第八十六回 漢兵は瀛州城を抜く
漢の諸将は
晋兵は
呂苔がこの中に紛れていると察して漢将たちがその
漢将たちは瀛州の城下に軍を進め、
劉聰もすでに盤古溝を渡って心中に喜び、諸将と慶賀している折から先鋒の諸将が瀛州の城を囲んだと軍士が告げ報せ、元帥と軍師を待って軍議を開く旨を報告する。
劉聰と
城下に到って軍営を置くと、諸将も幕舎に入って戦勝を報告し、劉聰は軍功を冊に記して賞を定め終える。
※
翌日から漢将たちはそれぞれ門を分けて攻め寄せたが、呂苔、
劉聰は報告を聞いて憂慮し、張賓に方策を諮る。
「呂苔と郭京は防戦に勉め、堅城の下に斃れる者が多い。軍を進退させる謀も尽きた。どのようにして城を落とすべきであろうか」
「吾もこのことを憂慮しておりました。城の四周を観るところ、東の城壁は新たに修められたのか灰石がまだ固まっておりません。ここから攻め込むことができましょう。弱兵を率いて西南の城壁に攻めかかれば、晋将たちはそちらに気をとられます。東北の城壁の兵は少なくなりましょう。猛将に精鋭を率いさせ、兵士にそれぞれに草一束を持たせます。西南角で砲声が挙がって鬨の声が響くのを合図に、一斉に攻めかかって背後からの
諸将はそれぞれに指示を受けて持ち場に行き、西南の城壁に向かった軍勢は声を
呂苔は郭京、李眷とこの様子を見て言う。
「ともに西南の城壁に行って敵を防がねばなるまい」
郭京が口を開いた。
「西南の城壁は公と李将軍がおられれば敵も手の施しようがありますまい。敵の意図を測るに、西南に吾らを引き付けて東北の角から攻め込もうとしているように思われます。吾は東北に控えて敵が攻めかかってくれば防戦に務めましょう」
「公の言は非常によい。しかし、今はこの門が危急に晒されており、東北に敵の姿はない。吾の考えでは、二人は西南の敵を防ぎ、残る一人は往来して救援に赴けば万一の際にも対処できよう。敵のいないところに備えて危急の場所を棄てる理はあるまい」
呂苔がそう言うと、郭京もその言に従って西南の防戦に向かった。
※
夜も更けて
呂苔、郭京は力を尽くして防戦に勉め、城壁上を駆け回って指揮をとる。
寄せ手の
張賓が大砲を並べて一斉に打ちかけると
この砲撃により城壁の十数か所が崩落し、王彌、劉霊、
▼防牌は盾を意味する。
東北の城壁には守兵が少なく、先ほど大砲を打ちかけられてみな引き退いていた。わずかに残った者たちも弓兵に射竦められ、地に伏せて矢を避けようとする。
楊興寶、夔安、王彌、劉霊の四将は容易く城壁に駆け上がった。
呂苔は東門からの砲声を聞くと、郭京に向かって叫ぶ。
「やはり賊兵の狙いは東北であったか。公はここに踏みとどまれ。吾ら二人が東に行って敵を退ける」
言うや、飛ぶように城壁を駆けて東の城門を目指す。北門を守る李眷は王彌が短刀で晋兵たちを斬り殺していくのを見るや、馬に鞭打ち双刀を舞わせ、王彌を目がけて斬りかかる。
王彌はその斬撃を防牌で防いで食い止めた。
漢兵の多くが城壁に駆け上がって晋兵に斬り込んでいき、晋兵たちも漢兵を城壁から斬り落とす。この勢いに圧されて漢兵たちが怯むと、劉霊、夔安、楊興寶の三将は晋兵を斬り散らして味方を救い、漢兵を城壁に引き上げる。
そこに晋兵たちの大呼が挙がり、見れば呂苔が自ら兵を率いて救援に駆けつけてきた。
劉霊は王彌と李眷が決死の戦をつづけているのを見るや、加勢に駆けつける。李眷は二人を相手に怯む色さえ表さない。そこに漢軍より一人の将が
「
名乗りを挙げると、大鎚を打ち振って李眷の乗馬の前脚を払う。李眷は身を翻して馬を棄て、馬を楯に身を逃れる。王彌は逃がすまいと
小将の
※
駆けつけた呂苔を迎えて楊興寶が五合ほども戦ったところ、夔安と劉霊が加勢して包囲する。呂苔が怯まず戦ううちに鬨の声が大きく響き、
呂苔はもはやこれまでと見切るや、三将と戦いつつ城壁を下って己の
西門にあった黄臣兄弟はそれを見ると馬を馳せて追いすがり、早くも黄臣は呂苔の家眷を食い止める。呂萼は鎗を引っ提げ馬を馳せ、斬り抜けんと図ったところ、黄臣の一刀を受けて馬下に絶命した。黄臣は呂苔の家眷を駆り立てて城下へと引き返す。
郭京はすでに城を棄てて逃れ去った。呂苔もまた城外に逃れ、己が
そこに一将が飛ぶように馬を馳せて叫ぶ。
「呂苔よ、逃げるのを止めよ。黄将軍がお前の家眷を擒としたが、これらをむざむざと陥れるに忍びず、お前を呼び返して会わせてやろうと吾をここに遣わしたのだ」
呂苔が見遣れば、四角い顔に大きな耳、顔は血を注いだように紅く、五柳の鬚に剣のような眉、獅子の鼻の猛将が大刀を手に馬を寄せてくる。
呂苔は単騎であると見るや、罵って言う。
「お前が吾が妻子を擒としたと言うか。お前を生きながら擒として仇に報いなくては、
二人はそれより刃を合わせ、二本の刀は翻る雪片のように閃いて両馬は
黄命は馬を馳せて追いすがり、高く叫んで呼びかける。
「逃げるな。吾を擒として家眷の仇に報いなくてよいのか」
呂苔も背後に追い迫られ、馬を返して戦おうとしたものの、黄命の一刀は過たずその肩骨に打ちあたり、身を翻して馬より落ちる。黄命はつづいて馬から飛び降り、首級を挙げんとしたところ、一人の晋将が
黄命は刀を抜いて馬を立て、待ち受けるところに晋将の背後より声が響く。
「逃げるな、郭京。
その声は劉霊のものであった。郭京が振り返れば、劉霊が猛然と追いすがり、馬を進めれば前には黄命が馬を立てて叫ぶ。
「吾が前を阻む。
郭京は前後に敵を受け、やむなく黄臣の傍らを走り抜けようと図る。
黄臣はそれを見るや、刀を振るって斬り止め、三、四合ほどで郭京を馬下に斬り落とす。そこに劉霊が追いついて、馬より下りて首級を挙げる。
黄臣は馬を返して呂苔の首級を挙げ、瀛州城に馳せ戻って首級を献上した。
「この戦では数万の兵士を損ない、
劉聰はそう言うと、命じて敵将の首級を奉げて戦死者に手向け、祭りが終わると宴席を張って賞賜をおこなう。
その後、使いを立てて首級と文冊を
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