第30話 ダメ姉は、解説する

「皆さん。柔軟体操は充分やりましたか?しっかり身体を解しておかないと怪我の元ですよ」


 柔軟中は友人共の監視の目が光っていたために(残念なことに)コマとのハプニングらしいハプニングなど何一つなくコマとの柔軟体操を無事に終え、いよいよ本格的に体育の授業が始まる。


「さて。まずは先ほど説明した通り、前回の授業の復習としてレイアップシュートの練習をやりましょう。このレイアップシュートはですね―――」


 今日の授業の内容はバスケらしい。バスケ……バスケか。むぅ、正直私的には苦手な競技だ。ドリブルできない、シュートは入らない、パスすら碌にできない。ボール追いかけてコートを行ったり来たりするのも疲れちゃうし……どうにも苦手意識があるんだよなぁ。

 ……ああいや、勿論バスケに限らず球技全般ダメな私だけれど。


「―――と言うわけです。まあ口で説明するよりも実際に見た方が早いと思いますし……それじゃあちょっとお手本を見せてもらいましょうか。ではここはやっぱり―――お願いしちゃおうかしら。立花さん、すみませんが立ってもらえますか?」

「「はい?私ですか?」」

「……え?あっ……!」


 と、そんなことを考えていると突然体育の先生に名前を呼ばれて思わず立ち上がってから返事をする私とコマ。

 同時にそして全く同じ返事をした私たち立花姉妹に、先生はしまったと言いたげな表情を見せて何故か私に謝ってくる。


「ご、ゴメンね立花マコさん。苗字だけで呼んでもダメだよね、『立花さん』は二人いるわけだし。ええっと……レイアップシュートのお手本を皆に見せてもらおうと思って呼んだのだけれど……」

「あら……姉さまではなく私、ですか?」

「あ、あーそうですか……これは失礼しました先生。紛らわしくてすんませんね」

「う、ううん。先生こそ混乱させちゃってゴメンね……」


 どうやら先生は練習の前に皆にシュートのお手本をこの学年で一番上手いコマにやって貰いたくて呼んだみたいだけど……当然ながら私とコマは双子で家族で同じ『立花』という苗字。

 いかんいかん。呼ばれていないハズの私まで思わず反応しちゃったよ。


「もー、何やってんのよマコ。体育でマコがお手本として呼ばれるはずないじゃないの」

「まあ参考にするなら誰がどう考えてもマコじゃなくてコマちゃんだよね」

「そうそう。仮にマコが先生に呼ばれる機会があるならそれは体育の補習授業のお誘いの時だけでしょー?」

「デスヨネー……いやはやこりゃ恥ずかしい限りで」


 友人たちみんなに茶化されながら、ハハハと笑って大人しくその場に座る私。そりゃそうか。友人たちの言う通り普通に考えたらお手本にするなら運動音痴な私じゃなくて運動神経抜群のコマが呼ばれるよね。


「じゃ、じゃあコマさん。レイアップシュートのお手本、良かったら見せてもらってもいいかな?」

「あ……はい。わかりました先生。……ただその、今日は少し自信がないので上手くできなかったらすみませ―――」

「コマー!がんばれー!お姉ちゃんいっぱい応援しちゃうよー!かっこいいとこ見せてー!」

「っ!…………は、はいっ!私、頑張りますね姉さま!かっこいいところ、絶対姉さまに見せてあげますからね!」


 気を取り直してここはコマの応援に専念するとしよう。手を全力で振ってコマを鼓舞する私。

 コマはそんな私の応援に応えながら、手渡されたバスケットボールを手に持って皆の前に立つ。


「先生、左右のどちらから始めたほうが良いでしょうか?」

「そうね。どちらでもいいですよ。コマさんがやりやすいと思う方からどうぞ」

「わかりました。では右サイドから……」

「ファイト、コマー!」

「…………(ボソッ)姉さまが私を見ている…姉さまが私を応援してくださっている。姉さまが私を。姉さま……姉さま…………姉さま…………ッ!」


 何故か私の方を熱っぽい視線でチラリと一瞥し、何やら祈るように呟きつつゴールリングをキッと真剣なまなざしで見据えるコマ。

 先生も、それから私たち生徒も固唾をのんで見守る中、コマは一度大きく深呼吸をして。


「……行きます」


 一言開始の合図をしてからスタートを切る。


 まずは軽快にドリブルをしながらゴールリングへ近づくコマ。


「ふっ……!」


 ゴールリングから大体二、三歩手前のところでドリブルをやめて、空中でボールを両手で掴む。

 そのままドリブルしていた時の速さを維持しつつ力強く右足から一歩目のステップを踏み……


「はっ!」


 視線はゴールリングをしっかりと見据えつつ、今度は二歩目で真上へと跳ぶ。その瞬間、一瞬コマの背に天使の羽根が生えたかのような……そんな奇妙な錯覚をしてしまう私。そう思ってしまうくらい、あるハズの体重を感じさせないほど軽やかにふわりとゴールリングを目指してコマは宙へ跳んだ。

 滞空している間に、ボールを片手で持ち上げて。コマは一番高い位置でボールを離し。そして―――



 ポスっ!



「決まったぁあああああああああ!流石私のコマぁ!かっこいいよぉおおおおおおお!」

「「「おぉー!」」」


 見事、ボールはゴールリングをくぐりシュートが決まる。真っ先に私の絶叫が木霊し、その後に続くように他の皆の歓声と拍手が体育館全体に鳴り響いた。

 やだもう私の妹超カッコいい……!素敵!惚れた!ごめん、もうすでに惚れてた!


「ハァ……ハァ……こ、これでどうでしょうか先生……?」

「うん、バッチリですよコマさん。これ以上はないくらいの素晴らしいお手本でした。ありがとうございます」

「そ、そうですか……よかった…」

「コマ!凄い!超かっこよかったよ!お姉ちゃん感動した!」

「あ……ありがとうございます、姉さま……やった…♪」


 先生と私に褒められたコマはホッと息を吐き、一礼してから心なし嬉しそうに元いた列に戻る。ああ、ホント凄いカッコいいよぉコマ……今すぐ抱いてほしい…


「さて皆さん。コマさんがとても素晴らしいお手本を見せてくれましたね。このようにレイアップシュートは―――」

「先生の仰る通り!コマの今のお手本は素晴らしい!……いいや、素晴らしいなんてものじゃない!もうこれは芸術品と言っても過言ではないくらいの美しいプレーだった!」

「えっ!?あ、あの……立花マコ……さん?」

「ね、姉さま……?あの、別にそこまで大したものでは……ないですし……」

「いやいや!大したものだった!あのシュートは奇跡の一本だったよ!」

「「「…………まーた始まった」」」


 ダメだ、もう抑えられない。我慢できない……!今の素晴らしさ、皆にトコトン語り尽くし、そしてコマを褒め称えてあげたい……!

 滾る想いを爆発させ、思わず皆の前に立って解説を始める私。


「まず何が素晴らしいって、ドリブルからステップに移るまでの絶妙な位置取り!コマ自身の歩幅やドリブルで乗ったスピードを生かしつつ計算し、完璧なタイミングでボールを手に持つのがホントに凄い!ねっ、凄いでしょ!そう思わない?」

「あ、ああうん。マコの言う通り、確かにコマちゃんって位置取りが完璧で凄かったわね……」

「うむす!見事としか言いようのないほどに完璧だったねっ!」


 身振り手振りを使って先ほどのコマの動きをトレースしつつ熱心に解説する私。友人たちにも話を振りながら徐々に場を盛り上げ始める。


「次に素晴らしいのは二歩目のステップ後の真上に跳んだところ!下手な人筆頭の私がやったら前にジャンプしちゃうところだけど、それじゃシュートが失敗しちゃうんだよね。そんな覚えがある人、多分私だけじゃないと思うんだ。覚えのある人いるよね?」

「う、うん……マコの言う通りかも。わたしもそんな風にやって失敗しちゃう、かも」

「だよね、だよねっ!……けれどコマのシュートは違ったでしょ?真上にまるで羽が生えたみたいに軽やかに、それでいてどこまでも高く跳んだのを見たかな?そう、あれこそがレイアップシュートの大事なところなんだよ!」

「……うん。あのジャンプした立花さん、確かにとっても綺麗だったわ……」

「あー、なるほど……アタシがこの前の授業の時上手くいかなかったのってそれが原因なのか」


 私みたいな運動音痴さんはゴールリングに近づくために二歩目のステップで前に跳ぶケースが多いらしい。こうしちゃうと十分な高さまで飛べないし、何よりバランスを崩して綺麗にシュート出来ないそうだ。

 その点コマはしっかりと真上に高く跳び、跳んだ後も身体はブレることなくしっかりとその体制を保っていた。そのことを指摘すると友人たちをはじめ、話を聞いていた皆も感心し始める。


「最後に一番素晴らしいのはシュートの際のボールの放し方。私だったらゴールに入れようと躍起になっちゃうところだけど……コマのシュートはそうじゃ無かったよね?どこが違うと思う?」

「えっとコマちゃんのシュートは綺麗だけどマコの場合は……何と言うか、雑?」

「うん、そうだね。雑だよね。あと他には何か気づいたかな?」

「んー……そうね、あんたがやると力が無駄に入っている感じだけど……コマちゃんは全然そんな感じがしなかった気がするわ」

「そうそこ!カナカナ良いところに気付いた!その通りなんだよ!」


 レイアップシュートで一番大切な事。それは決して乱雑にボールを投げたり放るのではなく、コマが魅せてくれたように慈しむかの如く優しくゴールへと置いてあげるように導いてシュートしてあげることだ。

 コマの根底にある優しさが現れるかのようなあのシュートは、もはや一種の感動すら覚えてしまう。さっきのシーンを撮影すれば、それだけでアカデミー賞間違いなしと私は思うね。


「その他も膝の使い方とか目線とか色々注目すべきところがあると思うけど……とにかく私が説明するまでも無くコマのあのシュートは何もかもが素晴らしいってこと!以上、コマの素晴らしいレイアップシュートのお手本解説でした!みんなもコマの動きを真似してやればきっと上手くなれるよ!さぁ、コマを参考にみんなで練習がんばろー!」

「「「おぉー」」」


 そこまで説明してから皆に一礼すると、先ほど以上に歓声が上がり矢継ぎ早にコマを褒めたたえてくれる友人や他の生徒たち。


「コマさん、さっきのシュート凄かったよ!」

「うーん、ホント上手いなぁ……ね、ねえ立花さん。やっぱり女子バスケ部に入らない?私たちいつでも歓迎するよ」

「コマちゃん、もし良かったら後でアドバイス貰ってもいいかな?」


 皆一斉にコマの元へと集まって輪になりコマを褒めてくれる。どうやら私の解説も相まって更に皆のコマへの好感度が上がった模様。うんうん、いやぁ我ながらいい仕事したなぁ。ふふふ、お姉ちゃん大満足だよ。

 そんな感じでコマが皆に慕われている様子を見ながらほっこりしてしまう。今日もやっぱりコマは素敵だ。






「…………ええっと。て、丁寧な解説をどうもありがとう立花マコさん。……でもその、一応授業中だし許可なく勝手に立って勝手に解説するのは止めてね。お願いだから。…………だって、解説するのは先生のお仕事だし……」

「ね、姉さま……やめてください。恥ずかしいじゃないですか……もう。…………(ボソッ)褒めてくださるのは……とても嬉しいですけど……」


 ちなみに。当然と言えば当然だけど、若干引いている先生と顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いているコマにいっぱい怒られた私。

 いかん、授業中だというのについいつものように熱く語ってしまった。ちょっと反省しなければ。



 ◇ ◇ ◇



 その後約10分間は全員でコマを参考にレイアップシュートの練習をし、残りの時間は予定通りチーム分けをしたのちに練習試合をすることになった。


「では、先ほど指定したメンバーでチームを組んでもらいます」


 残念なことにコマと一緒のチームにはなれなかった私。……と言うか、クラス内でチーム分けをされたから、どうあってもコマと一緒のチームにはなれない。

 あわよくばコマと一緒にと期待したけどそう都合よくはいかないか……嗚呼、ホントに残念。


「自分チームと相手チームがわかりやすいように、試合中は今日はA組の皆さんがゼッケンを着用してくださいね。それでは早速A-1チームとB-1チームで試合を行います。準備が出来次第始めますから、急いで準備をしてください」

「「「はーい」」」


 おっと……残念がっている場合じゃないか。早速呼ばれたみたいだ。A-1チームの私は、同じチームの友人たちと共にゼッケンを着用するため体育準備室へと向かうことに。


「今回はマコと一緒ね。よろしくマコ」

「ん?おお、カナカナも一緒なんだね。こっちこそよろしくー」

「それでマコ、どう調子は?いけそう?」

「いやぁ、無理そうかなー。わかってると思うけど私じゃ戦力にならないだろうから期待しないでね」

「あんたね……やる前から期待するなって……全く、あんたはあれだけしっかりとコマちゃんの動きの解説出来てたんだし、そもそもあの運動神経抜群なコマちゃんの双子の姉なわけでしょ?本気さえ出せば絶対上手くなれそうなのに……どうしてマコはいつも運動ダメダメなのよ?」


 友人の一人に心底不思議そうに尋ねられる私。いやそう言われてもなぁ……


「そりゃ解説が出来るほど知識があっても身体が全くついてこないなら意味ないからねぇ。私きっとそういう運動神経とかは、全部生まれる前にコマにプレゼントしたと思うし。そんなわけでこと運動に関してはダメな私に期待されても困るわけよ」

「……ま、そうよね。と言うか何が『運動に関してはダメな私』よ」

「だよねー。マコの場合は運動以外もダメダメだもんねー」

「あらゆる分野でダメ人間な残念な子だからねぇマコ……かわいそうに……」

「ハハハ……相も変わらずズケズケと容赦なく言ってくれるな君たち。友人として少しは遠慮というものを覚えてほしいよ私」


 まあいいけどね……事実だし。そんな雑談をしつつ、準備室へと辿り着く私たち。


「えーっとゼッケン……ゼッケンは…………おっ?あれかな」


 準備室にお邪魔すると、体育の先生の机の上に畳んで置いてあったゼッケンを難なく発見。ちょっとそのゼッケンを手に取ってみる私。

 むぅ……ゼッケンか。これ着るの正直苦手なんだよなぁ……ちょっと憂鬱だわ。


「……ハァ。私ゼッケンって嫌いだなぁ」

「あ、その気持ちわかるわ。マコもそうなんだ。バスケのゼッケンって何か着るの嫌よねー」

「一応バスケ部がしっかり洗濯しているらしいけど……この時期は特に十分に乾いてなかったりして、臭いもちょっと嫌だよね」

「そうそう。そもそもさ、他人が使いまわして着るゼッケンを着るのって何か抵抗あるしさー」


 ポツリと不満を漏らした私に後ろにいた友人たちは次々同調してくれる。……けど、あれ?おかしいな。何か私のゼッケン嫌いな理由と皆の嫌いな理由って違うような……?


「ああいや、ゴメン。私そういうのは別に良いんだよ……臭いとか他人のを着るのはあんまり抵抗ないし」

「ん?違うの?ならマコはゼッケンの何が嫌なのよ」


 不思議そうに友人に訪ねられる私。何が嫌かって?そりゃ決まっている。それは―――


「だってさ、ゼッケン着るとさ」

「「「着ると?」」」

「―――、苦しいんだもん……だからヤダなぁって思って」

「「「…………あ゛?」」」


 そう、私の場合はゼッケンとか着ると息苦しくてとても辛いのである。一応、私は他の人と比べると……その、胸が大きい。そのためか胸を押さえつけられる服を着るのがかなり辛い。

 特にこういうゼッケンを着るのは最悪だ。体操服とか普段の制服は自分のサイズに合ったものを着れるけど、この手のゼッケンは特注でもしない限り自分に合ったサイズが中々見つからずにかなり苦労してしまう。


 そのことを話してみると、何故か友人たちは眉をぴくぴく動かしながら聞き返してくる。


「……今、何て言ったのかしらマコ?」

「……聞き間違い、かしら?胸が圧迫されるとかふざけた話が聞こえた気がするんだけど?」

「ん?ああうん。そう言ったよ」

「……へー、そう。ねえマコ。ちょっとよくわからない話だったから、それはどういうことか詳しく説明してもらっても良いかしら?」


 おや?今の説明じゃわからなかったのかな?とりあえず友人たちに今一度丁寧に説明しなおしてあげることに。


「いやもうさ、こういうのって大きめのサイズ着ないと胸がめちゃくちゃ圧迫されちゃって息苦しくてたまらないんだよね」

「……」

「でもね。残念なことに胸が大きいのに私って背は逆に小さいから、あんまり大きいサイズのゼッケンは背丈的に着れなくてさぁ」

「……」

「で、仕方ないから胸が痛いのを我慢して無理に着なきゃならないんだ。もー、これ着て動くと胸がいつも以上にこすれてもう痛いのなんのって。何というか色々とはち切れそうでね」

「…………」

「だから私、ゼッケンって嫌いなんだよ。わかった?」

「「「…………それは自慢かこのヤロウ…!」」」

「へ?」


 と、気づいたら何故か地獄の底から鳴り響くような怨嗟の声を上げながら、親の仇でも見るかのように私を……いやより正確に言うと私の胸を睨んでいる友人たち。

 舌打ちまでしながら各々がブツブツと不満を漏らし私の胸を凝視しているみたいだけど……え?何?どしたのみんな?


「……このダメ人間、他は全てがダメなのに胸だけはクラスで一番……いいえ、多分……全校生徒の中で一番大きいのよね。かと言って体重はわたしよりも軽いし……!」

「……ていうかさ。今更だけどマコ、去年以上に大きくなってない……?更に成長してない……?どこまで大きくなれば気が済むのよ……!」

「……そんなに胸が大きいのが嫌なら、あたしたちに寄こしなさいって話よね」

「い、いや……あげられるなら私だって分けてあげたいんだけど……」

「「「だったら今すぐ寄こしなさいよっ!!!」」」

「いや、出来ないよ!?」

「「「なら出来もしないことを、軽々しく口に出すなこの巨乳バカぁ!!?」」」


 説明しろと言われたから説明しただけなのに、何故私は怒られなければならないのだろうか……?

 ある友人は激しく怒り、ある友人は自身の胸に手を当て嘆き、そしてある友人は静かに涙を流している。相変わらずどうして胸の話題だけでこうも一喜一憂しているんだ君たちは?と言うかこれから練習試合なのに大丈夫なのかい?


 やれやれ仕方ない。ここはちょっとフォローしてあげるとしますかね。


「まあちょっと冷静になってよ皆。胸が大きくてもさ、良い事なんてそんなにないんだからね。肩こりは酷いし、夏とかは蒸れちゃってあせもとかも出来るし。足元が見えないから階段が怖いしうつ伏せも碌に出来ないし。ブラも可愛いのあんましないし、稀に男子とかにも変な目で見られるし。何より運動の時かなり邪魔で上手く動けないから―――」

「「「巨乳特有の自虐風自慢してんじゃないわよダメ姉ぇえええええ!!!」」」

「えぇー……」


 おかしい。フォローしたつもりが却って怒ってるぞこいつら……


「い、いや自慢なんてしてないんだけど……だ、大体私って胸にばっかり栄養が行く体質のせいでさ、背丈が全然伸びなくて私も困ってるんだよ?私としてはコマのようなスタイルとあのお椀のような色白の美乳が理想的だと思っているけど……」

「む、胸にばかり栄養が行くだぁ……!?ななな、何て腹立たしい体の構造してんのよあんた……!」

「やっぱり喧嘩売ってる?売ってるよね?あたしが日々どんだけ頑張ってダイエットをしながらバスト維持に努めているか知らないのかしらッ!」

「持たざる者の惨めな気持ち、アンタには一生わかんないんでしょうねぇ……!」

「い、いだだだだ!?痛い痛い!?む、胸掴まないでよ!?揉まないでよ!?叩かないでよ!?」


 どうやら火に油を注いでしまったらしい。更にヒートアップして私の胸をモミモミと揉んだり、ガシッと掴んだり、力いっぱい叩いたりして友人たちは涙目で不満を爆発させる。なんて理不尽な……

 別に胸なんて無駄な脂肪の塊だと思うんだけどなぁ……正直少しばかり大きくても大して役に立たないし、ぶっちゃけ私からすると色々と邪魔でしょうがないんだよね。あ、勿論コマの形の良い芸術的なお胸は決して無駄なんかじゃないけどねっ!


「…………なるほどね。今やっとわかったわマコ」

「わ、わかった?ええっと、わかったって……か、カナカナは何がわかったのかな……?」

「あんなに運動神経抜群な妹ちゃんがいるにもかかわらず、アンタが全く運動できないその最大の理由よ。…………そんな無駄に大きな脂肪と言う名の重しを付けてたら、誰だって運動できるハズ無いものねぇ……!」


 禍々しいオーラを纏い、私の胸をより一層力強く揉みながら怨嗟の声を響かせる私の親友。お、落ち着いてくだせぇカナカナ様や……


「今の時間が体育でちょうど良かったわねマコ……!感謝なさい、今日は嫌と言うくらい運動させてお望み通りその駄肉をトコトン燃焼させてあげるわ!」

「そうね……そしてマコもあたし達みたいに貧乳になれば良いのよ!」

「覚悟なさいマコ……貧乳の辛いこの気持ち、絶対にわからせてやるんだから!」

「わ、わかった!わかったからとにかく胸から手を放してよ皆!?痛いってば!?」

「「「|巨乳(マコ)に貧乳私たちの気持ちがわかってたまるものですか……!」」」

「だったら私にどうしろと!?」


 気持ちをわかれと言ったりわかってたまるかと言ったり、一体どっちなんだろうか……?やばい、何かよくわかんないけどこいつらいつになくブチ切れてる。と言うか、これってそんなに気にすることだろうか……?

 そのまま友人たちの殺意交じりの視線に晒されつつ、チームメイト全員から胸を揉まれながら練習試合のあるコートまで連行されることになった私であった。

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