十月の妹も可愛い(下)

第84話 ダメ姉は、上書きされる

 ……親友に、カナカナに突然キスされた。


『……立花マコさん。わたし、叶井かなえは―――貴女の事が大好きです』


 ……その上情熱的な告白までされてしまった。


 突然の事で混乱してしまった私……立花マコは、何とも情けない事にそのカナカナの告白の返事を碌に出来ず……ただその場に座り込んであうあう言いながら朦朧としていた。


「…………カナカナ……」


 最終下校時刻ギリギリまで屋上で粘ってカナカナの告白について自分なりに色々と考えてみたんだけれど……頭の悪い私は何一つ整理がつかず、結局現在トボトボと一人で家路につく羽目になっている。


「……こんな私の事が好き?カナカナが?……そんなバカな」


 何で?何でキス?それに……この私に、告白?好き?……カナカナってとても綺麗で優しくて良い子なのに……私なんかよりももっと相応しい人が星の数ほど居るハズなのに。

 というか……私に告白するくらいなら、出来の良い双子の妹のコマに告白してくれる方がよっぽど…………なのになんでこんなダメな私に好意を向けてくれるのカナカナ……?私、人に好きになって貰えるような人間じゃないのに……なんで……?


 帰り道の途中も必死になってカナカナの事を考えてみたけれど、考えれば考える程に私の脳は理解を拒む。混乱し過ぎて……もしかしたらあのキスも告白も、カナカナの冗談だったのではと……あまりにも的外れで最低すぎる考えにまで一瞬本気で至ってしまう。


「…………でも、だけど……あの時のカナカナは……間違いなく本気だった……」


 けれどもそれだけは違うと、すぐにそんなバカらしい考えは自分で取り消す。……屋上であんなに一生懸命カミングアウトしてくれた。あんなに気持ちの籠ったキスをしてくれた。……あんなに真っすぐに私に告白してくれたカナカナの一連の行動すべては……決して冗談なんかじゃない本気のものだった。本気でこの私に……好意を向けてくれていた。

 冗談じゃない本気の気持ちをぶつけられたからこそ……私は今、これほどまでに動揺しているのだから……


「……だったら、ちゃんとお返事しなきゃ……」


 告白したカナカナ本人は、


『告白の返事はいつでも良いわよ。それがどんな返事だとしても、マコの返事ならわたしはちゃんと受け止めるし……返事をするのが辛いと思うなら、無理に返事をしなくても良いからね』


 なんて優しい表情で言ってくれたけど……あんなに素敵な告白をしてくれた以上、しっかりと考えた上で必ず告白の返事は返さなきゃいけないだろうし……待たせるわけにもいかないと思う。

「でも私……どう返事をすればいいの……?」


 私はカナカナの事をどう思ってるの?カナカナの告白を聞いてどう思ったの?そもそもどうして私なんかを好きになって貰えたの?カナカナの想いに応えられるの?そもそもどう応えるのが正解なの?


 わからない、わからない、なにもわからない……


 そうやって考え込みながら歩いていたら、我が家の玄関が目の前に。頭がパンクしそうになりながらも、私はいつものように懐から鍵を取り出して扉を開け―――







 ん?あれ……?我が家の玄関ですと?


「…………うそ……でしょ?もう家に着いたの……?」


 気付けばいつの間にやら我が家に到着していた私 ……マズい。考え込み過ぎて自分が学校から家までどうやって帰って来たのか……全然覚えてない。

 ……事故に遭う可能性とかは勿論、近頃不審者情報まで出ているんだしこの前カナカナにも忠告された通り私でも誘拐される可能性だって無きにしも非ずなのに……いくら何でも集中を欠きすぎじゃないか……?


「しっかりしろよ私……とりあえず……コマや叔母さんの前だけでもいつも通りに……」


 今日の出来事については……コマにも叔母さんにも相談するつもりは一切無い。カナカナも他の人に自分の告白を告げ口されるのは嫌に思うかもしれないし……それに正直あの二人……特に昨日と今日あれ程私が『果し合い』に行く事を不安そうにしていたコマには余計な心配はかけたくない。

 …………というか、それ以前にだ。


『果し合いかと思って屋上に行ったらクラスメイトで親友の女の子が待っていて、その子にキスされて告られたんだー☆』


 ―――なんて、こんな希有な話をどう二人に説明すれば良いのか私には全然わからんし……


 兎にも角にも家族二人の前では何事もなかったように振舞えるように、一旦カナカナのキスと告白について意識するのは止めよう。

 今は何よりも平常心、平常心だぞ……何かあったと悟られぬように、放課後は特に何もなかった風を装うんだぞ私。……だ、大丈夫だ。いつものようにバカっぽく自分を演じればそれで大丈夫……


「た、ただいまー……」


 心の中で自分に『大丈夫』と暗示をかけて、恐る恐る鍵を開け我が家に入る私。


「おぉ!やーっと帰って来たかマコ!」

「うわっ!?」


 するとどうしたことだろう。私が家に足を踏み入れるなり、いつもはグータラで私やコマが帰って来ても自分から出迎えることなどあり得ないハズのめい子叔母さんが、私に勢いよく詰め寄って来たではないか。


「……お、叔母さん……?ど、どうしたのさ……急に」

「どうしたもこうしたもあるか!お前の帰りを待ってたんだよ!待ちわびていたんだよ!」


 何やら興奮気味な叔母さんにそんな事を言われる私。コマはともかくこの叔母さんにこれ程まで熱烈に帰宅を歓迎されたことなど今までなかったし……そもそも『待ちわびていた』なんて言うようなキャラじゃないからなんだかとっても気味が悪い。

 ……何なんだ一体……?何か私って叔母さんを待たせる理由なんてあったかな……?


「私の帰りを待っていた……?え、えっと……そりゃまた何でさ……?」

「そんなん決まってんだろ!今日の放課後、お前さんに一体何があったのかを根掘り葉掘り聞くためさね!」

「~~~~~ッ!?」


 早速出鼻を挫かれる。か、帰って早々放課後の出来事を聞かれるなんて流石に予想外なんですけど……?


「な、ななな……なんの事かな?べ、別に放課後は特に何もなかった……よ?昨日貰った手紙の事なら……は、果し合いかと思って屋上まで行ってみたけど……その。た、ただの悩み相談だったし……特別話すようなことは何も……」

「嘘つけぇ!お前に届いた昨日の手紙やお前のそのあからさまな動揺……そして先に帰って来たコマのあの苛立ちを見ればどんな阿呆でも何かあったって察するわ!」


 何故何かあったってバレてるんだ……?何故悩んでいるってバレてるんだ……?わ、私ひょっとして普段通りの自分を演じられていないのかな……?


「てなわけでだ。今日の放課後に一体何があったのか、このめい子叔母ちゃんに包み隠さず全部さらけ出してごらんよ!何かがあって、それでお前さん現在進行形で悩んでいるんだろう?そうなんだろうマコちゃんや?」


 目をキラキラさせつつ、手にメモ帳とペンを持ってそのように私に問いかける妙にハイテンションな叔母さん。一体何が叔母さんをそこまで駆り立てるんだ……!?


「ま、待ってよ叔母さん!……だ、だから別に何もなかったし……か、仮に私に何かあったとしても……どうして叔母さんがそんなに熱心に詮索するのさ!?」

「そりゃあ良いネタになる―――もとい、困っている姪を放っておけないからねぇ!姪の悩みは叔母の悩みも同然だろうが!」

「オイ、今一瞬だけどハッキリとアンタの本音が見えたぞそこのBBA」


 なるほどね、アンタまた人を小説のネタにする気かこん畜生。姪が真剣に悩んでいるってのにこの人はホント……ならば意地でも今日の一件は叔母さんにだけは話してやるもんか。


「さてと!帰りが遅くなったし急いで料理作らないとね!叔母さんもお腹ペコペコでしょ?すぐに作るから待っててねッ!」

「あっ!コラ待て逃げんなマコ!?料理なんてどうでも良いわ!さっさと何があったのかを洗いざらい全部白状しやがれッ!」


 戯言を宣う叔母さんを無視してさっさと台所へ向かおうとする私。その私の腰に叔母さんは抱きついて行かせまいと私の歩みを妨害する。


「ぐ、ぐぐぐ……は、離して叔母さん……!放課後はホントに何もなかったって言ってるでしょうが……!」

「いやだね……!お前からは何やらラブコメの匂いがプンプンするし、絶対何かとんでもない事があったハズだ!さぁ吐け、今すぐ吐けマコ!今日あった事を全部まとめて吐きやがれ!」

「ラブコメの匂いって何さ!?えぇい鬱陶しい……!わけわかんない事言ってないで……は、離せぇ……!」

「逃がすかよマコ……!鮮度の良いめちゃくちゃ美味しいネタをこのアタシが逃すとでも思ってんのか……!お前が全部吐くまでは、何が何でも絶対に放さな―――」



 ダァンッ!!!



「「っ!?」」


 と、そんな感じで叔母さんと玄関口で言い争いながら取っ組み合いをしていると……突如廊下の方から物凄く大きな物音が私と叔母さんの耳に轟く。

 ビックリして音が鳴った方へ二人の視線を向けてみると……


「…………姉さま、叔母さま。暴れるのはそこまでです」

「「こ、コマ……」」


 私の愛しき双子の妹、立花コマがとっても素敵な笑顔で柱を力いっぱい殴っている姿がそこにはあった。あ……なんかこれデジャヴ……


「……叔母さまはお静かに。そんなに騒ぐと近所迷惑になりますでしょう?子供じゃないんですからもう少し節度や落ち着きをもってくださいよ…………(ボソッ)それと……余計な事を喋って姉さまを困らせないでください……怒りシバキますよ、本気で……」

「……お、おう。すまんかった……」

「それから…………お帰りなさいマコ姉さま。今日もお疲れ様でしたね♪」

「あ……う、うん……ただいまコマ……」


 暴走気味だった叔母さんに鋭い叱責し、そして私には満面の笑みを浮かべて出迎えてくれるコマ。あんだけ騒がしくしていた叔母さんを一言で黙らせるとは流石コマだね。


「あ、の……えっと……きょ、今日はゴメンね……一緒に帰れなくて。それに帰りも遅くなっちゃって……」

「いえいえお気になさらずに。姉さまはいつもお忙しい身ですから、偶に一緒に帰れなくても仕方ありませんよ。…………ところで、どうでしたか?例の『果し合い』は……怪我などなさっていませんか?ご無事でしたか?」


 私と同じように例のカナカナの呼び出しの手紙を『果たし状』だと思い込んでいたコマ。その為か、私が今まで『果し合い』をしてきたと勘違いしているコマは私に怪我がないか心配そうに問いかけてくる。


「え、あ……えっと…………それがさ……じ、実はあの手紙の送り主って、果し合いが目的じゃなかったんだ……私の勘違いだったみたいで……」

「あら……果し合いが目的ではなかった?あらあら、そうだったんですね。……では、どんな理由でその人は私の姉さまを呼び出したのでしょうか?」

「……そ、それはその…………た、ただ悩みを相談したくて私に手紙を送ったんだって。……それで……今の今までその子の相談受けていて、だから私……帰りがこんなに遅くなっちゃったんだよ……」

「…………へぇ。そうでしたか。果し合いじゃないならホッとしましたよ。姉さまが怪我をして帰って来たらどうしようって不安だったので……一安心ですね」


 とりあえずついさっき叔母さんにも吐いた嘘を同じように言ってみる私。すると性格の悪い叔母さんとは違い、純真無垢なコマは私の吐いた嘘を素直に信じてくれた。

 うぅ……悪気はないんだけどコマに嘘を吐いちゃうのはちょっぴり心苦しい……でも、そうしなきゃコマに心配かけちゃうことになるわけだし……こればかりはしょうがないよね……?ゴメンよコマ……こんな嘘つき姉で……


「そ、それよりも!コマもお腹空いたでしょ!お姉ちゃん、今からすぐに夕食料理作ってあげるからね!」


 吐いた嘘の後ろめたさから、慌てて話題を変えようとコマに言ってみる私。時間も時間だしコマもお腹を空かせていた頃だろう。色々と気持ちを切り替えて今日もコマの為に美味しいご飯を作ってあげなきゃね。


「……そう、ですね。確かに今私……とてもお腹が空いています。……今すぐにでも、食べたいです」

「あ、やっぱり?オッケー、すぐ作るからコマは待っててくれると―――」

「ですので姉さま…………イタダキマス」

「へ……?」


 そんな事を考えながら鞄を置き、台所へ向かおうとした私。その私の肩を背後から強く掴んでポツリと何か呟くコマ。一体何事かと振り向いたその先で私は……


「……ん……っ、んちゅ……」

「ふむぐ……ッ!?」

「おぉ……!」


 ……本日二度目。今度は最愛の妹コマに唇を奪われた。


 まずは手慣れた様子で自分の唇と私の唇を重ね合わせてくるコマ。叔母さんも見ている手前だし、何よりコマの意図が読めない私は『いきなりどうしたの』と問いかけようとしたんだけど……その私の問いかけよりも早く、コマはまた自身の唇を重ねる。

 しばらくすると啄むように自分の唇で私の上唇と下唇を交互に挟んで吸い付いてくる。チュッチュとコマが私の唇を吸い付いてくる音が聞こえてきて、何だか無性に恥ずかしくなってカーっと頬が熱くなってくるのが自分でもわかってしまう。


「ま、まっひぇ……こま……なんでいきにゃり……こんにゃこと……んぷっ!―――は、んむぅ……んぐっ……!?」

「む……ぁむ…………んっ♪」


 口づけされながらも『待ってコマ。何でいきなりこんな事を』と尋ねてみたんだけど、唐突な口づけに混乱していた事に加えてコマに唇を重ね合わせられているせいで上手く舌が回らず全然言葉にならなかった。姉さまには発言権などありませんと言わんばかりに、コマは私が喋る事を一切許さずにただただ唇を強く押し付けてくる。

 ……いいや、ただ唇を押し付けるだけでは終わらなかった。私の後頭部をつかんでから……互いの息一つ漏れぬように唇同士をピッタリとくっつけて完全に塞いでしまうコマ。塞いだ先で自分の舌を伸ばし私の口内にまで侵入しようと舌先で前歯や歯茎をちろちろと舐めまわして『姉さま、ソコを開けてください』と訴えてくる。


「(だ、ダメだ……げん、かい……)」


 少しの間抵抗のつもりで固く歯を噛みしめてコマの舌の侵入を拒んでいた私だけれど、くすぐるようなコマの舌先に弄ばれて段々と力が抜けてくる。それを見逃すコマではなく、少しだけ開いたところ目掛け一気に口内に舌を挿し入れた。

 そうなったらコマの独壇場。舌をくねらせ私の口の中を一通り吟味した後、いつものように私の舌に舌を絡めてくる。段々と互いの舌の粘膜がすり合わされて擦れてぴちゃりくちゃりと湿ったいやらしい音が頭に響きだし……


「ぁ……ぅくっ―――ゃ、ん……」


 口づけを交わすうちに溢れてきた唾液を舌で掬い取って、そのままゴクリと飲み干すコマ。二人分の蜜を嚥下した時のコマは……まるで女豹のような鋭い眼光で……一瞬私はコマに食べられる―――なんて思ってしまって……

 そうやってコマの思うがままに好き放題口づけを続けられて、一体どれほどの時間が経ったのだろう。鼻呼吸だけでは間に合わず、酸欠になる一歩手前のところでコマがゆっくりと私を解放してくれる。


「はっ、はっ……はぁっ…………はぁ……はぁあああ……」

「……ふぅー……」


 息も絶え絶えだったことに加え、コマの情熱的過ぎる口づけに心臓がパンクしそうだった私はその場で大きく深呼吸をして何とか鼓動と息を戻す事だけに専念する。

 一方のコマはそんな私をじっと見つめながら、蠱惑的な表情で私とコマの唾液でベトベトになった口元を指で拭い……その指を舌で愛おしそうに舐めとっていた。(そしてめい子叔母さんはそんな私たちの様子を先ほどのようなキラキラした目で観察しながら必死にメモしていた)


「あ、あのコマ……ど、して……?」


 数分かけて何とか落ち着きを取り戻した私は、屋上でカナカナにされた時のようにコマにそう尋ねる。


「んむ?…………どうなさいましたか姉さま?」

「い、いや……どうもこうも。な、なんでコマはこんな事をしたのかなって……」

「おや……何故と申されましても。言ったでしょう?お腹が空いてしまったって。……味覚を戻さないとご飯が食べられないので、いつも通り口づけさせて貰っただけですよ」

「あ、ああ……そういうこと……味覚戻すための口づけがしたかったのね……」

「はいそうです。これはただの……味覚を戻すための口づけですよ姉さま♪」

「……そ、そっか」


 そう事も無げに話すコマ。……た、確かにコマの場合は……私と口づけしないと味覚が戻らない特殊な味覚障害を患っていて、味覚が戻っていない状態の時は何かを食べる前に私と必ず一度は口づけを毎日交わしている。……交わしているんだけど……でも……


「……あ、あのさコマ」

「はい?何ですか姉さま?」

「……ひょ、ひょっとして……?」

「…………はて?怒っている?私が?……マコ姉さまはどうしてそう思われたのか、私には分からないのですが」


 にこにこと笑みを絶やさずコマは私の質問に質問で返す。表面上や言動だけを見れば確かに怒っているようには全然見えない。でも……だけど何だろうこの感じ……


「い、いやその……さ、さっきのコマの口づけが……何て言うか……」

「何て言うか?」

「なんか……いつもよりも、ちょっと強引に感じて……さ」


 今のコマの口づけに、そしてコマの行動に少し違和感を感じてならない私。いつものコマなら口づけをする際は必ず『姉さま、今からやっても良いですか?』と了承を得ようとするし……それに、普段ならもう少し私に気遣って優しくしてくれるはず。

 なのに今の口づけは……暴力的で荒々しくてちょっと強引で……まるでコマは何かに怒っているように感じてしまって……


「…………強引、ですか。……すみません姉さま。私との口づけはお嫌でしたか?」

「えっ!?い、いや違うの!強引なのが嫌ってわけじゃないの!」


 驚いたけど、それが嫌ってわけじゃない。……味覚を戻す為にやむを得ず口づけしているコマには悪いけど……まるで私を求めるようなコマの強く激しい口づけは、いつも以上にすっごくドキドキして…………き、気持ち良かったし……


「ただね……何だかいつものコマらしくなかったからお姉ちゃん少し心配で……も、もしかしたら私、コマに何か悪い事をして……それでコマが怒っているんじゃないかって思って……」

「……そうでしたか。ごめんなさい姉さま。私としてはそんなつもりは無かったのですが……大分お腹が空いていたせいで、少々強引に迫ってしまったのかもしれません。本当に姉さまに対しては怒っていないのでご安心くださいませ」

「あ、なんだそういう事ね。なら良いんだよ」


 コマの説明に納得する。そっかそっか、お腹が空いているだけなのか。怒っていないなら良かったよ。

 ……もしかしたらカナカナにキスされた事で、コマにちょっとした罪悪感を感じてしまい……それで私ったらコマが怒っているかもしれないとか変に思い込んでしまったのかも。コマが今日の放課後の屋上であった出来事を知っているはずもないのに変な想像しちゃったなぁ……


「…………(ボソッ)ええそうです。姉さまには怒っていませんよ。まあ……こんな風に簡単に私や他の人に唇を奪われちゃうくらい無防備すぎる点は多少思うところはありますが……それでも姉さまに怒っているわけじゃないんです……私は腹に据えかねているのは……」

「へ?コマ、今なんて……?」

「いえ何も。それより姉さま……実はまだ私、味覚が戻っていないのです。……続き、やっても良いですか?」

「……あ、ああうん。勿論だよ。夕食も味覚もお姉ちゃんがすぐに戻してあげるね。……あ。でも、叔母さんが見てるし……何よりここ玄関だから私の部屋かせめてリビングで続きを―――んぐぅ!?」


 と、そう言い終わる前にコマはまた唇を押し付けて口づけを再開する。今度は手を私の両頬に添えて、舌を私の口の中に突っ込んで大暴れ。

 ついさっきの口づけ以上に激しく舌を動かして、私の舌に絡めて押しつけ舐めあげて、そして引っこ抜く勢いで唾液ごと吸い付くコマ。時に自分の唾液を私の飲ませるように流し込んだり、私の舌を甘噛みしたりとやりたい放題好き放題。お陰で頭はクラクラ何も考えられず背中はゾクゾクと甘く痺れてしまってもう堪らない。


「姉さま……マコねえさま……ねえ、さま……!」

「……こ、ま……んん……っ」


 まるで放課後のカナカナのキスを上書きするような、自分の存在を私の中に刻み付けるような……そんな嵐のような激しいコマの口づけ。

 コマの味覚が戻るまでの数分間、私はなすすべもなくその口づけに翻弄されるばかりであった。







『…………(ボソッ)大丈夫ですよ姉さま。……あの人のキスなんて……私がすぐに忘れさせてあげますからね……』

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