十三章 晋漢大戦:両道並進
第百十八回 曹嶷と夔安は平陽に上って救兵を乞う
「噂じゃあ、平陽に使者を出すってえじゃねえですか。俺ら二人が昼夜を分かたず向かやあ、行って返って一月も要りやせん。万一期限に遅れようもんなら、どんな罰を貰っても構いやせんぜ。上奏文を書く間に出立の準備を終わらせまさあ」
城から五里(約2.8km)の地点まで送り出すと、護衛の二将は引き返していき、曹嶷と夔安は平陽へと道を急ぐ。張賓は諸将に命じて防備を固め、晋軍の到来に備えて厳戒を布いた。
翌日には晋の諸王侯の軍勢が
成都王は彼らの屍を収めて
成都王は軍議の席に着くと問いかける。
「漢賊どもは魏縣に逃げ込んで城に籠もった。どのようにしてこれを破るべきか」
陸機が進み出て言う。
「一計がございます。諸侯に令して二軍を一営とし、六つの城門を防いで逃げ道を断つのです。また、八親王の軍勢も同じく二軍を一営として四営となし、中軍の下知に従って動くようにし、城外との連絡を断ちます。こうすれば一月もせぬうちに城内の兵糧は尽き、漢賊どもは残らず
「勲功はこの一挙にある。諸侯は協力して忠義を顕す働きをせよ」
諸王侯は成都王の檄を
翌日、晋軍は軍営を移して包囲を開始する。張賓は防備を固めて厳戒態勢をつづけ、晋将たちが見る限り隙は窺えなかった。
※
一方、平陽に急ぐ曹嶷と夔安は昼夜兼行の旅をつづけて平陽にたどりついた。その足で漢主の
「今頃、魏縣の城は晋の大軍に囲まれちまってまさあ。俺らは太子に言われて急を告げに参じたってわけで。一日も早く援軍と糧秣を送らねえと、太子も将兵も干上がっちまいますぜ」
そう言うと、韓陵山の戦いから始まる晋軍との戦を詳しく報告した。
それを聞いて
「これは尋常の戦ではございません。晋は天下の軍勢を掻き集めて魏縣を囲んでおります。陸機は必ずや吾らの糧道を断とうと企てているはずです。知略の士と勇猛の将に大軍を与えて兵糧を送り届けねばなりません」
諸葛宣于が言う。
「兵糧はすでに整い、十五万の軍勢が調練を終えて出発に備えております。しかし、誰を将帥に任じたものかと迷っておりました。
その時、
「ただいま、門外に四人の者が来て『蜀より遥々訪ねてきた』と申しております。その口ぶりから縁故の者ではないかと思われますが、いかがいたしましょうか」
劉淵が招じ入れるよう命じると、いかにも好漢と見える男たちが現れた。
「蜀漢所縁の者たちとも別れて久しく、忘れている者も多い。由来を聞かせて欲しい」
進み出た男が言う。
「臣は大将軍を務めた
それを聞くと劉淵は余人を退けてともに後殿に入り、涙を流して言う。
「父君はかつて一計により三将を
姜發を幼い頃から知る諸葛宣于が言う。
「存忠の来着は幸いです。魏縣に援軍と糧秣を送るにあたり、存忠を大将に据えれば何の心配もございません」
「まずは酒宴を開いてこれまでの艱難を労い、その後に官職を授けて任を委ねよう」
劉淵はそう言うと座を定めて酒宴を開く。そこに急報が飛び込んできた。
「正西の方角で
劉淵は大いに愕いて諸葛宣于に様子を見に行くよう命じた。城壁に上がった宣于は塵埃を見て言う。
「
ほどなく軍勢が門外に到り、一人の大将が進み出て叫んだ。
「吾は西蜀の
城門上より孔萇が言う。
「しばらくそこに留まれ。目下は戦時、軽々に城門を開くことはできぬ。主上に申し上げた上で城内より人を遣わし、
孔萇は馬を駆って殿上まで乗り付けると報告する。
「軍勢より一将が現れて自らを蜀人の汲桑と名乗り、趙勒とともに二万の軍勢を率いて加勢に参ったと申しております」
劉淵が言う。
「汲桑が来たとあれば、兵糧を魏縣に送る心配はいらぬ。誰ぞ面識がある者を遣わして城内に召し入れよ」
それを受けて
城壁より見れば疑いなく汲桑その人であった。城門を開いて軍勢を迎え入れると、一同ともに朝廷に入って劉淵との謁見となった。
汲桑が拝礼すると、劉淵が問うて言う。
「かつて互いを失った後、
▼「張将軍」は張實または張敬を指すと思われるが、不詳。実際には廖全が各地を訪問して遺臣を探した筋になっているため、それに従って改めた。
汲桑はかつて
それを聞いて劉淵が言う。
「お前たちが忠心を抱いて旧主を忘れなかったことは、実に国士無双というべきであろう」
その軍勢にも銭糧を与えて賞し、その後に諸将に官位を与えて禄を定めたことであった。
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