五章 賈后垂簾
第四十二回 賈后は権を奪う
晋の
これにより
ともに出征した
▼侍衛虎賁大将軍は晋代の官職にない。虎賁は禁衛兵、侍衛の総指揮官と考えるのがよい。
▼上谷郡は現在の北京にあたる
▼恩蔭は父の勲功により子が任官されることを意味する。
※
劉淵の子の
▼成都王の司馬穎は武帝司馬炎の第十六子、晋帝司馬衷の弟にあたる。
▼四夷館は異民族からの使者や人質を留め置いた迎賓館と考えればよい。『
諸将の中にあって孟観のみ功に比して賞が軽く、
「吾は元帥の任を受けて出征し、
親しい者にそう口にすることもあり、楊駿を深く恨んだことであった。
※
その楊駿は
しかし、楊駿はその言を
弟の輔佐を欠いた楊駿は、自ら六人の
▼楊駿が置いた官員のうち、参軍は記録を司る記室参軍、軍装に関わる鎧曹参軍などのようにそれぞれの部署の長に相当し、軍府に属する。司馬は軍事の官に発して晋代には三軍を編成する際に軍ごとに司馬を置いた。三部の司馬は三軍それぞれの責任者と考えればよい。従事司馬は架空の官職、漢代より郡国には従事史という官があり、文書管理や綱紀粛正を担った。従事司馬の言うところは、武猛従事のような護衛隊長を想像していたと考えるのがよい。後漢の都尉は郡国の警察や治安維持に関わる官、ここではその意で用いたのであろう。
さらに、私的な腹心と近侍を置いて自らの官職を
楊駿が臨晋侯に封じられた際、
「臨とは『上から下を臨む』の意であり、晋は当代の御世である。よって、『臨晋』とは、『上から当代の御世に望む』という意味になる。皇太后の父が外戚として当代を凌ぐことが許されるはずもない。不祥の名であり、禍はこの人から始まることだろう」
明知とは恐ろしいもので、この批判は後に現実のものとなっていった。
※
楊駿が朝政を握って以来、大臣にもその意に逆らう者はない。ただ、晋帝の皇后である
晋帝は賈氏の言葉を疑うことなく、ゆえに楊駿もただ賈氏を畏れ、多くの朝臣を己の私党とするだけでなく、禁衛の兵権を自ら握り、いざとなれば賈氏の身柄を捕らえるつもりであった。
「私党を広げて疑惑を生じれば、由なき批判を招いて輿論の支持は得られますまい」
それでも、楊駿はその言を納れる器量を欠いた。
また、楊駿の叔母の子に
高所に立てば墜落の
※
その折から、賈后が
楊駿は甚だ不平に感じ、府に戻って僚属と計議し、賈后を朝会の場から除くよう上奏することとした。楊珧、楊濟は厳しく諌めたが、楊駿は耳を貸さない。
一日、早朝より宮城に入れば、賈后が御簾の内に坐して政事を執っている。それを見た楊駿は進み出て次のように上奏した。
「天に
晋帝は黙然として答えない。
楊駿は晋帝の懦弱を熟知しており、後宮に退くよう重ねて賈后に言上する。賈后に従うつもりはなかったが、楊駿の左右には文武の百官が威風堂々と侍立している。満座の中で引きずり出される恥辱を被れば
※
後宮に還った後も鬱々として気が晴れず、それが面に表れた。宦官である
▼黄門常侍は架空の官職、黄門は宮門または官署を意味し、漢代には侍衛の官であったが、後漢になると宦官を指すようになり、中黄門、黄門侍郎などが置かれた。ここでは側近の官にある宦官の意味で使われていると考えるのがよい。
「皇后陛下は一国の
「お前ごときに妾の気持ちが分かろうはずもない。楊駿の老賊めが殿上で妾を辱めたのだ。この恨みにどうにか報いたいが、さしあたっては如何ともしがたい。それでこのように煩悶しておるのだ」
「陛下は後宮の深奥におられる身、御一人で考えられても御心は安んじられますまい。どうしても宰相に報いたいと思し召されるなら、百官より知計ある者を選んでその者に諮られれば、事も成就いたしましょう」
賈后が董猛の言葉に食いつく。
「妾では思いつかないところであった。お前が妾のために誰か一人を選んでおくれ」
「心当たりが一人おります。禁衛兵を統べる孟観という者です。この者は見識と謀画の才に富み、先に齊萬年という
賈后に異論はなく、
※
董猛は禁衛兵の省府に赴き、孟観に面会を求めた。
「董大人は皇后の
孟観の様子を見るに、来訪を
「ここに参りましたのは、皇后陛下の密命によるものです」
言うと、密書を呈して孟観が目を通している間もその耳に語を注ぐ。
「将軍に後宮までお運び頂き、一大事を御相談したいとの思し召しにございます」
密書を読み終わった孟観が問う。
「皇后陛下は後宮の深奥におられる身、どのような一大事があるのでしょうか」
「将軍を陥れようなどとは夢にも思っておりません。朝会の坐に皇后陛下が居られ、それを
孟観も楊駿への恨みに報いたいと考えていたところであったが、事を起こす
「卿は智謀に優れた士と聞き及ぶ。妾は楊駿に辱められて心に恨みを持っておる。妾がため、恨みを雪ぐ策を廻らせて欲しい。事が成った暁には、重賞をもって報いよう」
孟観は楊駿が無知で謀りやすいと観ており、一計を献策した。
「今や朝廷にあって楊駿の私党に
▼楚王の司馬暐は武帝司馬炎の第五子、晋帝司馬衷の弟にあたる。
「楚王は軍勢を率いた経験がない。楊駿の威権を恐れて拒んだ際はどうするのか」
皇后が懸念し、孟観が答える。
「臣には別に一計があり、陛下の御懸念には及びません」
賈后はその言葉を納れて
▼まめ知識:第四十二回終了時点での皇室関係者
帝室
皇帝:司馬衷
皇后:賈南風
太后:
太子:司馬遹
執政:楊駿
八王
汝南王:司馬亮
楚 王:司馬瑋
趙 王:司馬倫
斉 王:司馬冏
長沙王:司馬乂
河間王:司馬顒
成都王:司馬穎
東海王:司馬越
その他親王
瑯琊王:司馬睿
梁 王:司馬肜
南陽王:司馬模
呉 王:司馬晏
淮南王:司馬允
范陽王:司馬虓
東瀛公:司馬騰
東安王:司馬繇
新野公:司馬歆
予章郡王:司馬熾
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