第207話38-6.美作の新兵器

 志光から少し離れた場所で仕伏の説明を聞いていた麻衣が呻き声をあげた。目が据わった麗奈も上司に同意する。


「この戦争は、魔界日本が中心になってしていることですよね?」

「そうだよ。主役はアタシたちだ」

「……部下を連れてきます」

「アタシも行く」


 二人は短い言葉を交わしてから、志光に挨拶をしてその場を去って行った。彼女たちと入れ替わるように、ヴィクトーリアが少年の前にやって来る。


「地頭方! どう? 見てくれた?」

「見たよ。湯崎さんが大事だと言ったわけだ。麻衣さんたちも焦ってたよ」

「でしょうね」


 ツインテールはニヤッと笑って完成に近づいている山車を一瞥する。


「主役が私たちになるのが気に入らないんでしょう?」

「そういうことだね」

「手加減はしないわ。相手は〝九天玄女〟門真麻衣ですもの」

「いやいやいや! 相手はホワイトプライドユニオンじゃ……」

「もう、勝負はついたようなものでしょう?」


 ヴィクトーリアは呆れたような面持ちで肩をすくめてみせた。そこに、雨具を着た美作純が姿を見せる。


 紫髪の少女は、男尊女卑国の瀬川菊虎を伴っていた。二人とも本当は男性なのだが、そこら辺にいる女性よりも遙かに美しく魅力的だ。


 美作は大型のカートを押していた。カートの上には小さなビニールシートがかかっている。


「棟梁、お久しぶり」

「地頭方さん、お久しぶりです」


 二人は志光に頭を下げた。少年も軽く頭を下げる。


「美作さん。瀬川さんと一緒だと思いませんでした」

「魔界日本と男尊女卑国は、協力関係にあるので応援を要請しました」

「あの、それって瀬川さんに会いたいためだけの私利私欲じゃ……」

「そういう疑いの目を向けられるんじゃないかと思って、ボクがちゃんと仕事をしている証拠として、棟梁専用の秘密武器を持ってきたよ」


 紫髪の少女は、そう言うとカートの正面に回ってビニールシートを取り去った。そこには、金砕棒を縮めたような金属製の八角棒が三本置いてあった。


「これは?」

「棟梁がドリルピットに偽装したタングステン棒で、敵の魔物を仕留め損なったという話を聞いて、大型のものを試作していたんだ。見た目もヘンリエット様の金砕棒に近づけた。ただし、重量は二〇キロあるから邪素を使わないと運ぶのも難しい」

「へえ……」


 志光は邪素を消費してから、八角棒に手を伸ばした。外見は、剣道や野球の素振りに使う道具にそっくりだったが、重さがまるで違うのは美作の説明通りだった。


「おお、これは確かに重い。破壊力は?」

「棟梁が打ち出す速度によって変わるけど、現在の戦車が主砲から発射する砲弾と、ほぼ同じ材質で出来ている上に重さが二倍だから、当たり所が良ければ戦車を撃破出来るかな」

「おおー」


 喜びの声を上げた志光は、八角棒を持った腕を地面と平行に伸ばして狙いをつけるふりをした。邪素を消費していても、これだけ重い武器ならば、美作の言うとおりの効果を発揮してもおかしく無さそうだ。


「これの運搬方法は?」

「時間が無かったので作っていないけど、後で専用のケースをつけるよ。現実世界に持って行く時には、野球か剣道の道具に紛れ込ませるのが良いと思う」

「じゃあ、今日は剥き出しのままで?」

「申し訳ないけど、菊虎君とデート……じゃなかった、他の業務もあるからそこまで手が回らなくて」


 美作が事情説明という名の言い訳をしていると、ヘンリエットとヴィクトーリア姉妹が八角棒に偽装した武器に気がついた。二人のうちのツインテールの方が、ひょいとカートに手を伸ばす。


「これ、地頭方の新しい武器なの?」

「そうだよ。美作さんが作ってくれたんだ」


 志光の説明に頷きながら、ヴィクトーリアは指だけで八角棒をつまみ上げた。ヘンリエットもためらいがちに棒を掴む。


「指揮棒に良さそうね? 私に一本くれる?」


 ツインテールのおねだりを耳にした志光は、美作と視線を交わす。


「棟梁さえ良ければ」


 紫髪の少女から返事を得た少年は、間髪入れず女尊男卑国の姉妹に許可を出す。


「ヴィクトーリア。それは君が使って良いよ。ヘンリエットもどうぞ」


 姉妹は喜んで一本ずつ棒を手に取った。残った一本を志光が掴むと、美作は瀬川と一緒に空のカートを押してその場から消える。


 志光は一旦八角棒を地面に置くと、邪素の消費をストップした。強力な武器だが、重量があるので持ち運びに邪素を使わざるを得ない分だけ使いどころが難しい。


 現実世界なら、車で目的地まで運搬するという手段もあるが、魔界にはそもそもそれほど大量の車があるわけでは無い。


 では、美作のようにカートに乗せて移動するべきなのか? しかし、それも格好が悪いような気がする。


 志光は八角棒の扱いをシミュレーションしてから、再び邪素を消費すると八角棒を拾い上げた。


 ここは魔界だ。邪素なら腐るほどある。使いこなせるかどうか定かでは無いが、これから先に何が待ち構えているのか解らないのだから、少しでも戦力になりそうな八角棒は持って行くべきだ。


 志光が再び棒を弄っている間に、組み上がったジャガノートはヴィクトーリアの奴隷たちによって最終的な調整を施されていた。


「そろそろ準備ができたようよ」


 ツインテールの少女は、金砕棒から目を離して大きく伸びをする。


 そこに、部下を引き連れた麻衣と麗奈が戻ってきた。彼女たちの後から、大きな無線機を背負ったクレアと、どういうわけか高橋要蔵が歩いてくる。


 羽織袴は魔界迷彩を施された番傘をさしていた。彼は軽く傘を上げて志光に挨拶する。


「久方ぶりだな。この戦の結末を見届けに参ったぞ」

「お久しぶりです」


 少年が羽織袴に頭を下げている間に、クレアはヴィクトーリアに近寄って言葉を交わしだした。しばらくすると、彼女は志光にも声をかける。


「準備が整ったわ。戦闘に参加しないメンバーに撤退を指示してくれないかしら?」

「分かりました」


 背の高い白人女性に頷いた少年は、麻衣と麗奈の元に駆け寄った。赤毛の女性とポニーテールは戦闘準備完了の報を耳にすると、彼女たちの部下を呼んで小声で指示を伝達する。

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