子を見に来てみれば……休憩室でビール片手に姪御さんと楽しくお電話ですか先生。随分と余裕がお在りなご様子で』

『い、いや違うんだよ……ま、マコが!マコがな!ちょっと相談事があるっていきなり電話してきてだな!あ、アタシはあの子やコマの保護者だし、その相談を聞かないわけにも―――』

「へ?私別に叔母さんに電話を掛けてはいないけど?『なぁ、なんか面白い話のネタねーのかマコ?ちょっと暇だし近況報告がてら話してみろよ』っていきなり電話を掛けてきたのは叔母さんの方だったじゃないの」

『ちょ、バカかマコ!?なんでアタシに話を合わせない!?』


 寧ろなんで叔母さんに話を合わせなきゃならないのでしょうか?


『マコさんの話、ちゃんと聞こえましたよ先生。つまりサボる口実としてマコさんを利用したという事ですか。…………とっとと仕事に戻りなさい』

『…………ハイ』


 ぴしゃりと叔母さんを叱りつけ、仕事場へ向かわせる編集さん。叔母さんや?ピンチや修羅場もプラスの方向に活かせるんじゃなかったのかい?


『―――そういうわけですのでマコさん。先生はこれからまた仕事に打ち込まれる予定ですので電話はしばらく出来ないかと。申し訳ございません、何か相談事があったのですよね?』

「あ、いえ大丈夫ですよ編集さん。相談っていうか、叔母さんとしてたのはただの愚痴話でしたし気にしないでください。叔母さんなら煮るなり焼くなりどうぞお好きにしてくださいね」

『ありがとうございますマコさん。……ああ、そうだ。先生をお借りしているお礼と言っては何ですが、ちょっとしたお土産を送ったんです。多分今日明日中に届くと思いますので、コマさんと仲良く二人で食べてください。それではマコさん、失礼します』


 そう言って慌ただしく電話を切る編集さん。忙しい中サボりの常習犯である叔母さんを管理して、その上で私やコマにお土産を送ってくれるという気遣いまで……本当にありがたい。今度改めてお礼を言っておくとしよう。



 ピンポーン! ピンポーン!



『すみませーん!宅配便でーす!』

「あ、はーい!今行きまーす」


 なんて考えていると玄関から呼び鈴が鳴り宅配業者さんの声が聞こえてきた。おお、噂すれば何とやら。多分今編集さんが言っていたお土産だろう。

 すぐに玄関を開け宅配を受け取り確認すると……思った通り、それは編集さんが送ってくれたお土産だった。その中身はと言うと―――


「……おぉ。何か随分高級そうなお菓子じゃないの」


 綺麗な包み紙で包まれた、高級そうなお菓子のセット。この甘い香り……どうやらチョコレートのようだけど、そのチョコレートの形はまるで叔母さんがよく飲むお酒のボトルのよう。これは……


「ああ、これひょっとして―――ウイスキーボンボンってやつかな?」


 入っていた箱や裏の食品表示は外国語で書かれてあるからなんて書いてあるのかさっぱりだけど。多分これアレだ。洋酒入りのボンボン菓子、ウイスキーボンボンってやつだ。

 大人のお菓子ってイメージで、私は食べた事が無かったけど……


「うーむ。初めて見たなコレ。子どもでも食べられるとは聞いているけど……」


 ウイスキーボンボンを一つ手に取ってそう呟く私。お菓子と言えどお酒が入っているわけだし……食べたらほろ酔い気分が味わえたりするのだろうか?マジで酔っちゃったりするのだろうか?

 いつも酔っぱらいめい子叔母さんを相手に苦労させられている身としては、あまり酔いたくはないんだけど―――


「―――ん?待てよ……『酔う』?」


 と、そのウイスキーボンボンをぼんやり眺めていると。突如私の頭の中で閃きが……天の声が聞こえてきた。


「……『酔う』……『お酒の力』……『勢い』……『機会やきっかけ』……『脱ヘタレ』…………こ、こここ……これだぁあああああああああ!!!」


 『YOUこれでヤっちゃいなよ』と、天の声が聞こえてきた。

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