第52話9-3.敵襲
「護衛から連絡が無いということは、誰かに殺害されたと思って良いわ。問題は相手とその方法よ。相手は恐らくホワイトプライドユニオンが送り込んだ魔物、あるいは悪魔でしょう。でも、私が東京で襲われたタイプの魔物であれば、たとえ不意打ちをしてきたとしても、対戦車ライフルに対抗できるとは思えないわ」
「ということは、敵も別の方法で攻撃をしてきたと考えるのが妥当だと?」
「ええ。こちらの武器は対戦車手榴弾だけ。仮に敵が銃器で武装していたとして、遠距離から狙撃されたらどうにもならないわ」
「そのことでしたら、私がお手伝いできます。一郎氏の命令で、武器を地下に隠してあるんです。クレアさんの仰っていた、対戦車ライフルだと思います」
「助かるわ。すぐに案内していただけるかしら?」
「ええ。地下の私が寝泊まりするために設けた区画に……」
信川がそこまで言いかけたところで、固い物が同士がぶつかるような音と共に、執務室を囲むガラス窓の一部にヒビが入った。
「伏せて!」
麗奈は叫びつつ志光に飛びかかり、彼を床に這いつくばらせる。
「やはり狙撃か!」
うつ伏せになった大蔵は、そう叫ぶと匍匐前進の要領で部屋の中央まで移動した。
「ここの防音が良いせいで、銃声が聞こえなかったのね」
腰を下ろしたクレアはヒビが入ったガラスの方角に目を凝らす。
「どうしますか?」
志光から退いた麗奈が、背の高い白人女性に指示を仰いだ。信川も床にへばりついた状態で、彼女の判断を待っている。
「まずはエレベーターのある階まで降りましょう。この建物の周囲で、ここより高い場所は無いから、相手の攻撃は当てずっぽうでしょう。目くらましをしたら、一気に階段を降りるわよ。見附さん。対戦車手榴弾を出して」
クレアが手を伸ばすと、麗奈はスクールバッグのジッパーを下ろしてRKG-3を取りだした。ポニーテールの少女から対戦車手榴弾を受け取った背の高い女性は、安全ピンに指を引っかけてから全員に警告する。
「邪素を消費して。この手榴弾を窓ガラスのヒビの入った部分に投げるから、爆発したら一気に階段を降りて。良いわね?」
「はい!」
麗奈はうつ伏せの状態で返事をすると、息を止めて腹部を凹ませた。仰向けに寝転がった志光も、息を止めて邪素を消費し始める。
「信川さんは大蔵さんにお願いするわ。それじゃ、行くわよ。口を開けて耳を塞いで」
悪魔たちから青白いオーラが立ち上る様子を確認したクレアは、RKG-3のピンを抜いて窓に投げつけた。手榴弾が窓に当たると爆発が生じ、凄まじい炎と白煙が上がる。
次の瞬間、大蔵が信川を抱え上げた。麗奈は志光を引き起こし、階段を一足飛びで駆け下りる。二人の後をクレアと過書町、ウニカが追った。最後に信川を抱えた大蔵が続く。
敵の銃撃は無かった。あるいは、あったとしても銃声を耳にすることは無かった。
全員が無事にエレベーター入り口に到着すると、クレアが降りる方向のボタンを押した。続いて彼女は無言で麗奈に手を差し伸べる。
ポニーテールの少女は新たな対戦車手榴弾を背の高い白人女性に渡した。その間に志光は腰にぶら下げた袋から、ドリルビットに偽装したタングステン弾を出して逆手に握る。
上がってきたエレベーターには誰も乗っていなかった。クレアは地階のボタンを押す。
「信川さん。地下の入り口は?」
「エレベーターと避難階段です。エレベーターは信者用、教団関係者用、荷物搬入用で三つ、避難階段は四カ所に設置されてあります」
「全てを見張るのは無理ね」
「残念ですが、ここは宗教施設です。要塞として設計されているわけではありませんので」
信川とやりとりをしたクレアの顔が曇った。エレベーターはやがて地階に到着する。
エレベーター出口は間仕切りが施されており、一般の信者は侵入ができないようになっていた。信川を先頭とした一行は、数人の教団関係者を追い越し、彼の寝室に到着する。
「どうぞ」
白髪の老人が鍵を開けた部屋は十二畳ほどの広さがあった。室内の家具はセミダブルのベッドに小さめの机、クローゼットと至ってシンプルだ。
「通常は集会の前後に寝泊まりするだけの場所ですから、何もおもてなしは出来ませんがお許しいただきたい」
「安心して。ここに長居をしていたら、私達は全滅するわ。それで、武器はどこに?」
「この床二畳分が床下収納になっています。ただし、人間の力では開きません。それが鍵の代わりですよ」
信川はそう言うと、板張りの床の一部を指し示した。クレアがその部分を押すと、半回転して引き上げるための取っ手が現れる。
「みんなそこを退いて」
他のメンバーが移動し終わると、背の高い白人女性は身体から青い光を立ち上らせつつ取っ手を引っ張った。床はゆっくりと斜めに持ち上がり、その下から収納庫が現れる。
大きな収納庫の中には、対戦車ライフルが二丁入っていた。アモカンも見える。
クレアはまず一丁目を床から引き上げ、麗奈に手渡した。続いて彼女は二丁目を自分で持つ。
「簡単で良いから作戦を立てましょう。まず、侵入経路が七カ所もある以上、私達の人数で地下室に立てこもるのは不可能だわ。でも、一階に上がればエレベーターホールに間仕切りが無いので、そのうちの三カ所は一人か二人で抑えられるはずね。後は避難階段の位置だけど……」
「避難階段は、前方型の建築物に二カ所、後円型のこちらに二カ所です。こちらの一カ所が媒介者専用になります」
信川が建築物の構造について説明すると、クレアはふんふんと頷いてから悪魔たちを振り返った。
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