第百一回 李雄は成都を取る
ちょうどこの頃、
「李流が病死し、李雄がその跡を嗣いで
羅尚は
報告を聞いた李雄は諸将の中で叔父の李讓を見て言う。
「羅尚は先公(李流)の死を知り、侮って無謀にも軍勢を動かしたのであろう。この一戦はかつての戦とは異なり、必勝を期さねばならん。吾は跡を嗣いで日が浅く、易々とは勝利を得がたい。ここは叔父上に出て頂くよりなかろう」
李譲が言う。
「主公は何も言われますな。五千の精鋭を率いて迎え撃ち、羅尚の軍勢を打ち破って吾らの功業を固めて御覧に入れましょう」
李雄はそれを許し、
この時、上官晶は軍を分けて城を囲む官兵の背後に回った。常深はこれを見て言う。
「塵埃が空に舞い上がっておる。賊兵の救援が着いたのであろう。すみやかに敵襲に備えよ」
官兵は包囲を解いて陣形を整えたものの上官晶の突入を防ぎきれず、たちまち軍列を崩された。郫城に籠もる任道も城門を開いて打って出る。
官兵は前後に敵を受けて乱れたち、算を乱して逃げ奔った。
上官晶は軍勢を駆って追い討ちに討つ。官兵たちは刀鎗や兜を棄てて逃れ去り、拾い集めれば数え切れぬほどになった。大敗を喫した常深たちは成都に逃げ戻り、李譲たちも
※
李雄は李譲を城外まで出迎えて言う。
「叔父上の武勇に官兵どもの胆は大いに破られたであろう。しかし、羅尚の老賊をいつまでも生かしておくわけにはいくまい。ただちに成都に攻めかかって一戦し、父兄の仇に報いねばならぬ。それでこそ吾が志も果たされるというものだ」
「にわかに成都を攻めるわけには参りません。羅尚の虚実を測って軍勢が出払うのを狙いすまし、急襲すれば成都は必ずや吾らの有に帰しましょう」
李雄はその言に従って成都に間諜を潜ませ、羅尚の動静を窺わせることとした。それより一月を過ぎず間諜の一人が駆け戻って言う。
「羅尚は兵糧の不足に苦しみ、軍勢を率いて
李雄は諸将を集めて軍議を開き、成都への攻撃を諮った。副総官の
「羅尚は成都を空けるにあたり、
李雄はついに決断して軍勢を発し、廣漢の留守を
成都に向かう軍勢の先鋒は上官晶があたり、李譲を総帥として閻式と徐輦を参謀とした。
成都に攻め寄せた軍勢は鬨の声を挙げて城門に打ちかかる。
羅特は畏れて出戦せず、李雄は城を厳しく包囲して人の出入りを封じた。包囲された城内では軍民ともに愕き乱れて逃げ出す者が相継ぎ、戦おうという者はいない。
焦って自ら城壁に上がって督戦したものの、流れ矢を受けてそれもままならなくなった。城内では兵糧の欠乏がいよいよ甚だしく、軍士にも食事が行き渡らなくなり、怨嗟の声が沸きあがって城外まで聞こえるほどであった。
※
城内に変事が起こるのを懼れ、羅特は痛みを堪えて城壁上で督戦し、兵糧を軍士に配って慰労する。
李雄はそれを見るや城下に馬を進めて大音声に叫ぶ。
「羅将軍よ、吾が言を聞け。今や晋朝の政事は度を失って賞罰さえ明らかではない。忠節を尽くしたところで空しく死ぬだけのことである。そのうえ、羅尚は民より貪って酷政をおこない、軍民の心はすでに離れて城の陥落は旦夕にある。将軍が決断しなければ、火が玉石を分かたず焼き払うごとく、善人も悪人もともに滅びることとなろう。すみやかに降って永く富貴を保ち、
羅特は言い返すこともできず城壁から姿を消した。李雄は羅特が死を畏れていると確信し、閻式に言う。
「吾が大事をなせるのは蜀の民心を得たがゆえである。今や城内の困窮は極まった。城を攻め落とせば民を損なわざるを得ず、多くの生命を奪うに忍びない。城内に使者を入れて利害を説き聞かせ、投降させるように試みよ。人命を損なわずに成都を陥れられれば、民心はさらに吾に帰して大事も掌のうちにあるようなものであろう」
「それならば、吾がこれから城内に向かって羅特の心底を見定めて参りましょう。様子を観るかぎり、投降したいと思っておりましょうな」
「軍師が説得に向かうとあれば、成都は落ちたも同然であろう」
李雄がそう言うと、閻式は軽装に改めて馬に乗り、数人ばかりの従者を連れて城門の下まで進むと城上の兵士を呼んだ。
※
兵士たちが城門の下を見れば、白衣に
その姿から軍使と見て取り、疑いもせずに城門を開いて迎え入れた。城内に入った閻式は兵士に付き添われて羅特がいる
羅特は閻式を見て問う。
「お前は何者でここに来て何をしようというのか」
「成都の民の生命を救いに
「吾は大晋の
「思い違いをしておられます。そうではありません。その昔、
羅特は閻式の言に理があると覚り、ついに諸将を集めて言った。
「今や吾が軍士たちは数年に渡って流民と戦いつづけ、一時の安息もなく百戦して力を尽くしてきた。それにも関わらず、朝廷からは論功行賞もおこなわれず軍士を労う詔すらない。力を尽くして賊徒を防ぎ、成都を枕に討ち死にしたとしても、誰一人として吾らの心を知ることもあるまい。まして、羅使君は遠く閬中に去って城内の兵糧は払底し、軍士の疲弊は日に日に深まっている。成都を賊徒から守り抜くことはできぬ。落ち延びて隣郡と合力して奪い返そうにも包囲は鉄桶のように厳しく、翼があっても逃れ難い。この情勢を打開する良策を持つ者はおるか」
諸将はすでに羅特が投降したがっていると見抜いており、声を揃えて応じる。
「すべては将軍のご意向にあります。なぜ早く閻将軍の言に従って軍民を苦難から救い、富貴を保とうとなさらないのですか」
羅特はそれを聞くと、李雄の軍営に使いを出して
李雄はついに大いに軍旗を張って鼓楽を連ね、出城した羅特を自ら出迎えてともに軍営に入った。軍営では酒宴を設けて労う。翌日には成都に入って軍民を慰撫し、羅特を
これにより、李雄は成都を陥れ、
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