第155話31-6.魔宴
タブレットに表示されていた突入先の牧場は、昼間だと白い壁にオレンジ色の瓦が美しく、専用のプールやパティオまである。
広大な敷地があるせいで、複数の建物はいずれも平屋建て。とても農場とは思えないほど贅沢な造りだ。
志光がぼんやりと画面を見つめている間に、登山客に扮した悪魔の一人がリュックサックから何個ものフレックスカフを引っ張り出してきた。手錠の代わりに使う樹脂製の拘束具だ。
カフを使う理由は考えるまでも無い。人間を生きたまま捕まえて強姦するつもりなのだろう。今日は酷い夜になりそうだ。
「そろそろ行くぞ。地頭方棟梁。君はどうする? 俺たちが麻薬カルテルの連中を制圧してから顔を出すかい?」
仲間の一人から邪素無線機を受け取ったゴールドマンは、最後の段取りを少年に尋ねてきた。志光は大きく首を振る。
「まさか。ここで様子を伺っているなんて真っ平ですよ」
「それじゃ、一緒に来てくれ。ただし、手出しは無用だ」
「解りました」
会話を終えた強姦魔は出撃の指示を出す。
「作戦開始」
二人一組になった〝キャンプな奴ら〟の悪魔たちは、一斉にトレッキングルートから飛び出した。志光はクレア、茜、最後にウニカを見回して、厳かに宣言した。
「僕たちも行こう。ウニカ。僕の護衛を頼む」
魔界日本一行は邪素を消費すると、〝キャンプな奴ら〟の悪魔たちを追った。あっという間に、平屋建ての建物群が近づいてくる。
既に門の前では、一人のメキシコ系とおぼしき男性が気を失って地面に転がっていた。背中にねじり上げられた腕と足首に、先ほど見たばかりのフレックスカフが嵌まっている。
そこから数メートル先では、同じくメキシコ系とおぼしき男性が、悪魔の一人に背後から腕で首を絞められて白目を剥いていた。恐らく、柔道か柔術の絞め技だ。
悪魔は舌なめずりしながら気絶させた男にフレックスカフを填めている。やる気満々なのだろう。
志光が顔を歪めていると、くぐもった銃声が建物の一つから響いてきた。少年がその建物の入り口に近づくと、拳銃を構えた男が怯えた顔で何事かを叫んでいるのが見えた。しかし、次の瞬間には悪魔が男の背後に回り込み、有無を言わせず裸絞めを極めて失神させる。
拳銃弾程度の運動エネルギーでは、悪魔にはかすり傷一つ負わすことはできない。それ以前に、あんな近い間合いでは銃を撃つ前に懐に飛び込まれてゲームオーバーだ。
にもかかわらず、銃声がしたというのは悪魔が人間に敢えて射撃をさせ、それが効かないことを見せつけたかったからに違いない。銃撃した男がパニックに陥るのを楽しんでいるのだ。
それ以外の場所でも、悪魔たちは明らかに襲撃を楽しんでいた。カルテルの構成員をわざと屋外に逃し、後ろから押し倒して失神させている〝キャンプな奴ら〟のメンバーの姿も見える。
彼らが渋々やっていたのは、襲われた男たちがお楽しみのために都市部から呼び寄せた玄人女性を、部屋の一室に押し込める段取りぐらいだった。恐らく、クレアや茜がいなければ、女性は殺すかそれに等しい扱いをしているのだろう。同性愛者でかつ強姦性愛者にとって、彼女たちは全く価値の無い存在に過ぎない。
やがて、建物群からほぼ物音が消えると、見計らったかのように二台のピックアップトラックが門前に現れた。そのうちの一台からミス・グローリアスが降りてくると、ぼんやりと成り行きを見守っていた志光に声を掛けてくる。
「第一段階は終了というところかしらね?」
「そのようですね」
「これから、ホワイトプライドユニオンの襲撃に備えて武器をこの家に入れるわ」
「トラックの荷台に積んであったんですか?」
「そうよ」
「魔界日本だと、兵員と武装を分けて運んでいるから羨ましいですね」
「こんなモンスターサイズの乗用車、日本で走っていたら嫌でも目立つわよ」
「確かに」
「それより、皆さんには寝室を一つ用意するから、そこでゆっくりくつろいでいただけるかしら?」
「この牧場って、寝室が幾つあるんですか?」
「五つよ。二つは私たちのお楽しみのために使わせて貰うわ」
「残りの一つが、とっ捕まえた女性用ですか?」
「そういうこと。こっちに来て」
ヒョウ柄のジャケットは、そう言うと少年たちを寝室の一つに案内した。大きなクローゼットを備えた白い壁の寝室には、キングサイズのベッドが置かれてある。
「それじゃ、後はご自由に。今から私はホワイトプライドユニオンの襲撃先を横取りしたという声明を書いて、写真を何枚か添えた上で悪魔たちに流すわ。彼らが朝までに来るかどうかは、彼らの準備次第でしょう。それまでは、私たちも自由にするわ」
ミス・グローリアスはそう言い残して部屋から立ち去った。残された魔界日本組が互いに顔を見合わせていると、茜が我慢出来なくなったように声を上げる。
「棟梁。メイルレイプを観に行っても良いですか?」
「見たいんだ?」
「見たいですよ! 生メイルレイプですよ!」
「良いけど、〝キャンプな奴ら〟の皆さんの邪魔にならないかな?」
「大丈夫です。ジャパニーズドゲザでお願いしますから!」
「……解った。行ってらっしゃい」
「ありがとうございます!」
志光から許可を取り付けた眼鏡の少女は、鼻息も粗く寝室を飛び出した。
「……」
残った二人と一体のうち、ウニカが少年に意味ありげな視線を向けてから、部屋のドアを開けて暗闇に消える。警護役を買って出たのだろう。
「二人きりになった事だし、することをしましょうか」
クレアはそう言うと、その場でドレスを脱ぎだした。彼女が純白の下着姿になったところで、夜のしじまを切り裂くような男性の野太い悲鳴が聞こえてくる。
「あら。そろそろ始まったみたいだわ」
「女性とお楽しみの予定が、自分達が楽しまれる側に回るとは思ってもみなかったでしょうね」
「彼らを助けてあげたい?」
「いいえ」
志光が首を振ると、クレアは何故か微笑んだ。彼女はベッドの端に腰を下ろし、少年を呼び寄せる。
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