第百十九回 漢主劉淵は粮米を送って魏陽に輸す
「三軍にとって糧秣は命と代わりありません。今や太子は孤城に拠って苦戦をつづけ、
「本件は極めて重要ですので、臣が
それを聞いた
「軍勢を分かって糧秣を送らんとお考えであれば、臣は不才なれど一軍に従わせて頂きましょう。必ずや別軍の進退に
安堵と懸念が相半ばした劉淵が言う。
「人の才を占うにはその友を観ればよいという。昔、姜發は
その言葉が終わらぬうちに、まだ若い将官が進み出た。誰かと見れば、劉淵の族子の
「お前はまだ初陣も経験しておらぬ。この任には戦場に慣れた老練の将が必要なのだ」
「小将は必ずや先陣の任を果たして事を誤りません」
食い下がったものの、劉淵は許さない。
そこに一人の将官が進み出る。これもまだ年若く、
▼「高い頬骨」の原文は「
その将官は進み出ると大言を放った。
「魏縣に兵糧を送るのであれば、臣が前駆を務めねばたとえ百万の軍勢をつけたとしても城下に到ることはできますまい」
誰かと見れば、先に汲桑とともに二万の軍勢を率いて加勢に駆けつけた
その大言を受けて劉淵が言う。
「容貌より察するに糧秣を運ぶ任にも堪えるように思うが、晋の軍勢は歴戦の
「それならば、これより講武場にて武芸を御覧に入れ、技倆が口ほどにもなければ喜んで妄言を吐いた罰を受けましょう」
それを聞いて不快に思ったのは劉淵ではなく先に願い出た劉曜であった。劉淵が石勒に前駆を許したならば、劉曜の面目は丸つぶれになる。
石勒の前に立って言う。
「吾が魏縣に向かう先鋒を願い出て、数多の
「望みどおり、刀鎗であれ
劉曜はいきり立って殿上より駆け下りると叫んだ。
「お前の言うとおり、これまで鍛えた武芸を
「腕比べを懼れるわけではないが、先に主上の許しを得てから試合うとしよう。吾は大晋の大軍が相手であっても怯みはせん。ましてや試合を怖れることなどあろうか」
石勒もそう言い放つと、講武場に向かおうとする。
陳元達がそれを止めて叱った。
「
そう言うと、劉淵に向き直って上奏する。
「両人を大将として糧秣を送るのがよろしいでしょう。いずれかのうち、先に魏縣の城に入ったものを勲功第一とすることといたしましょう」
劉淵はその言を納れ、両軍の陣容を次のように定めた。
副先鋒
部将
軍勢十万、糧秣三十万
副先鋒
郷導
部将
後詰
軍勢十万、糧秣三十万
石勒は右路より、劉曜は左路よりそれぞれ魏縣を目指すことと定められた。
▼この場合、平陽より東にある
※
その日のうちに平陽より密書を持った間諜が魏縣に遣わされたものの、その間諜は晋軍に
密書を読んだ
「哨戒の者が漢賊の間諜を捕らえて密書を手に入れた。それによれば、三十万の軍勢を二路に分けてこの魏縣に糧秣を届けようとしているらしい。城内の張賓は守城を善くして付け入る隙を与えず、連日攻めてまだ落城の気配もない。却って兵馬を損なうばかりだ。これで糧秣を補給されれば、いよいよ落とすのが難しくなろう。諸王侯にはこの賊を破る計略はないか。それぞれの存念を申し述べよ」
「漢賊を破るには糧道を断たねばなりません。兵糧を入れては勝利など夢のまた夢です。糧秣を運ぶ軍勢を迎え撃ち、城に近づけてはなりません。ここを凌げば城中の兵糧は間もなく底をつき、一鼓の下に擒とすることさえできましょう」
「それならば、誰にその重任を委ねるべきであろうか」
成都王の言葉を受け、
「臣の麾下に
成都王はその言を納れて二人を召し寄せ、賞を与えると漢の援兵を防ぐ任を命じた。
「賊の密書によれば軍勢を二つに分けて魏縣を目指しているとのことです。もう一軍を出さねばなりません。誰を遣わすのがよろしいでしょうか」
その時、
「臣の麾下にある
「
▼「沙麓山」は「沙鹿山」とも書かれ、鄴の東に位置する。西から来る劉曜を晋兵がここで待ち受けたとは考えにくい。前段に述べるとおり、劉曜は井陘関を抜けて北西から下ったとすれば、沙麓山は鄴の西北にある
▼「霊昌河」という河は
陸機はその意見に同じて軍令を発した。
「霊昌河の河岸は広い。皮将軍以下三将は三万の軍勢を率いて向かい、河岸に柵塁を設けて敵の侵入に備え、敵が攻め寄せれば
五将は命を受けて幕舎を出たものの、
「元帥の怯懦は甚だしい。敵に勝っても追撃するなとは何事か。それでは軍勢の士気など上がらぬわ。元帥の指示に違えても奇功を顕して吾らの手際を見せてくれよう」
口々にそう言い合うと、自らの軍営に還っていったことであった。
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